コロコロって?何ですか?この国の言葉は難しいですね
「おはようございます、胡姐。騒がしいけれど何か有ったのですか?」
「やあ、おはようマルコ君。何やら豊漁の様だ、昼には新鮮な魚が食べれるだろう。船長見なかったかい」
船上だから時刻は分からないが、多分辰の刻(午前7時)頃だろう。何だかんだで一刻だ、朝食は辰の正刻(午前8時)と聞いたからまだ時間がある。
船員は今頃から順に朝食だそうだが、わたし達は客だ、落ち着いた頃に別内容の食事だろう。
「豊漁?ですか?輸送船ですよね」
小首をかしげる、愛らしい仕草だ。
いや、小姐、嫌がられるから止めておけ。
「何でもたまに有るそうだ、鯨や海豚なんかが浅瀬に打ち上げられる事もあるそうな、海神の御下賜と云う現象だ」
(何でそんな妙な嘘を)
説明が面倒だ、それに黄叔叔から聞いた事がある。あながち嘘でもないよ、黻陵様が顕現されて起こった現象みたいだね。
「それです!胡様、あれは一体どの様な現象なのです、ち…南遨様からは、胡様は巫女に在られると聞きましたが、神をその身に降ろされたのでしょうか?」
余計な事を、まあ良いか。マルコ君は昨日の如娥様を見ている事だし。
「まあそうだ、昨日の如娥様とは別だが……いや同じか、神様と云うのも難儀なものなんだな。昨日の件で再び御降臨された。畏れ多い事だ」
(何か余り畏れている風でも無いね、不敬だよ大姐)
ムッ、その通りだな、何故かな……簪の印のせいかな?畏れより親しみの方を多く感じる。
何と言うか、銀の簪が生きている様に思える、愛着と言うより愛情を感じるよ、小姐はどうだ?
(いや、そこまでは。ただ、黻陵様が印を付けられたと知っているから、神器としては認識している。
ふーん主観の違いからかな?大姐の気持ちは伝わるから分かるけど、私はそこまでじゃないかな)
「昨日の奇跡ですか……胡姐は一体何者なのですか?」
(一言で言うなら、悪食親爺小娘だよ)
色々すっ飛ばして妙な要素だけ取り出すな、戯け。
「如娥様、黻陵様の件はわたしにも不可抗力だが、まあ左道拳士……いや、さっき良い名称が決まった。巫祝巫女と名乗ろう」
(えー変だよそれ、大姐は拳士だよ、それが抜けてる)
極拳は巫祝踊女が始めたから、それほど妙でも無いさ。それに船長に言われて気がついたが、確かに女宣教師に似た身形りだ。正体がボヤけてちょうど良い。
「巫祝巫女ですか、確かに胡様の風貌は胡人宣教師に似てはいますが……」
「善順は反対か、まあ分からないでも無いが考えが有っての事だ」
(嘘だ、言葉の響きが気に入っただけだ)
嘘じゃ無いよ、虚実を織り混ぜるのが策と云うやつだよ、母さまが普段からしている詐術だよ、実体のわたしを暈す為だよ、侮られる位がやり易いんだよ。お分かり?
「そうですか……それより胡様、こちらの少年ですが、未だ紹介が済んではおりません。自己紹介をして宜しいでしょうか」
本来ならば昨日の内に済ますべき事だが、出航すると、善順はとっとと船長に引っ張られて行ったし、面倒だったので後回しにしていたら忘れていた。
「待て、わたしが紹介しよう」
妙な事を口走られても困る。マルコ君がどの程度この国の風習を理解しているのかも分からない。
善順は馬鹿だが、一応御曹司だ、育ちは良い。マルコ君を下に見る様な言動が有ると、わたし達は多分キレる。
(同意である。ガブッとやるね)
だから、マルコ君の立場を知らす意味で、マルコ君に善順を紹介する。
挨拶は下位の者が上位の者にするのが習わしだ。紹介も同様で、仲介者が判断し序列付けをする。
「マルコ君、詳しい経緯は南遨家の秘匿事項に触れるだろうから言えないが、彼は善順。
南遨家を追放されて、わたしが庇護する事になった。洛都の極武館で預かる事にした」
そして今度は善順の方を向く。
「善順、この少年はマルコ君だ。わたしの雇用主だ。本来ならば広州に送り届けるまでの契約だが、色々あって破棄となった。その弁済の為にわたしは共に行動をしている。
くれぐれも無礼の無い様にな。
そうそう、極拳のわたしの直弟子でもある、左道術も手解きをしている」
左道、の所でピクリと反応するが、わたしの神々しい様は目撃済みだ。今更前科二犯が三になるだけで、大騒ぎするほどの事もない、それより小姐。
(マルコちゃん、大姐の話に合わせてね。善順は善きにつけ悪きにつけ単純だから、マル君の素性を知ると軽んじるかも知れない。
したら私達はキレて善順コロコロしちゃうかも知れないから、まあお互いの為にね♪)
(コロコロって?なんですか?私はお二人を信頼していますからそうしますけれど)
(まあまあ、嬉しい事を言ってくれるね♪そうそう、私もね、さっき兎歩経絡を成功させてね、コツが分かったからマル吾子にもやり方を……)
だからしつこいと嫌われるぞ狐。マルコ君に返事をさせてくれ、善順が挨拶できない。
一度洛都まで出直すとか何とかで。
(了。マルちゃん、……マルちゃんってのも新鮮な響きねぇ、ねぇマル吾子とマルちゃん、あとマル君。どれが好み、私としては……)
狐!余計な話は後にしろ!
(いいじゃない、善順なんか待たせれば。それよりマルちゃん、うん、マル吾子よりしっくりかな)
(いえ、師匠、マルコと呼び捨てて下さい、それから師匠、師匠は胡姐と会話されているのですか?
目の前に胡姐がいるのに、私との会話は師匠とで、師匠は胡姐と私と会話をされている。
何とも妙な感じです)
(それも白太郎のお陰ね、白太郎には私の魂も混ざっているから………)
おい、小姐、マルコ君にだな、何か言わせてくれ、そろそろ、怒りますよ、本当に。
(仕方ないね。あのね、マルちゃん、マルちゃんは一度洛都に戻って支度を整える設定にして欲しいのよ、大姐はマルちゃんの護衛設定を通したいみたいだね。……何で?)
何でも何も、小姐が言ったんだぞ、善順は上下関係がはっきりすれば従順だと。
だからマルコ君には引き続いて護衛依頼人設定をして、わたしがマルコ君の下位に有るとすれば善順もマルコ君を侮る事も無い。
(長い、簡潔に……いや、冗談、そんな怒んなくても。まあ、マルちゃん、マル吾子は私達の依頼人立場で鷹揚にしていて、それから善順に声を掛けてあげて)
(わかりました師匠)
わたしと小姐の通話は瞬時だが、小姐とマルコ君との対話は、通常会話程度の時間経過は有る。
なので、善順はマルコ君の声掛かり待ちで待機状態だ。………何か本当に犬の“待て”みたいだな。
幸いマルコ君は品が有る、言葉使いもそうだが、動作に卑屈さが無い。やはり出自は正しかろう、単純な善順は疑う事すらしないだろう。
………何故にマルコ君は奴隷など。
簡単にだが、マルコ君と善順が互いに挨拶をしてようやく序列は定まった。
さて、かなり脱線してしまったが船長を探してと。
隣の客室が空いていた様だから、善順はそこに押し込めようか。




