二角帽、実は密かに気に入った
街中に出た。黒靈を纏う事にも馴れた。今日は士だ。
三は質量を増やしたいとかで、目の届く所で放置している。
三は喰意地が汚いので、そこらに浮遊する雑靈を喰らっている。でかくなったな。
(三を分靈して午朗を少し混ぜるの、マル吾子を少々加えて、新規に使魔を作るのよ。マル吾子用に)
まるで料理を作るノリだな、名前は何にする?
(それは、マル吾子に決めてもらおう、ただしこちらの言葉の名前でね)
なんで?
(元々こちらの靈だから、西域の発音だと名前と認識しないかも。私の分量が多いからマシになったけど、基本黒靈に自我は無いから)
そうか?感情みたいな物は感じるぞ。
(良い得て妙ね、そう、感情みたいな物よ。三はまるで餓狼ね、餓死者の靈が多いのかな、飢えが形になった感じ)
ふうん、士は?
(あれは、動物靈が多い。圧倒的に犬かな、使役靈としては理想的。従う事が本能みたいになってる)
じゃ午朗。
(まだ、個性と云うほどの物は無いかな。いちいち特定出来ないくらい雑多に靈が固まっている、以前三を混ぜたから、飢えを感じているみたいだけど、補食より維持に方向が向いているね。動かないだけで、士よりは狂暴)
士までは、糞導師が微かに残っていた自我から名を聞き出したそうだが、
いつの間にか士に憑いてきていた黒靈に、小姐が自身を混ぜて、“午朗”と、こちらで名付けたのだ。
よく三に喰われなかったな。
(ちょっと違う。午朗が士を食べようとしていて、士が興味無しと放置していただけ。三は士には手出ししないから偶然じゃないの)
「一番近い胡服の店はここだ」
近いと言っても裏通にある店舗で、某の乾物店より四半刻近く歩いた。
と、云うより、ここらに胡人の店が固まっているのだが。
店内に入る、胡人の男が出迎える、珍しくもない髭面だ。
「これは周若旦那、見回りですか、お疲れ様です」
「どうだい、景気は。今日は客を案内したんだが、勉強してくれよ」
まるでヤクザの地廻りだな、縄張りかいな。
(いや、ヤクザで縄張りの地廻りでしょ、私達を連れているだけで)
勘違いされているが、ヤクザが侠者では無い。侠者がヤクザをする事はある。
いや、ヤクザだろうが、商人だろうが、役人だろうが、武術家だろうが、職人だろうが、その他諸々の生業だろうが、侠者は存在する。
侠とは生き方だから当然だ。
周家は、侠者が商家でヤクザなのだ。
「街中でよく見かける外套が欲しくてね、胡人が羽織っているやつ。わたしと、この子用に」
「はいはい、少々お待ちを」
外套の専門店と云う訳ではなさそうで、現物売買だ。
最も明日出立だから、呑気に仕立てられても困る。
見立てが良いのか、他に無いのか、わたしとマルコ君の体格にちょうど良い。ただ、
街中では気づかなかったが、結構匂いがキツイ。
何でも外国船の船体に塗る“たーる”なる油性塗料で染めてあるそうだ。
防虫効果があるそうだが、臭くてわたしは嫌だ。
在庫期間が長い、匂いが薄くなった物を購入した。
子供用の物は、頭部から覆う形状で、わたしもそちらの形状が良かったが、生憎在庫に無かった。
代わりに同じく“たーる”染めの二角帽子なる物を購入した。
こちらは、ほとんど無臭だ。
当然だ、誰だって臭い帽子など被りたくない。
防水防虫効果は落ちるが、洗浄消臭を施したらしい。
外国船の船乗りが被る帽子らしく、作業の邪魔にならない様に、ツバが天頂に曲げられている。
ツバがボタンで留めてあり、外すとかなり外縁が大きい。
わたしは片面だけを広げ、後頭部側の通気孔に簪を通して帽子を頭部に固定した。
船員用の何の飾りの無い帽子に、銀の簪飾りが付き、少しは華やかになった。
「普段は竹簪だな」
今頭に挿していたのが、銀簪だから仕方ない。
(なんで?色気じゃないの?)
色気じゃないの、簪は使えるんだよ。
総計銀十両の所を、某の顔で八両に勉強して貰った。
まあ、在庫で埃を被っていたのだから、御の字だろう。
「しかし胡嬢も流石だな、地味な色目の作業帽が、簪一つで華やかになった。逆か、銀色が引き立つのか」
そうかえ、普段は竹簪が楽でいいんだが。銀は手入れが面倒だ。
わたし達は胡人と雑胡だから、外套、帽子でこの国の服を覆うと、本物の胡人の旅人に見える。
更に黒靈を纏っているので、肌色は二人共黒褐色に感じて見えるから、傍目には姉弟だろうな。
胡人街で、他に面白い物を物色して歩いた。
折角だから、マルコ君には兎歩で行動してもらう。
歌のヒントを教えると、かなり滑らかに歩ける様になった。
よしよし。
ん?あれは。
わたしは露店に並べられたゴミの中からゴミを見出だした。
「クズ硝子玉?胡嬢そんな物が欲しいのか?」
まあ、欲しいと言う程でもない。硝子の加工中に出る本物のゴミだ。
中には、硝子玉も混ざっているが、気泡が混ざりとても売り物にならない。
店主に尋ねると、全部で銭五十枚というので、手頃な革の巾着袋を銭百枚で買うから、只で寄越せと交渉した。
まあ、本物のゴミだ。交渉は成立した。
革の巾着にすべてゴミを詰める。
「胡姐、そんな物どうするのですか?」
革巾着を腰帯に結わえた、あまり収まりがよくない。革帯を探そう。
「これはね、マルコ君」
黒三、受けろ!
わたしは雑靈を貪る黒三に投げつけた。
ビシッ!
クズ硝子は砕け散った。指弾だ。いや、わたしのはそんな大仰な物ではなく、せいぜい飛礫だ。
投擲術は、賄いから料理人に進んだ李兄が達者だった。
指裏に摘んだ小石を、弾く様に投げるのだ。
燕を打ち落とした事も有った。
幼いわたしは、はしゃいだ物だ。
李兄から基礎的な投法は教わっていたのだ。
いきなり壁際でクズ硝子が弾けたのだ、マルコ君は驚いた様だ、いや驚いたのは某も同じだ。
「砕ける投擲物はこんな感じで便利なんだ、広範囲に広がるから目潰しに良いんだよ」
「それでクズ硝子か、成る程な」
「あと革帯とマルコ君用に小刀が欲しい。周兄、案内頼む」
周囲の注目を集めてしまった、誤魔化す様にして某に話を振った。




