丁兄弟、私は遨可馨。黒靈は引き継ぐから安心して
お帰り、可小姐。三は良いの?
(いやよくない。今ここにいるけど雑霊見たら飛びかかるからね)
黒三程の高位黒靈となると、分かる人には分かるらしい。駆けたり跳ねたりすると旋風が起こる。見えないだけで、ここに居るのだ。
だから、雑霊相手に暴れられると騒がしい。
それより思った通りだ。胡娘の魂は強い。
帰宅中に霊視点で人々を見てきた。生霊、と言うより魂は、人によって濃さ、輝きが違う。
てっきり子供が濃く、老人が薄いと思いきや、特に年齢は関係ない。
これは引き続き観察を続けよう。
胡娘の魂に居候していたので、特に気にも留めて居なかったが、この娘の魂は濃い。
いや、この娘だけでなく、李や黄の魂も濃い。
李、黄、胡娘の順だ。同年代の子供がそこいらに居るのだが、比較するまでもない位に胡娘は濃い。
その胡娘より二人は濃いのだから、別格だろう。その二人に黒三は興味無さげだ、大体今日まで何の手出しもしていない。
農夫の件を思い起こす、濃さとしてはそこらの者と大差無く思う。
黒三が齧ったのは、魂の濃淡に理由が有るのでは無く、何か別の理由があるのかな?
まあ、良い。要観察だ。
(胡大姐に、少し協力をね、黒三を撫でて欲しい)
それくらい構わないけど、そんなで協力になるの?
今現在私の感覚、思考を黒三に添付してあるからか、私の思い付きは胡娘には伝わっていない様だ。
これも発見だ、魂は研究する価値が有りそうだ。………秘匿すべき発見は、胡娘にも秘匿すべきだから。
(ちょっとした実験よ、結果は教えるから。右手を出して)
こう?
胡娘が手を出すに合わせて、黒三に思考を移す。丁度頭を撫でられているような体勢に黒三を誘導し、私の意識は胡娘の魂内の自分の魂に戻す。
そして、胡娘の右手伝いに、私の魂の一部を黒三に流した。
農夫に習い、足の部分の魂をだ。
そして、黒三に再び意識を同調させた。
…………そうだったの。
色々と分かった。
やはり黒三に統一意識は無い。だけど、黒三だった意識は存在していた。
黒三は小三と云う小作農夫の少年だった。姓までは分からない。
五人兄弟で兄弟順にそのまま数字が当てられていた。
よく有る事だけど、飢饉で餓死した少年だ。小四、小五と云う下の弟と共にだ。
普通ならば、輪廻に入るのだろうけど、当時は飢饉だ、至る所に黒靈は湧いていた。餓死者の魂は黒靈達の餌食だ、小三、小四、小五の魂も同様だった。
比較的小さな黒靈にまとめて喰われた。
ただ、兄弟の魂だったからか、魂の質の違いからか、兄弟の意識は黒靈の雑多な意思を乗っ取り小三の意識に下の弟達の意識は追従した。
結果、小三の意識が主意識となった。
小三は家族の元に戻った。この頃は自分達は死んでいる事を理解していた。
だから、本当に家族の元に帰っただけだ。そのまま家族を見守った。
徐々に、体が霧散していく事を理解した。霧散すると強烈な餓えを感じる、それを防ぐ為に霊や他の黒靈を喰らった。
数年経った。喰らう、霧散、喰らうを繰り返し、小三の意識は次第に押し潰されていった。三人分の魂が融着したことで他の意識より優位に有るだけで、幾百もの意識が同居しているのだ。
ただ、この地に居たいとだけは思った。
更に数年経った。弔いに出会した。小三だった黒靈は、何時もの如く、その弔い人の魂を喰らった。
その瞬間、小三だった物は、とっくに押し潰された小三の意識を取り戻した。
喰らったのは老齢の兄の魂だった、ただ、兄の魂は意識が消失していた。
だが、理解した。家族の魂を喰らえば自分は永らえると。
兄は天寿を全うしたのだ、意識は天に昇ったに違いない、ならば殻である魂を喰らった所で問題有るまい。
小三はそう考える事にした。そして兄はまだ一人残っていた。
更に数年経った。あれから意識が潰れかけては、兄の手足、兄の子供を少し齧った。
餓えから雑霊を喰らい、遠退く意識に制御不能な体の一部が霧散して行く。霧散すれば強烈な餓えを感じる。
悪循環だ。
防ぐ為には意識を保たねばならず、その為には身内の霊が必要だ。
どうやら身内の死霊で無くとも、意識は繋げられると学習した。高齢の兄が誤って怪我をした時、傷口から魂が覗けたので、試しに喰らうと意識が鮮明となったのだ。
だから身内を死なない程度に傷をつけ、傷口から魂を吸出して喰らう事を覚えた。血止めはした、体の一部で傷口を塞いでやった。
だが、それにも限度が有った。世代が移り血が薄まったからか、あまりにも多くの意識が同居し過ぎたのか、あまり効果が無くなった。
意識は朧気となり、次第に小三は黒靈と化していった。
ただ、直感的に好んだ魂を、生体から奪い喰らうと云う疑似本能を残していった。
そして、とうとう凶悪な化物として、とある導師に討伐された。
あなたは、常に餓えていたのね。
………………
私の魂を注いだけどどうかしら。
……………………
少しは餓えから解放されると良いね。
…………………………
ごめんなさいね、色々有って私も黒靈みたいな物だけど、私の宿主の魂は強すぎたみたい。
私の魂にも馴染んでいるみたいでね。
………………………………
ごめんね、小三。あなたを上書きするほど強いとは思わなかった、だけど、苦しかったでしょ、餓えからは解放されると思うよ。
………………………………………
もう、最期になっちゃうね。ねえ、あなた達の名前を教えて、弔うから。
…………丁小三、丁小四、丁小五………ありがとう、多謝………
私は遨可馨。この黒靈の面倒は引き継ぐから安心して。
こうして丁兄弟の意識は消滅していった。
主格が私に移った形になったが、私自身も黒靈の様な物だ、他人事では無い。
黒三と同化したら、いずれ私も彼等の様に………って同化してるじゃない、今現在!
魂を注いだのだ、意識も同調している。
つまり今私が黒三だ!
落ち着け!変化は、意識は、黒三はどんなだ。
(ねえ、可小姐まだ?そろそろ手が疲れた。
黄姐は事情が分かっているけど、李兄は不審がってるよ。なんか誰かに話してたみたいだけど、終わったんでしょ?)
ギョっとした、私の意識は黒三に同調中なのに何故?
(胡大姐!どこから聞いていたの?いや、小三達の事はどこまで分かったの?)
何言ってるの、可小姐の魂はわたしの魂と一緒にいるから、誰かと話してた事は分かるよ。誰と話してた、小三?誰?
あっそうか、黒三に魂を注いだけど。大部分は胡大姐と一緒だから、分魂状態で黒三に分けた部分から通じたのか。
………何か難しい言葉で誤魔化そうとしていない?
してない。後で説明するよ。ただ、黒三が大人しくなったとだけ理解して。もう手を下ろしてもいいよ。
………虎みたいなのが、黒三?……何か黒三が見えるんだけど。
ほほう、これは発見だ。胡大姐にも見える様になったと、他に変化は有る?
後で良い?今日は母さまと昼食だから、朝から楽しみにしてたんだけど。
途中からは心通信で意思の疎通は瞬間だ。
意思の表現を、言語変換無しで行うから逆に誤謬が無い。ついでに嘘も通じないから便利とも不便とも言いがたい。
そんなこんなで、小馨一行は帰宅の途についた。




