なあ、小姐。マルコ君のどこが作り物の体なんだろう。
船長を見つけ善順を解放した、船賃は金二両だ、思ったより安い、わたし達の船賃よりは割高だが急遽変更したのだから当然だ。
周大人からの餞別から支払ったが、かなり余る。
金十両有ったのだ。
マルコ君の手付金額が金二十両だったから、複雑だ。
(まあ、南遨老師への伝を作ってくれた謝礼みたいな物だからね、商売家だからそれだけ感謝したと理解しよう、何せ朱華娘娘の同窓子女はそうそうたる面子だからね)
広州知事と広州軍轄司令とその関係家、大手商家の子女だったか。周家はヤクザ商家なんだが大丈夫かいな。
(だから感謝が大きいんだよ、どうも大姐は遨家の三品官を軽く考え過ぎている、官位は各州知事と同格なんだよ、その遨家からの推薦なんだからね)
周兄がそんな事を言っていたな。まあ、そんな物か。
暇なので善順の功練具合を観る事にした。
元々南遨極拳高派拳士だが、高師範からは破門されているから、わたしが面倒を見ても問題無い。
わたしの見立では中級位と見たが違った。拳士に成り立ての初級拳士だ。となると疑問が残る。
「善順、粘身功……近接戦は誰から教わった、お前の近接戦闘は対粘身功用だ、初級拳士では先ず教えない」
発経打だ、打点さえ得られれば勝負はつく。なので態々打点を取られやすい近接戦闘は、普通の体格ならば忌避する。
初級拳士は、徹底して化経を功練する。同時に内硬功もだ、この頃は歩様も何も、打に経を乗せる事で精一杯だ。
意識して連経するので、折角の連経が活脈から活流に転じられない。反復経を拾えないから攻性活脈が単発で終わる。
連経は他動作が加わると、とたんに難易度が高くなる。
なので、高等戦闘術とも言うべき粘身功の対抗近接戦闘など、少なくとも息する様に連経できなければ出来る芸当では無い。
そう、善順のそれは粘身功では無い、だから修練の前提が妙なのだ、並み以上の体躯なら、先ず己の間合いで闘うのが常道だ。
「はい、これは高師範からでは無く、ちち……南遨老師から手解きを受けました。
何でも手も足も出ない間合いからの脱出反撃戦法として、ですが」
成る程、母さまか。亮順様は余程母さまと鍛練を積んだのだな。
強兎歩の件といい、母さまは苦手だったのだろう。
母さまもわたしと同じく小柄だ、なので粘身功を修めており、わたしもそれに習った。
ただ、小柄同士で粘身功の組み手をしても、余り得る物もないので、もっぱら黄姐が組み手相手だった。
母さまは近接戦闘だけでなく、長打も得意とし疾駆打からの牽制、短打、疾駆離脱とした長中距離の歩様も得手としていた。
連経や練歩での歩様だ、全く活流が途切れないから、疲労のしようがない。
基本、三歩拍だが、相手の所作、動作で次練歩で攻性活流を繋いだり、三練歩で縮地走に活動したりと、変幻自在だ。
最大出力の三練歩での攻性活流に囚われないのだ。
わたしは牽制、間合い詰めに疾駆打を用い、粘身で仕留める活流だ。
それに付き合って功練した黄姐は、自然的に化経に傾いた。近接練化経とでも言うべきか。
わたしの短打をいなす為に、歩様がそれに特化している。
基本動かない、ほぼ足踏みだけで練歩を完成させるのだ、なので読みにくい、粘身だと尚更だった。
化経練歩だ、わたしには扱えない。化経でありながら浸透し、気が付いた頃には痺れて発経、連経不能だ。
流石は黄姐だと、感心した物だった、因みにこの活流歩様は黄姐が編み出した独自活流だ。
善順の、いや、南遨老師の粘身経打対策は、黄姐程の物ではなく、あくまでも自分の間合いを作る為に捌く活動が主目的だ。
善順のは練功不足であったが、理には叶っていた。
張り付かせない、張り付かれたら経打牽制の離脱。中段に掌を置き牽制や攻打に変化させる。
黄姐の防御主体の活流で無く、攻性離脱主体の活流だ。
長じれば短打から長打まで対応する、万能型の活流になるだろうが、善順には向かない。
善順は単純だ、馬鹿の強味で気脈が強い。言い換えれば短気だ。
積極的攻性活流が向くだろう。だからわたしの活流が性格的に合うだろうが、背丈が違う。
王師兄の活流を真似てみるか。と、言うか母さまの歩様に王師兄の所作を当てはめるか、体格が似ているし。
それでは、先ずはと。
「それでは鍛練を始めよう、船上で足元が不安定に感じる内は充分な練功ではない。導引が充分だと、体重心は下がり安定する」
「「はい」」と、返事が被る。マルコ君も加わるのだ。
右足、
左足、
右足揃え。
左足、
右足、
左足揃え。
やはり楽しい。わたしの三拍詩歌は祝詞なので歌えない。本日二度目の御降臨となっても困る。
なので鼻唄だ、これは子供の時からの癖だ。
チラと二人を見る。善順は当然問題無い。経歩を踏めるのだ。兎歩で躓いたら逆に問題だ。
マルコ君はまだ初心者だ、だが、小姐から左道の手解きを受けている。妙な癖がつかないようにしないとな。
(いや、流石に私も余計はしないよ、と言うか黒靈術はそんな簡単に会得しないから、私みたいにはならないよ。
兎歩経絡の手解きに留めるよ)
ならば、昔わたしにしたみたいに、絡の流れが見える様にしてくれれば理解が早い。
(了。ただ白太郎にもう少し私を混ぜないと難しいかな)
そこら辺は任せるよ。
……しかし………
(うん、本当に綺麗な子ねぇ♪)
いや、そうじゃなくて、……マルコ君の、どこが作り物なんだ?わたしには普通の少年に見える、全の奴は、何でマルコ君が作り物の体などと言っていたんだ?
(でも、マル吾子自身が他人の体と言っていたしねぇ、私みたいに、別人の体に宿っているのよきっと)
でも、それなら反魂なんだから、作り物の身体などとは言わないだろ、そもそも体なんて作れる物なのか?手足を継ぎ接ぎして首を繋いで?
(昔読んでいた恐怖系の冊子ねそれ。人造人怪異譚だったか。
ウ~ンどうだろう?肉体が損壊すれば簡単に離魂するからねぇ、一度離魂すると体に戻れない。
体と魂は不可分だから肉体を寄せ集めても、移魂なんて出来ないよ)
そうなんだ、流石は小姐だな。
(………いや、昔大姐が私に示唆してくれた事なんだけどね、“それって当たり前なんじゃ”ってさ)
そうか、流石はわたしだな。
(………まあ、話を戻すけど、私が提供した情報から、旱導師が人造体に別人の魂を移魂する方法を編み出したのかも知れない。
嫌な言い方をするならば、死体に魂を宿らせる技術を生み出したのかも)
それはどうだろう?
(何故よ、そう考えればマル吾子に一つしか意識が無い事の説明がつくし、大姐は評価が低いけど、旱導師は反魂術の、いや、左道術全般の天才だからあり得るのよ)
だからさ、もしその作り物の体に魂を移す事に成功していたら、今回こんな手間暇かけて、わたし達を誘拐しようとしないだろ。成功しているんだから。
(あっ!そうか。成功していないから反魂成功例の私達を回収しようとしたんだっけ)
………たまに思うんだが、小姐は矢鱈と呑気だな。あの時だって、士が教えてくれなければ、今頃はどうなっていたのか分からないんだぜぇ。
(それを大姐が言うかぁ、まあ油断していた事は確かだけど)
油断と言うか、鼻の下を伸ばしていただけなんじゃ……
「あの、胡師匠。食事だそうですが……」
フッと我に返る、マルコ君が声を掛けてくれなければ、際限無く兎歩を踏んでいる所だ。
日の高さからして半刻(一時間)近く兎歩を踏んでいただろう。流石にマルコ君は体力の限界か。善順も大汗をかいている、功練が足りんな。
船員料理人が、態々と朝食を持ってきてくれていた、済まない事だ。
「済まないな、考え事をしていて止め時を誤った。態々配食済まない、次からは食堂へ行くから勘弁してくれ」
この日は結局これ以上の鍛練は出来なかった、件の海神の下賜を、干物とする為に場所を取られたからだ。
だから朝食後は釣りを楽しむ事にした。
連休最終日ですね、終わってみたら、あっという間ですね。
通常の変則隔日投稿に戻ります、またストックが貯まったら連続投稿しますね、では。




