小年稚子趣味侠女は勘弁してほしい
物語の本筋です、今までは過去編です。今しばらく過去編続きます
「ここまでは、良いだろうか?その、かなり長い話になるのでな」
わたしは、努めて冷静な口調になるように話かけていた。
腸が煮える思いだ。
怒りで我を忘れそうになるが、それでは小姐の思う壺だ。
わたしの置かれている状況は、極めてまずい
まず過ぎる。
いや、醜い浮き世だ、こうした事も合意の上なら、多少は白い目で見られるだろうが、まあ許されるだろう。
だが、力ずくとなるとそうはいかない。
そもそも、官権に追われる身だ、他の罪科が増える分には、どうでも良いが……
「そろそろ、泣き止んではくれぬか?」
わたしは己の鼻血を拭いながら言う。こっちが泣きたい。
目の前には、道中同行することになった美少年、いや少年というにはやや幼い。美幼年が涙を拭っている。
安宿の窓から射し込む月明かりに照らされ、性別を越えた儚い美しさを見せる。
(良い!凄く良いよこの子!大姐替われ!)
「このド戯け!己はまだそんな事をほざくか!」
ビクリ、と作り物の様な少年が反応する。
無理もない、端からみれば、独り漫才だ。
小馨は軽く舌打ちする。
「すまぬ、別に君に言ったのではない」
状況は、どう好意的に解釈しても、無垢な少年を宿に連れ込んで、事に及ぼうとしてヘタレた色魔女にしかみえない。
小馨は、近頃名を上げている侠女だ。
この地では、まだ顔が割れている訳ではないが、名は知られている。
少年愛、稚子趣味などと噂になれば、この地方一帯の侠客、博徒のいい物笑いだ。
そんな二つ名など御免被る。
だから、当事者に誤解を解くべく必死だ。
だが、興奮の余り鼻血を流していては、説得力に欠ける。
実際、寝込みを襲い、少年の小さな乳首を愛撫していたのは、小馨自身だ。
だけど、その時小馨自身は、昼間の事もあって前後不覚に意識を飛ばしていた。つまり爆睡していた。
油断したのだ。
このところ小姐がやけに聞き分けがよく、
こちらの言い分に耳を傾けるものだから、
ようやく気性が落ち着いたのだと。
大人になったのだと。
これなら問題あるまいと。
……甘かった。
公子の時に、嫌と言うほど理解した事ではないか。
可馨の病気は手遅れだということは。
(大姐!随分な言いぐさだけど、貴女も大概よ、その狂人的短気は身を滅ぼすわよ。
それにしても、作り物みたいに愛らしい子♪)
「語るな!可馨!あの糞左導師をぶち殺すついでに、お前も叩き出してやる!」
(落ち着いて、大姐。そら、ヒッヒッフー、ヒッヒッフー)
「何だそれは?聞いた事がない。吐納法か」
(そんな所。落ち着いた大姐、落ち着いたら替われ♪)
「貴様!」
(だから、怒らない。マルコちゃんさっきから怯えてる。可愛い♪)
クッ落ち着け、こやつの手だ、前後の見境なく怒らせて、体の支配を奪うつもりだ。
「ごめんなさい、ヒドイ事をしないで」
マルコ君だ、怯えた涙声、上目遣い、涙目。
不覚にもクラッときた。同時に罪悪感。
わたしは可馨の記憶を共有している。
あやつの魔手の感触も手に残るのだ。
いかん誤解を解かねば、今の台詞からして、話を聞いておらんではないか。
(ね。良いでしょマルコちゃん、女の子寄りの中性的な感じや、生前の私みたいな綺麗な肌、つぶらな翠眼、そして大姐に怯える仕草、完璧♪)
おのれ!クッ落ち着け、いつもの手だ、
ヒッヒッフー、ヒッヒッフー、ヒッヒッフー。
…………効くなこれ。本当に、落ち着いた
「ヒドイ事などはしないよ、マルコ君。きみを襲った変態は当分出てこれない、わたしは落ち着いたからね」
マルコ君は首をかしげた。言葉の意味を探っているのか?
(クッ。あざとい、本気でかわっ……)
「わたしの体には別人の魂が宿っている。マルコ君にヒドイ事をしたのはそいつだ」
可馨の思考に言葉をかぶせた、こやつには語らせないのが一番だ。
「えっ」
「君に似ているけど、わたしはわたしだ。作り物の体ではない、だから分かるだろう」
マルコ君は頷いた。
わたしは言葉を繋げる
「作り物の身体の君に、忠言できるような知識はないのだ、済まない」
「だが、昼間にした約束は必ず守る、君を故郷に連れ帰る」
マルコ少年は頷いた、小姐がうるさい。
「でも、一度洛都に戻るよ、長旅になるから、挨拶をしなければならない人がいる」
少年の故郷は、西域のはるか彼方、いや大陸交易路の終着点、ローマヌスだ。
数年かかる旅になる。最悪今生の別れとなる。
……それに……
後顧の憂いを絶つために、あの外道左導師をぶち殺しておかなければならない。
……因縁のある相手だった。
「まあ、眠気も飛んでしまった事だ。わたしの自分語りの続きでも聞いてくれ」
マルコ少年は頷いた。
昔のわたしみたいだと思った、黄姐もこんな気持ちだったのだろうか?
わたしは語り始めた。
次回過去編に戻ります。
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