実は一番失礼か、返す言葉もない
さて、腹の虫も治まった事だ、マルコ君が心配だし、行くか。
小姐、そちらはどうだった?
(特には。途中から午朗を見えなくして、三と一緒に暴れさせたから、マル吾子には、かすり傷一つないよ)
白太郎はどう?
(まだまだね。そもそも黒靈として馴染んでいないよ、
ただマル吾子との相性はかなり良いみたい。白太郎を経由して思念疏通が出来るよ)
わたしと思念疏通は出来るの?
(それは無理、白太郎は私が混ざっているから出来るの。何なら大姐も混ぜてみる?)
いや、小姐経由で良いか。考えたら直接疏通する意味がないな。
(魂が半同してるから、私に筒抜けだからね。
けど、そういう意味でなく、合作的な、魂友達的な意味でねぇ)
何だよ魂友達ってのは
(昔、黄の本に書いて有った舶来語でねぇ、これは、少年同士の心の結びつきを表現する言葉で、やがて体同士のむす……)
朝から黙れ!この変態!……本当に黄姐も何を考えて……
「胡姐!」
マルコ君だ、白太郎と共に駆けてきた。
?何か白太郎、薄くない?体色的に。黒灰色の変な仔犬?
「もう大丈夫、官権が来ると面倒だから、周兄を拾って行くか」
わたしの背負子まで持っきてくれた、重かっただろうに。
最近の日課になった頭撫でをする。
(貴女、本当に仔犬扱いしているね、実は一番失礼な女)
また、撫で心地が良いんだよ。
「怖かったですよ、胡姐。ヤクザ達が血塗れになって、痙攣して」
三め、どさくさに魂も喰らったな、しょうがない奴だ。
「まあ、マルコ君が無事なら何よりさ。
マルコ君、自分に向かって害意が向けられたら、無視が一番悪手だ」
「でも、私には何も出来ないから」
「そんな事は無い。抵抗や交戦だけが手段じゃ無いよ。恭順や逃走も手段の一つさ。
庇護を求めるのも、手の一つ。わたし達はマルコ君なら全力で助けるよ」
「……何故です?胡姐を裏切った私を何故助けてくれるのですか?
私はあの時、報復で殺されると、諦めていたのに」
「うん?そんな事を考えていたのか」
「……はい、だから夜、宿で身ぐるみを剥がされて、殺されるものと」
だ、そうだ。少しは反省しろ小姐!
(異議有り!大姐がマル吾子の前で、あっさり全道士を殺しちゃうから、怯えたんでしょ)
だってねぇ、……まあ、済んだ事だし。
「……何故ですか?胡姐」
仔犬の様なつぶらな瞳、と、形容するのは失礼だが、わたしにはマルコ君はそう見えるのだ。
昔、わたしも黄姐にそう形容されたな。
少しは真面目に答えるか。
「全とは、そこそこ長い付き合いだから、奴の性根が腐っている事は知っていた。
多分、そこらで痙攣しているヤクザのが、余程マシ。
まあ、旱導師の手下とは知らなんだが」
「………」
「だから、マルコ君が被害者だと直ぐに判った。いや、実際に被害者だ。君は一度死んでいるのだから」
「………」
「旱導師の反魂呪法、実はわたし達も一枚噛んでいる。
済まない、まさかここまで導師がイカれているとは思わなかった」
「え?!」
「君を守り、望み通り君を故郷に送る事は、わたしにとって、通すべき筋だ。
だからだよ」
「あ、有難うございます。本当に、本当に……」
(泣かしたら駄目でしょ)
そんな事言ったってさぁ。
わたしはマルコ君を抱き寄せて、頭を撫でた。
不謹慎だと自分でも思うが、本当に彼は仔犬みたいだし、撫で心地が良い。
(最低ね)
返す言葉もない。
何者かが近づいてきた、士は興味無さげだし、先方は、敢えて足音を立てて近づいてくる。
一人は周兄だ、もう片方は、
「胡老師、お見事でした、あんな美しい疾駆長打は見た事がない」
高師範だ、見送りに来られると聞いていた。
周兄と合流していたのか。
互いに拱手を交わす。
「お恥ずかしい所を見られてしまい、汗顔の至りです。どうにも、わたしは短気が過ぎてしまう。……時に高師範」
「何ですかな」
「周朱華娘々の事、お骨折りいただいた事忝なく。
事前に周勇殿から話を通すべき所を、出立を理由に、横紙破りな真似をしてしまいました」
「は哈、何を仰る。老師の御一族で有り、南遨極拳の恩人で有られる胡老師の願事。
門人ならば、喜んで聞き届けますとも」
「忝なく。何とも愛らしい娘々で、わたしはすっかり気に入ってしまったのです。
……出来る事なら、わたしが育てたいくらいでして」
元次席師範のわたしが言うのだ、つまり、弟子を預けると宣言したに等しい。
そこは、高師範も心得たもので南遨老師に振った。
「お任せを、老師も喜んでおりました。第二の遨老師を育てると、意気込んで居られます。
そうそう、老師も見送りに参られると聞いて居ります、……いや、来られた様です」
振り返ると、驚いた事に、南遨極拳一門総出でお出ましだ、先頭で南遨老師が手を振っている。
……この場合、どう答礼したら良いんだ、王兄?
(距離が有るけど、気がついて無視は出来ないよ、礼を受ける側だけど、一族目下として行動しないと面倒だよ、多数の門人の手前)
だから、どうすれば良いんだよ?
手を振り返せば良いのか?
(雛歩【差手で小走り】で近づいて普通に答礼。間違っても手なんか振るなよ)
こう云う時に、軍師が憑いていて本当に助かる。
さて、放置していた田とやらだが、周兄が縛り上げていた。




