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武侠少女!絹之大陸交易路を往く!?  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
2章
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気軽に婆ぁとお呼び下され、ヒヒヒヒヒヒ

「遨家総帥殿、久しぶりに御座います。お忘れか、墨の婆ぁに御座います、遨家総帥殿、本当に本当にお久しぶりです、最後に会われたのは、そうそう、今年の年始挨拶の時でしたな。

 してみるとそれほど久しぶりでも有りませんでしたな、大変失礼をば。

 今年は大層冷え込みましたな、経絡使いは暑さ寒さに強いとはいえ、寄る年波には勝てません、遨家の御当主様も齢九十を迎えれば分かりますとも。

 さて、遨家御当主様、この度、不埒な奴腹が御当主様の娘子に暴虐な振る舞いに及んだとか、なんたる無道、なんたる悪逆、この墨の婆ぁは孫から、いや曾孫だったか、歳は取りたく有りませんなぁ、から報せを受けて怒髪天を衝く思いで我が門下百名を引き連れ、馳せ参じた次第に御座います」


 大柄な老婆だ、ボソボソといった感じで話すのだが。不思議と声が通る。


 老婆には老婆だが、とても九十には見えない。精々が還暦だろうか、足腰もしっかりとし、歯並びも良い。


「ご苦労、此度は世話になる」


「なにを仰る、誠に畏れ多い事ながら、遨家御当主様は、この婆ぁの系譜を継がれた大事な大事な後継者、言わばこの婆ぁの娘とも呼べる御方、その大事な大事な娘の娘子ならば、この婆ぁの孫とも言うべき御子。

 ううむ、遨家御当主様、ひょっとしてひょっとすれば、その御子とは、我等を継がれる御子であるのか、はたまた遨家を継がれるだけの御子で有られるのか」


「両方だ、俺はそのつもりだ、俺の全てを伝える、俺の全てを譲る」


「おお、おお、有り難し、有り難し。女人拳が継承されるとは、この婆ぁはついに遨家御当主様以外の女人拳の継承者をば得ること叶わなんだ、それがこうして遨家御当主様の御子に継承されるとは、有り難し、有り難し。

 ……と、なれば、御子に危害を加えし痴れ者は、生かしては為になりませぬな、遨家御当主様、何卒この婆ぁに先陣を賜ります事を、殺して殺して殺して殺して参りますとも、ウヒヒヒヒイヒヒヒヒ」


「婆様、落ち着け物騒な。郭殿、説明は要らないで有ろうが、墨家極拳総帥、墨紗蘭殿だ。妖怪みたいな婆様だから、言動に惑わされない様に」


 京馨は墨紗蘭に向き直り郭价を紹介する。


「婆様、洛都治安維持警邏局副総監、郭价殿だ、俺の外弟子だ」


「紹介に預かった墨紗蘭です、気軽に婆ぁとでもお呼び下され」


 爺、婆は蔑称ではない、むしろ尊称である。しかし、“ぁ”が余計で間延びした感じが揶揄している様に聞こえる。


「いえ婆様、遨老師に習いましょう。郭价で御座る、以後よしなに」


「はい、はい、郭价様。はて、郭家の御方か、婆ぁの記憶では郭様、郭淮様の御子は全て女子で在られた筈。

 有り難い事に墨家の門を叩いて下されて、久方ぶりの女子の入門に、この婆ぁも奮起したものでしたが、誠に、武の世界は門戸が狭く兎歩の功練……」


「婆様、話が長すぎる。俺は忙しい、賊の討伐に向かう、王、一門の者に案内させよ」


 李以外の王慶門下二十一名は門内で待機している、案内とは細作を暗に指す、彼等も穏社なのだから、王慶門下としてもあながち外れでは無い。


 京馨は黄文書に礼を述べ、賊討伐に向かった。


 王慶門下、墨家一門、二個警邏中隊で三百六十名の集団となった。


 郭价は大隊で派遣されている、残りの警邏中隊を配下に指揮させ、治安安定に努める。


 黄家中庭に転がされていた黒幇者は、次々と檻車に積まれ運ばれていった。


 無宿、無縁人狩で、慣れた動作だ。


 刻は僅に遡る。


 命辛々、這々の体で包配下の黒幇者は、庖建築土工組合所に逃げ帰った。

 総勢五百の組合員人工や、無宿人、金で集めた浮浪者が、僅かな護衛に壊滅させられた。


 逃げ帰った黒幇者は、護衛の尋常でない強さに早々に遁走を図ったのだ。


 衆を頼み、暴に溺れた、有る意味正直な人間達だ、自分達を上回る猛者に慄き、飼い主の所に逃げ帰ったのだ。


 作戦は失敗だ、暴徒を誘導し、目標を囲みそのドサクサで毋可馨なる女孩を誘拐するという、作戦とも呼べない雑な策だ。


 ただ、これまでは数の力で成功してきた。


 暴動を装う事で警邏の捜索を困難とし、庖が裏から手を回す事により、捜索自体をうやむやにしてきたのだ。


 天湊では、やりたい放題で有った。警邏局に手を回せる事で、確かに庖に、貴人との繋がりが有る事は知れる。


 似たような手口で、天湊だけでなく、態々出張った洛都でも士族、大夫階級の縁家を貶めてきた。


 だから、平民階級の毋の、ましてやその家人など考慮の外で、唯の交渉手札としか認識して居なかったのだ。


 逃げ帰った黒幇者は、云わば作戦の核とも呼べる者達で、黒幇組織内でも上位に有る。天湊黒幇の、有力頭目である包に近い者達だ。

 報告をしなければならない。


 どの組織でも、失敗報告は嫌な物だ。出来ることなら避けたいが、兄弟達が何名か囚われた。


 庖大老に報告しない事には、兄弟達を救う手立てが無い。


 結果、ぞろぞろと連れだって報告に向かった。


 庖土工組合事業所は、洛都北西第一坊の貧民街に所在した。如何にもな感じがするが、単純にここは地価が安く、また土木人工(にんく)の生活域で、他にも土木組合は点在している。


 此方の組合は、支部である、本部は天湊だ、国家事業である土木工事は、莫大な金が動く。


 大手土木組合なら、支部を備えて当然だ。これは何も庖の組合に限った話では無い。


 庖の組合在所は、直系事業所、準直系事業所、特別協力事業所とで、常に三十程の事業所が(ひしめ)いていた、人員はおよそ五百、その内過半数の土木人工が今回の暴動に投入された。


 また、無宿人や浮浪者は、近所でいくらでも集められるので、僅かな手間賃で雇い入れた。


 立地条件的に治安が良いとは言えず、敷地は頑強な土塀で囲まれている、そこら辺は本職だ、造りは強固で、盗賊や本物の暴徒を寄せ付けない。


 その敷地内で、比較的豪華な二階屋の屋敷に、庖は鎮座していた、報告待ちだ。


 黒幇のそれも大哥と呼ばれる者達が雁首をそろえた、その何れも精彩に欠ける。誰も口火を切ろうとはしない。


 埒が空かないので庖が尋ねた。


「何だお前達その様は、閻は何処だ、何故報告に来ない」


「その、閻大哥ですが……死にました」


「何だと、何故だ」


 別の者がそれに答えた。


「小娘に矢鱈と強い護衛が付いていたんで。閻の兄貴はその護衛にあっさり殺されました。

 大老、ありゃ無理ですぜ、化物だ」


「チッ護衛が一人居たと聞いていたが、閻が殺られたか。ならば袁はどうした、小娘を拐っては来たのか」


「いや大老、袁大哥は捕まりやした、あいつら矢鱈と強い、腕自慢の大哥でしたが、一撃で伸されて、後は簀巻きでした」


 また別の者が答えた。


「何だ、あいつらって、一人じゃ無いのか?」


「分かりやせん、ただ、一人二人じゃありやせん、こっちは命辛々逃げ帰った次第でやして。

 大老、ありゃ手出ししちゃなんねぇ類いの手合いだ、何人死んだかな」


「………おい、手前達、まさかガキ一匹拐ってこれなかったと言う気じゃねぇだろうな」


 都合が悪くなると、黙り込む様な手合いだ。庖が怒鳴る。


「巫山戯んな!五百だぞ五百!五百出して小娘一人拐ってこれねぇだと!殺すぞ手前等!」


「……ありゃ極拳だ……大老。しかも下っ端じゃ無い、達人だ、それが何人も。

 大老はそう言うが、その場で見てたら大老だって逃げた筈だぜ、次々と兄弟達が打殺されていった、死んだのは十や二十じゃないんだぜ」


「馬鹿野郎!」

 庖は卓上の文鎮を引ったくると、今返答した者目掛けて投げ付けた。

 しかしあっさり躱されて激昂する。


「巫山戯んな手前!十や二十じゃ無ぇだぁ、五百だ五百!五百居て何寝惚けた事ぬかしやがる!何人死んだってんだ!言ってみやがれ!」


「落ち着いてくれ大老、いま兄弟が言った事は本当の事だ。

 多分半数は殺されるなり、捕まったりした、死体の山だったんだぜ。奴等に捕まった兄弟達も多い、警邏に突き出されたら此処が割れる」


「チッ!大袈裟ぬかしやがる。だが、捕まったか、不味いな。おい、残りの手合いをかき集めて取り返せないか」


 ヤクザ達が何か言い掛けた所に、下っ端が注進に入る。


「し、失礼します!変な奴等が、敷地を囲っています、包囲されています、あれは極拳だ、逃げられない」


 この下っ端は地元洛都の生まれだ、だから分かる、極拳の恐ろしさが。


 洛都武林の中で最も凶悪なのが()()()()だ。


 だが、現在敷地を囲っているのは遨家極拳の高弟一門衆である。


 これはこれで最悪な事態である、遨家は高位朝臣家だ、それに囲まれるとは朝敵認定されたと云う事だが、そこまで知恵が回る者は此処には居なかった。


 そして、最悪最凶の一団が最強の拳士と共に訪れる事となる。

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