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武侠少女!絹之大陸交易路を往く!?  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
2章
70/156

わたしは……何も知らない……馬鹿だ

「成りましたって、どういう事。…ですか」


 たった今決まった様な言い方だった。


「小馨様、体の中心は一定では無いのですよ。しかも小馨様はこれから成長なさいます。位置も変わります。

 今の所はこれが理由です、ただ、大切な事なので、今思われた中心位置だけは忘れない様にして下さい」


「黄、さっきから小馨様に戻っているぞ。小馨、黄の言う通りだ、血液の流れの始点が、臍の下とは考え難いかもしれないが、漠然と体幹とするより体得が早い」


 そう言って老師は黄師兄に向いた。


「黄、見事だ。つい先日初発経を果たしたばかりとは思えない解だ。小馨の功練も見極めている、黄に小馨を預けて正解だった」


 黄師兄は差手で傾首する。

「老師の指導の賜物です。あの日“拍子とは心音”と教えて頂けたからです。あの一言で全てが繋がったのです」


「うん。黄。中位鍛練を許す、王に伝えておこう。そうだ、神行歩を教えよう。励め」


 黄師兄…黄姐が喜色を浮かべる、わたしまで嬉しくなる。


「まあ、今は小馨だ。小馨、定めた中心から血液が体の中を廻ると、()()しながら兎歩を踏むのだ。初め動きがギクシャクするが、何れ導引する」


 始めてみるが、成る程難しい。思考速度と実際の体の動きが揃わない。考えの方が遅い。三拍動作の歩行のが速いのだ。


 動作の方を遅くすると、今度は凄く気持ち悪い。違和感で思考が途切れる程だ。


 老師と黄師兄の監督の元に苦戦していると、可小姐が戻ってきた。


(いや、凄いね絡。内絡か、要研究だよ大姐)


 何か分かったの?そんな凄い事が?


(まあ、百聞は一見にしかず。私の視界を同調するよ、さっき黒三に移った時に私も霊視出来る様に調整したんだ♪これで態々移動しなくて済むよ。ほれ♪)


 軽く言っているが、黒靈使役術の奥義とも呼べる術だ。自身が霊魂であり、対象黒靈に輸魂(ゆこん)分霊(ぶんれい)したからこそ簡単に施術できた業だ。

 現段階では他者施術など旱導師でも出来ない業である。


 あっ!


(ね、凄いね母上は。まるで光っているみたい。黄も()()と思ったけど段違いだよ。それより二人の足腰注目)


 何かが地面と往復している?速い。あんなに?


(何かヒントにならないかな?あんな感じで大姐の体を血液が廻ると想像するとか?)


 試してみる。一呼吸で、血液が体を一巡する感覚で。

 トン、遅い。

 トン、まだ遅い、呼吸が遅い。

 トン、そうだ、前に黄姐は一歩毎に呼吸をしていた。

 トン、臍の下から心臓を経由して。

 トン、頭の天辺まで駆け巡って。

 トン、()()()に手足を廻った血液が。

 トン、また臍の下のに戻ってきて。

 トン、再び心臓を経由して。頭の天辺を目指す。

 トン、それを一呼吸。一歩間で循環させる。

 トン、やれ!わたし!

 トン、やれ!

 トン、やれ!

 トン、やれ!

 トン、やれ!

 トン、……

 トン、……

 トン、……

 トン、あっ!

 トン、……

 トン、………

 トン、…………

 ストン。

 わたしは兎歩を止めた。


「母さま、黄姐。こういう事だったの」


 何かが体を(めぐ)っている。当たり前だ、生きているのだからそれは()()だ。


 でも、()()は血では無い。


 ただ、何かが体内を廻っている事が()()()


 それは当たり前では無い。


 呼吸を意識してする事は無い。

 心臓の鼓動は意識出来ても、血流を自覚する事は無い。


 体を廻る何かは、血流であって血液で無い事はわかる。こんなに早く血液が体を循環しない事は知っている。


「驚いたな黄。こんなに早く気脈を通した門弟は居ない。そうだ小馨。血脈に気脈を載せたそれが絡だ。心の鼓動に乗った絡は広義で経絡と言う。

 うん、嬉しや小馨。よくぞ極拳門を潜ってくれた。本日より黄門下の子弟で有る事を認める」


 ……わたしは…

 ………わたしは…

「わたしは………馬鹿だ……」


「小馨様?」

「うん?どうした小馨」


 二人の心配気な表情に、わたしはポロリと涙した。


「母さま、黄姐。わたしは馬鹿だ、黄叔叔に学ぶ事を学んだと言われて、またもや分かった気になっていた……わたしは何一つ知らない馬鹿なのに」


 わたしは、少しはマシになった差手礼を老師と師兄にとる


「わたしの世界は余りに小さく浅い物でした。母さまや黄姐が、わたしに与えてくれた世界はとても広大で深くて……不思議に溢れている」


 悲しい訳でも、切ない訳でも無いのに涙が溢れた。これは感動だ、生まれて始めて感涙を流した。


 兎歩経絡が成されたからでは無い。


 こんな不思議な世界に(いざな)ってくれた、二人の先達の存在と出会いに、感謝の感情が溢れたのだ。


 あの日、母さまに拾ってもらわなければ、わたしは今も残飯を漁り、人の目の色に怯えて、その日その日を過ごし、数年の内に野垂れ死んでいた。


 浮浪孤児の生涯など、そんな物だと言う自覚すらなく、極貧民街をさ迷い、そこが世界の全てだった。


「何の、まだまだこれからだぞ小馨。お前には俺の全てを伝える。そう、天下は不思議に溢れている、俺の知る不思議は余すところ無く教えるぞ」


 母さまはわたしの頭を撫でてくれた。


「小馨様、無知の知を悟られましたね。天下は広大無辺、深甚玄妙で、全てを知りうる訳など無く、誰もが無知なのです。その無垢な気持ちをお忘れ無き様に」


(もしもし、大姐、よろしいかな?)


 うん?何?


(私の方がまだ解決していないんだ、兎歩経絡を続けてくれるかな。視界は戻すね、何か自分がチカチカするのは落ち着かない)


 視界が元に戻った。僅かな時間の筈だけど元の視界が懐かしく思えたのが不思議だ。


「母さま、黄姐、兎歩経絡を続けます。可小姐が何か試しているみたいなので」


「うん?可丘殿が退出してから静かだと思ったら、何かしていたのか」


「結果が出たら、教えてくれると言ってました」


 わたしはそう言うと、兎歩経絡を踏んだ。

 一度気脈を通したからか、一歩目から絡が体を廻るのが分かる。


 わたしは亭の周辺で、くるくると回りながら兎歩経絡を踏んだ。


 楽しい♪わたしは詩歌を知らないので、三拍拍子で鼻歌だ。


 楽しい♪まるで踊りだ、体を廻る絡が心地良い♪


 楽しい♪楽しい訳だ、母さまと黄姐が三拍拍子で手拍子を送ってくれている、本当に踊りの様だ。鼻歌が止まらない♪


 どれだけ続けただろう、没我と言うのか、黄姐が止めてくれるまで兎歩経絡を踏んでいた。


 ああ、楽しかった。全然疲れないから止められない♪


(いや、実際凄い集中だよ、これも内絡効果かな、絡は引き続き研究だ)


 それで可小姐の方は何か分かったの?


(うん、仮説通りの結果が出た。()()()()()よ)


 ………何?それ?

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