表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武侠少女!絹之大陸交易路を往く!?  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
2章
59/156

みんな頭が良いんだねぇ、いいな。

「ねえ、黄姐。下の子達は何故こちらに上がってこないの?」


「小馨様、私の事は黄と、もしくは黄侍女とお呼びください」


 黄姐は困った顔だ。屋敷内では黄姐と呼んでいたが、外では駄目らしい。


「何で?入口の所に李さんが居るから、ここには黄姐とわたししか居ないし?」


「小馨様、李の事も呼び捨てに願います」


 わたしみたいな子供が、立派な大人を呼び捨てになど出来ない。遠慮が有る。


 わたしなりに同行者である李昆さんを観察したが、特にわたしに敵愾心や悪意、害意が無い事は分かっている。


 黄姐の修行仲間と云うので、初めから警戒はしてはいなかった。


 ただ、何と言うか母さまや黄姐、王家宰とは雰囲気が違う。


 ハッキリ言えば、武道家らしくない感じだ。

 いや、隙があるとか、物腰が軽いとかではない。極拳士としては多分黄姐より強い。


 上手く言えない、けど違う事は違う。


 悪い人間では無いと思う。


 どうやら子供好きらしく、賄食を作りがてら菓子などを作り、下人の子供達に分けていた。


 わたしも貰ったが、本職の菓子職人並みの出来映えだ。


 ……わたしも口が肥えた。甘いお菓子などつい最近初めて食べたのだけど、良し悪しが分かる程度に食べ慣れてしまった。


 母さまが、わたしに激甘なため、わたしがお菓子を好むと分かると、糸目をつけずに届けさせるのだ。


 菓子の類いは、疲労回復の簡易食料となるため、武館経営の遨家には複数菓子店が出入りしているのだ。


 考えが逸れてばかりだ、だって計算問題は詰まらない、面倒だ。


 黄姐を困らせる積りもないので、かなり時間を掛けて計算する、勿論口を動かしながらだ。


 上の部屋、下の部屋と言ったが、本来は下の部屋が学問所で、こちらは来客室だそうだ。


 まだ面識が無い義兄、奉可様が通っていた頃にやはりこの部屋で過ごしていたと聞いた。


 そう言えば、奉可様はわたしに会う為に休暇を申請中だと聞いた。


 皇帝陛下直接指揮下にある禁軍近衛兵にあるため、禁城の近衛兵舎に普段居住しているそうだ。


 年に数回休暇を貰い、実家へ戻るそうだけれど、是非わたしに会いたいと聞いた。


 母さまが禁軍武術指南の為、お城で対面しているのだ。何でも可小姐のお葬式以来、あまり実家に寄り付かなくなったらしく、今年は正月に三日帰省しただけだとも聞いた。


「ねえ、黄姐。奉可様がわたしに会う為に休暇を申請していると聞いたけど、いつになったのか分かるかな?」


「黄とお呼びください。いえ、旦那様や霍家宰から日時については未だ聞いてはおりません。軍部の予定も有るので、申請即休暇とはいかないようですので」


「あれ?黄姐、ひょっとして怒ってる」


「怒ってはいません、わたしの事は黄と呼んでください」


 まだ付き合いは短いけど、黄姐は頑固だという事は分かっていた。


 頑固さは黄叔叔譲りだろう。ただ、わたしとしても大好きな黄姐を呼び捨てにしたくない。だから聞けない。


 質問を変えてみよう。


「なら、奉可様の事を聞かせて。可馨様からは当たり障りの無い事しか聞いてないから、イマイチ人柄が分からなくて」


 黄姐は可小姐がわたしに宿っている事を知っている。旱導師が絡んでいる事も。


「小馨様、可馨様の件は口外なさらずに。旱導師の評判は良いものではありませんので。

 奉可様、妹思いの優しい方です。ただ、多少ずれた所が有るお方でした」


「どんな所が?」


「可馨様は、読書を好まれたのですが、体力的に長時間の読書は出来ませんでした。そこで奉可様が代わりにご自身の()()を朗読されるのですが……内容が」


「?なにか不味い内容の本なの?」


「不味いと言うか、軍学書なのです。戦術書の時も有りました。戦史が多かったと記憶しています」


 今にして思えば、小姐の嗜好本からしたら、余程真っ当で上等な内容だと思えるのだが、当時は小姐の嗜好は理解していない。


 その頃のわたしは、軍学書、戦術、戦史書と聞いても、難しい学問書位にしか理解しておらず、“可小姐は難しい話を聞かされていたんだな、大変だ”位にしか思わなかった。

 それから、義兄(あに)さまは大変頭が良いと()()してしまった。


 小姐の兄なのだ、興味の方向が違うだけで、根っこは小姐と同じだ。つまり軍事関係のアレな義兄(あに)さまだった訳だ。


「みんな頭が良いんだね、黄姐なんて本を書いている位だし、母さまも沢山の書類を読み書きしているし、凄いね」


 ……まあ、子供と云うのは残酷なものだ。無垢な言葉というのは堪えるらしい。黄姐はがっくりと、うなじを垂れた。


 驚いたわたしは声を上げるが、黄姐は曖昧に返事を返すだけだ。


 下の生徒を見て回った黄叔叔が上がってきた。


「どうしたのだ、胡娘。階段の所まで声が届いたが、立場有る身代は取り乱してはいけない」


「ああ、叔叔、なにかわたしが酷い事を言ったみたいで、黄姐が……」


「いえ、小馨さま大した事では……」

「胡娘、侍女は仕える者、呼び捨てになさい。もしくは役職で呼びなさい」


 怒られた。どうやら黄姐と呼んでは駄目らしい。でも、呼び捨ては嫌だ。


「翠朱、いや、黄侍女。従者が思い違いをしてはいけない。主の温情に甘えてはいけない。主に心配させるなど論外だ」


 当時のわたしには、それが正論とは思えなかった、だからカッとした。


「黄姐は悪くない!叔叔は何で黄姐が悪いように言う!」


 この言葉に、黄文書は威儀を正す。


「胡小馨様、この世にある全てに、身分があり、身分に伴う立場が有るのです。君は君たり、臣は臣たり、親は親たり、子は子たりです。禽獣の類いですら序列は有るのです」


「上位の者が下位の者に(おもね)ってはいけません、下克上の土壌を作ってはなりません、国が乱れ危うくなります」


 当時は大袈裟だと思った、遨家の三品官位を、わたしとは無関係と思っていた事も由来する。


 ただ黄叔叔は、わたしを正そうと真摯に言葉を紡いでいる事は分かった。


 母さまと、長い付き合いになるだけの人物だ、言葉は素直に響いた。


 だが、


「大好きな人を呼び捨てたくない事が、そんなに悪い事だったの?」


 論点がずれているとは思ったが、零れてしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=55314453&si
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ