今更だが、どうして本名が割れたのだ
わたしの絡奉納舞と三拍演舞の効果は、覿面だった。
祝詞は、南遨老師の随行用人に書き留められ、演舞は神威と共に、高弟達の記憶に深く残った。
高弟達は、巫祝踊女の末の女人拳を蔑んでいて、極拳は別物認識していた様だ。
南遨老師はそれを払拭する意味で、わたしに実演して欲しかったようだ。
絡奉納は、高師範を頭にして極拳に取り入れられた。
絡奉納の、反復地脈、内絡調整を応用し、化経に転用したのだ。
発経打を化経で受け流すのでは無く、術者の意図で散らすのだ。
三練経すら散らしてしまい、後日試合い、驚いたものだった。
似た様な効果に思えるかもしれないが、散らされると、内絡が変調なく乱され続けるので、発経が上手くいかなくなる。
地脈のが強く、内絡経で回復しないのだ。
やはり、高師範は引き抜いておけば良かったと思ったものだ。
さて、寄り道はここまでだ。話が大幅にずれてしまったが、わたし達は港湾警邏局詰所に用が有る。
いや、厳密には南遨家がだ。わたしは如娥様との出会いの余韻で、善順など面倒なだけになっていた。
南遨家内部で処理してくれないかな。
途中、港湾の警邏局と、本通りの警邏本局から出動した捕縛官吏の小班と遭遇した。
張隊長が対応する。なんでも虹や雹を確認し、視察出動してきたらしい。
また、地震は不思議と近場の港湾局の方では、感じなかったとの事だ。
ま、知らん顔だ。
こちらは南遨老師にマルコ君を紹介し、雑談に興じた。
亮順様は生粋の胡人には、会ったことが無いらしく、根掘り葉掘りと質問を重ね、コロコロと笑われた。
失礼だが、可愛らしく感じたものだ。
(本当は怖い人なんだけどね)
そうかねぇ、情も深いし、決断力も有るし、懐に入ると全力で庇護するし、好ましい御仁だよ。なにより、母さまに似ている気質が好ましい。
(……実は大姐は猫系と思いきや、犬系なんだよね)
そうか?まあ、母さまの忠犬的な意味での犬系ならば、悪い気もしないな。
(はい、犬決定。マル吾子と併せて犬の一団)
などと、朗らかにこの異様な集団は移動していった。
たまに、門人達と目があうが、熱い眼差しで目礼される。
よせやい。
(お、春到来かい、モテ期かい、やるねぇ、だから、マルには手を出すなよ!)
だから、わたしに稚児趣味はない!本気で体貸さんぞ!
警邏局に到着した。
流石に大人数過ぎるので、南遨老師、豪順様、事情を知る高師範と周兄。あと南遨老師の随行員の用人、わたし達の七名が入局となる。
わたし達は要らないとも思ったが、当事者だ、そうもいかない。
戯け者の善順を、軟禁している部屋に案内された。
公式告発だ、場合によっては侮告として反対に告訴される。
また、虚偽告発の可能性もあるので、真偽が明らかになるまで、身柄を確保されるのだ。
わたしが、一周回って逆に大したものだと関心した所以だ。
「善順、申し開きが有るならば、一応は聞いてやる」
口火を切ったのは、豪順様だ。
善順とやらは、何故兄がここにいるのか分からない様だ、間抜け面を晒している。
「な、兄上、何故ここに?」
「何故だと、貴様!自分が何をしたのか解っているのか」
「殺人者、犯罪者の告発ですが、何か」
「…………本気で言っているのだな。その犯罪者とやらは、誰の事だ」
「お忘れですか?本家から果たし合いに来た無礼な小娘ですよ。確かな情報筋から得た情報であの小娘が商人殺しの犯人だ。」
「………その確かな情報の出所は」
「警邏局にも話しましたが、李と云う兄弟で、周家の家人です。周家の情報網からの情報で、精度は高い」
「なあ、善順さん、李兄弟からの情報で間違い無いのかい。それから奴等何て言っていた」
周兄が、口を挟んだ。善順の兄貴分だと言っていたな。
「なんだ、周兄も居たのか。
ならば、話しが早い。兄貴も聞いた話しだろ、胡小馨なる小娘が同行商人を殺害して、商品と金銭を強奪したと。
ノウノウとわが家に殴り込みに来やがって」
「いや、俺が聞いたのは胡小馨なる旅人が、殺人現場から姿を消したとしか聞いていない。
更にとある安宿で、宿帳からその名が上がったとしか。
うん?俺も聞いたのは李からだ。情報網から上がった報告だったが、妙だな。誰が、胡嬢の本名を?」
妙も妙だ。そもそも又聞きばかりで、まるで笊だ。
何で見ていたみたいに、わたしが犯人と特定する。
わたしとマルコ君が、犯行後に犯人に拐われたとか。
わたし達は見つかっていないだけで他で殺害されたとか。
わたし達は共犯で他に犯人がいるとか。
わたし達が犯人を撃退したが、全は守れなかったとか。
何故に他の可能性を考えない。
そもそも、全に外傷は無いのに、どうして他殺と断じた。
一般的に、行き倒れから金銭を漁るのは常識で、
(おいおい)
身形の良い死体なら、皆に剥かれて無一文で転がっていて当然だ。
道中手形から、わたし達の存在は知れても、女子供が犯人とするには、飛躍が過ぎる。
誰も見ていないのに、何故、わたしが全を殺して、金銭を奪い、安宿に宿泊したと知っている。
安宿だけでも、香湊街に幾つ有るとでも。
見つかるように目立つ動きはした。
だが、それが殺しに結び付く訳はない。何度も言うが、外傷は一切ない行き倒れだ。その様に殺したのだから。
何故最初から本名が知れている
……わたしは、見落としていたか。
そう、目撃されていたのだ。全の協力者に。
全は左道士だ。なら協力者も左道士に決まっている。
黒靈か何かで目撃されていたのだ。
(いや、考え難いよ。三や士が居るし)
三は士を襲わない。同じ事が太郎と次郎にも言えるだろ。
(成る程、旱導師関係だから、あり得るね)
因みに、わたし達と南遨老師は、まだ室外だ。
中の様子を伺い、覗見しているだけだ。
小姐に頼んだが、中の愚か者に、思考誘導の黒靈は特に見当たらないそうだった。
「胡老師、何とも申し訳ありません。耳が腐る思いです。引導を渡しましょう」
南遨老師だ。
人は激怒すると、無表情になるものなんだと、実際に見聞した。
あと、ニ話で一章完結します。




