私は、そうね、妖狐の可狐
わたし達は喜んで食事に呼ばれる事にした。
当然マルコ君も一緒だ。
某もくっついてきたが、想定内だ。
老舗の料理屋に、案内されるのかと思いきや、店自体は新しい。まだ木の香りがする、新築店だな。
「古い知人の経営している店です。腕の良い料理人を揃えていて、店舗新築時に私も出資したのですよ」
手広く商いをしている事は聞いていた。
うん?わたしは周物品卸公司に投資したのだから、間接的にこの店にも出資したことには……
(ならない、投資はついさっき。そもそも運用は一任、大姐はあくまで周公司にだけ投資したの)
わかっているよ、ふざけただけよ、なにさ一体、キライ!
(大姐、つまんない、全然可愛くない、やり直し)
などと独り漫才をしつつ店内に案内された。
勿論、最上室だ。
わたしは母さまのお付きで、この手の店には慣れている。
マルコ君は不安げだ。
なに、酒でも飲めば不安なんか無くなるさ。
と、云う訳で。
「周大人、お招き有り難く。早速でお恥ずかしいのですが、南遨家から歩きつづけていて、喉が渇きました。
お奨めが有りましたら、まずは杯を湿らせたいのですが、いかが」
(大姐、直接的過ぎる、みっともないよ)
うるせ!替わってやらんぞ。
「は哈哈、胡殿はいける口でしたか、お任せを。この店には銘酒を揃えさせているので、お口に合うと思います」
この間も似た台詞を聞いたな、本歌は親の方か。
先ずは糖黍酒が出てきた。広州は砂糖黍の栽培に適した土地柄で、砂糖が名産だ。
糖黍酒は甘く口当たりが良い、食前には手頃だ。これならマルコ君もいけるだろう。
……今更ながら、マルコ君いける口か?聞いた事も無かったな。
(当たり前でしょ、子供にする質問じゃない)
でも、普通に呑んでるよ。
「どうだいマルコ君、酒は大丈夫みたいだけど、いける口?」
「故郷では、葡萄から作ったお酒の水割りを、老若区別なく、皆飲んでましたから。
それに、これは甘くて美味しいです」
呑兵衛の国だな。でも、葡萄酒か。
何年も飲んでいないな。聞いてみよう。
「大人、こちらでは葡萄酒は置いてないのですか?」
(催促かい?)
催促だ。小姐も味わいたいだろ
「では、次は葡萄酒にしましょうか」
給仕を呼び葡萄酒を手配だ。前菜が来た。
豚の煮凝りに、海老の素揚げ、青菜炒め。菜にかけられた調味料から、魚介の香りがする。
鶏肉のほぐし身に、胡瓜の化粧飾りが添えてある。調理タレは、わたしの知らない種類だな、外国の調味料だろう。
こちらは鮑だな、黄牛油で焼き極薄に刻んである、好みで醤を加える。
いや、これで前菜か、わたし的に主食なのだが。
汁物は蟹湯と鶏白湯。内陸部の洛都では海蟹は珍しく、あまり食べた事がない。殻を割り身を食べようとして笑われた。
何でも、飲食するのは湯だけで、身は旨味の抜けた出枯らしだから、賑やかしに盛り付けてあるそうだ。
さて、主食だが、子豚の丸焼きが出てきた。
流石に母さまのお付きでも、食した事がない。
広州と言えば豚肉料理だ。
養豚が盛んである事もさることながら、絹之交易路を通して、香辛料と共に肉食文化圏からの調理法が流入してくる。
件の丸焼きも、元は西域の調理法だと云う。
給仕が取り分ける。主客の私に、珍味である子豚の脳味噌が饗された。目の前で、薬味と共に膾にされる。美味そうだ♪
葡萄酒に合う。ついつい進む。
某が気を利かせてくれたのか、先程の蟹の身をほぐした粥を、然り気無く給仕に手配させていた。よかよか♪
(……ねえ、そろそろ替わって。何か危なっかしい)
(しばし待て、蟹粥まで。うん?粥まで交代すればいいのか。それじゃ)
わたしは目を閉じ、意識を沈めた。食休みに丁度いい、外部とも遮断しとこう。
「何だかんだで、精神的に疲れていたのかな。このまま寝そうね」
言葉の発音の違いに気がついたのは、愛しのマル吾子だ♪
「この感じはこの間の……」
私は遠慮なくマル吾子を抱き締めた。
だって実体だよ、私の自由に動けるんだよ、久しぶりなんだよ、ならやりたいようにやる。
邪魔する奴は“ガブッ”だ。
……ん、この感じって。
私はマル吾子の目を見た。
「ど、どうした胡嬢、いきなり?」
外野、うるさい。
……ああ、やはりか。午朗が懐く訳だ。
当然と言えば当然か。マル吾子も私と同じで、少し混じってしまっている。
輪廻から外れてしまっている。
私は胡娘と、いずれ同魂するだろうから輪廻の輪に戻る。
けど、この子は…………良い匂いがするなぁ、このまま持ち帰ろうかな♪
「離してください、中の人」
おっと、いけない、嫌われては元も子もない。
でも、手くらいは繋いでおこう。
「中の人?胡嬢は、たまに突飛な声を上げていたけど、そっち関係か?」
「そっち関係とは、失礼ですね周勇殿。
今手が離せないので、正式礼法はご容赦を、周大人」
「胡殿?いや、雰囲気が全然違う、狐付き?」
「あ哈哈哈哈哈哈、狐付きは良い、そうね、気に入ったわ。私は狐、可狐とでも呼んで」
そう言うと、私は葡萄酒を口にする。美味し♪
「狐様?胡姐はどうしたのです?無事なんですか?」
うん♪やはり肉声は良いなぁ、頭撫でとこ。
「今、食休み中。
でもこのまま寝るかも、何せ今日は無茶をしたから。
この娘、筆頭師範と立合ったのよ」
「え!南遨師範と!一族として招待されたのに何故?」
「全然そぶりも無かったのに?そんな事が」
「誠ですか狐殿?胡殿は本家の令嬢で、南遨様の姪御と聞きます。いささかあり得ません」
三者三様じゃ無く一様かな。
「そこは、色々としがらみがね。
でも遺恨絡みじゃなく、交流仕合みたいな物だから、清々しい物よ。
そうね、この娘高師範を買っていて、立会人に指名したから、詳細はそちらで聞いて」
私は腸詰めを摘むと、口にした。
肉類と葡萄酒は合うなぁ♪ 美味し♪
「狐様?胡姐とは、どのような関係なのですか?あの夜に胡姐から聞いた方なのでしょう」
「そうよ、賢い子ね♪私の事を覚えていてくれたのね、有難う♪」
「狐殿、我々は退席した方が良い話か?」
邪推されかねない発言ね。
私は指を鳴らして、黒三を可視化した。
別に指を鳴らす必要はないが、ノリで。
三人は息を飲んだ。悲鳴を上げないのは流石か。
驚いた顔のマル吾子も中々♪
しかし、三も成長したなぁ。
可視化した黒三は、まるで熊の様な虎だ。
闇の様に漆黒の体躯に異様に大きな牙。
黒目しかない瞳。
正に化物。
「黒三に部屋周辺を見張らせるから、外部に話は漏れないわ」
再び指を鳴らす、黒三は霧散して見えなくなった。
やはり指を鳴らす必要はないが、ノリだ。




