人造人怪異譚、懐かしい話を言うね
海神の下賜の魚が、干物にするくらいに捕れている。
だから釣果はどうでもいい。いや、折角だから釣れれば良い。
釣り自体を楽しめれば良いと、簡単に考えたのだが……
……暇だ。
(……暇ね)
性分的に釣りは合わない。これだったら三か士を海に飛び込ませて、デッカイ魚か何かを捕らせてきた方が面白い気がする。
亀なんかどうだろうか?昔食べたが味まで覚えていない。
(さっきの船員料理人が、亀を捌けるかどうか分からないから止めときな)
大丈夫じゃない?魚を捌ける位だし、似た様なものだろ?
(分からないけど、次から次へと妙な事ばかりしていると気味悪がられるよ。そうで無くても、大物ヤクザだったり巫女だったり思われているし)
釣りの道具は船長に借りた。善順の船賃を払う時に暇潰しを聞いたのだ。
賽子や札博打の道具なんかも揃っているが、賭事は……わたしはやらない事にしている。
熱くなり過ぎて駄目だ。大昔楊親分に賭場に連れていってもらったが、結局乱闘になった。
(大昔って……あと士を使ってイカサマをしたのは…)
それは違う。わたしが黒靈を使役している事を見破れない方が悪い、バレなければイカサマでは無い。だから難癖つけてきた方が悪い。
つまりわたしは全然悪くない。
楊親分とは、本人曰く博徒だ、ヤクザでは無い。どこぞに所属している訳でも、一家を構えている訳でもないが、侠者だ。黄叔叔に紹介してもらった。
顔が広いので、独り暮らしの際下宿先を当たってもらったのだ。
親分と呼ぶと嫌がるので、わたしは親しみ半分からかい半分で楊親分と呼んでいた。
侠者の仕来たりなどを教わった、わたしの渡世上の兄貴分だ。
船の後部で釣糸を垂れていた。糸が絡まない様に等分間隔だ、まあ、干物の関係で等分分割されたとも言うが。
釣りに飽きたわたしは、釣竿を畳みマルコ君に寄った。話し相手になってもらおうか。
(何故にマルちゃん?善順は?)
わたしが人見知りなのを知っているだろが、奴を庇護すると決めたが、人柄を把握しきっている訳じゃないからな。
マルコ君とは二月以上の付き合いがある。
それに聞きたい事も有るし。
善順の方を見ると、静かに釣糸を垂らした海面を眺めている。
香湊生まれの善順は海釣りの経験が有るそうだが、移動中の輸送船からの釣りなど経験有るまい。
ただ、わたしとは短気の質が違うのか、静かな物だ。
船の事は勝手が分からないが、微速で進んではいる、風が弱いのか?
艪が積んで有る、無風では漕ぐのかな?
(落ち着きが無いね)
まあね、船旅は初めてだ。徒歩だと連経歩で歩けて楽しいから暇を感じないが、船だと暇だ。
「マルコ君は船旅は初めてでは無いんだろ」
わたしの接近に気付いて竿を上げた。そこまで気を使う事は無いのにね。
「はい、地理は不案内なので、どこをどう通ったのかは分かりませんが」
「それなんだが、西域のローマヌスがマルコ君の故郷と聞いたが、どれだけ遠いんだい。そもそも海路だけでたどり着くのかい?」
考えてみたら、元々広州の香湊までの護衛依頼だったから、その後の旅路は考えてみた事も無かった。
「いえ、陸路と海路でしたよ。と言うより海路を行く為に要所要所で陸路を進む感じでしたよ」
「要所要所とはなんだい?」
「色々ですね、海峡を跨ぐ為だったり、海賊を避ける為だったり、世情の安定した国々にを通過する為だったり、基本高級商品でしたから素通りはしないんです。
途中二回売られましたので、時間的な移動距離までは分かりませんね」
「何か悪い事聞いたかな、済まない」
「いえ、胡姐と師匠には話しておきたかったのです、お二人の事ばかり聞いてばかりでは、申し訳ありません」
「そうか、ならば幾つか聞きたい事が有ったから尋ねるけれど、話したく無い事ならば答えなくても良いよ。小姐、善順」
(了、ただあんまり強くはしないから、大声は出さないでよ)
士を霧状態にして、善順に纏わりつかせた。元々不可視だが、用度上必要だ。周兄を拘束する時にした術で、視界と聴覚を塞ぐ。
今回は聴覚を軽く塞ぐだけだ、なにやら釣りに集中しているみたいなので聴覚違和には気がつかないだろう。
因みに今わたしは例の二角帽子で午朗を纏っている。
三は現在不安定なので、使役せずにそこらで遊ばせているのだ。主格が安定しないそうだ。
(今更、付きっきりと云う訳にはいかないのよ、白太郎への分靈が響いたね。それよか、施術済みよ)
「凄いですね、師匠。どんな術なのか分かりませんが、黒靈、士ですか?が散りましたね」
「いや、凄いのはマルコ君だ、もう黒靈を感知できるんだ」
「感知自体はこの体になった時からしてましたが、実際見える様になるとは思ってもみませんでした」
(大姐、私と同じでね、マル吾子も混ざっているのよ。マルちゃん、その辺りの頃の記憶は有る?)
「……毒殺された事は覚えています。何かの術の為なのか、それまで何度か薬品を飲まされました。
意識が遠退く事がしばしばで、薬の被検体の為に買われたのかと思っていました」
(意識が無い間に何か施術されていたのかな?痕跡は………ああ、体が違うのか)
「目が覚めても、多少の倦怠感を感じるだけで特に他には大事無かったです。大体、一年近く薬を飲まされました。
……何時もの如く薬を飲まされたら、やけに苦しくて……多分その時に死にました」
(……意識は何処で戻ったの?)
おいおい、小姐……
(大姐、重要な点よ、わたしは瓶の中、黒靈の殻の中だった。時間の経過は分からなかったけど、黒靈を勝手に使役できた頃から外の様子が分かった、大体死後一年位だった)
つまり?
(マル吾子の言動からして、黒靈を使役出来ていないから、死後それほど経たずに反魂したんじゃないかな、黒靈がある程度混じらないと使役出来ないから)
「いえ、師匠。気がついたらこの体でした。最初は何時もの通り、気を失っただけだと思いましたから」
(………保管はされていない?でも、黒靈は混じっている?何よりも反魂が成功している?新しい体の魂は?新しい体は離魂済みの死体?……)
おい、小姐?
(そんな馬鹿な!あり得ない!ある筈が無い!旱導師!一体何をした!)
おい、小姐、落ち着け!
(これが落ち着ける訳が無い!つまりマル君が他者死体への反魂成功体じゃない!)
いや、だから違うって。完成してないから、わたし達を回収しようと今回仕組まれたんじゃないか、そう言ったばっかだぞ。
(あ……そうだった。じゃあマル吾子は?)
話からだと、そもそも死亡したかも不明だ。“人造人怪異譚”じゃないけど、元々の体を今の外見に改造しただけかも知れないし。
(ムッ……黒靈術に人体改良法が有るから、あり得るかも……導師も黒靈を体循環させているのはその術法だから……だとしたら、マル君に黒靈が混ざっているのはその術法の為……いやでも何の為に……)
まあ、考えていてくれ。わたしはわたしでマルコ君に聞きたい事が有るから。
「なあ、マルコ君。小姐は思考没頭し始めたから放置するけど、わたしは前から君に聞きたい事が有った」
「はい、何でしょう」
「マルコ君は上流階級の出自だろ、何故売られたんだ?あと、かなり流暢にこの国の言葉を話すけれど、導師の所で覚えたのかい」




