此奴のせいで、わたしは勘当された
金なら幸いにして、全がかなり所持していた。
死人が持っていても仕方ない。
大体わたしへの慰謝料だと思えば、所有権はわたしにある。
いや、マルコ君にも有るか。
だから、この金でマルコ君の手付金を返済しても問題無い。
そう思って、周とかいう周旋屋に、いや女衒か?面会を依頼していたら、黒三がやらかした。
身内に死人が出たら、面子云々で、話にならないだろう。
幸運な事に、目撃者は居ない。
わたしが悩むのも、当然だろう。
第一始末した方が楽だ。
コイツらは、天下に顔も晒せない人種だ。
殺しといた方が、世の為人の為ではなかろうか?
隅にいることだし、往来の邪魔にはならない。
黒士に“ガブッ”とやってもらおう。
そうしよう。
(待って大姐、貴女は短絡的過ぎる。昨日も言ったけど、その超短気は治さないと命を縮めるよ)
「だって面倒だ。腹も空いてきたし、宿に戻りたい」
黒士に捕まった覆面が、割って入ってきた。
「待て、親父と交渉したいのだな、ならば商取引だ、面会手配はしよう」
ん?親父だと、やはり周とか云うのはヤクザか。それとも?
「親父とは、渡世上のか?それとも実父か?」
それによって方針が決まる。
「両方だ、親父の元で修業中だ。別に命乞いじゃない、姐御が筋を通そうとするなら、応じるのも筋だ」
“若”“大哥”と口々に覆面が言う所からして、本当だろう。
「お前達には分からないだろうが、この姐御は極拳の上級拳士だ、あんな武闘舞踊、初めて見た。烈火の二つ名も頷ける」
わたしは、名前だけは売れていた。烈火の二つ名もだ。
あまり誉められた事ではない、反省点でもある。
ただ、わたしが極拳使いとは知られていない筈だ。
と、言うことは、この“若”とやらは、武闘舞踊を、つまり極拳を知っている?
「俺は周勇。南遨家極拳の門下だ、一応拳士だ」
南遨家とは、老師の兄弟弟子であり、先代遨家極拳総帥の元嫡男が興した家だ。
遨亮順というのが、廃嫡された長男の名だ。
彼は京馨に恨みを残したが、
ここ広州で、武術館を建てる程に支援をしてくれた父や実家に、わだかまりは無かった。
だから、南方の遨家という、単純な意味で南遨と名乗っていた。
無論、先代遨家総帥たる父の了承は得ている。
京馨が跡目を継ぎ、父が没すると、
次第に実家と疎遠となり、ここ数年は互いにやり取りはなかった。
まだ、黄も入門前の話で、彼女の一般教養教育下にあった小馨は、あまり詳しく知らない。
なので、この地に訪れる際、南遨家に挨拶はしていなかった。
最も、昨日の今日で挨拶どころでは無かったのだが。
「同門か、なら無下にも出来ない。周大人に取り次いでもらえるか?」
「分かった。縄をといてくれ、繋を走らせる」
(小姐、頼む)
(黒士、縄だけを咬み切って)
ブツッ、ブツッ、と自然と縄が切れてゆき、覆面一同は無言となる。
「姐御、何をした?あと別動の二人は」
(大姐、命はとりとめたよ、黒三が二人に憑依して血止めをした。……死んだ方がマシかな、代償に魂が少し喰われている)
(そうか、マルコ君は?)
(路地裏での出来事だからね、こんな事になっている事すら知らないで、宿でおやすみ中)
(なら良し)
実際、縁も所縁も無いヤクザの三下など、どうでも良いのだ。
「なんか、大怪我で済んだみたいよ。命に別状はないかな?」
「……そうか、何者なんだ姐御は?」
「…左道拳士?…黒拳士?…外道拳士?どれも録な名称じゃないね、左道を使う遨家極拳士だよ」
「…左道か、なるほど。二人の助命を感謝するよ。
誰か二人を診に行ってやれ、それから親父に繋げ、面会依頼だ。俺の名を出せ」
「じゃ、案内お願い。もう覆面も要らないんじゃない?」
“そうだな” そう言うと、若とやらは覆面を外した。
声からして分かっていたが、若い男だ。
わたしと、同じくらいかな。
四半刻は歩いただろうか、大通りを抜け港湾方向に向かっている。
周とやらに面識が有るのは、死んだ全だけで、わたしは周大人という呼称しか知らない。
洛都で燻っていたわたしは、仲介人の全の護衛として雇われたに過ぎないのだ。
マルコ少年を西域の故郷に送ると云う、人員護送業務に仮従事する全と、マルコ少年の警護が仕事だった。
仮従事というのは、全の生業は仲介、口利きが本業だからだ。
まあ、実はこれも隠れ蓑で、糞導師の手下の左道士が実態だった訳だが。
わたしと全は、何も西域まで同行する訳ではなく、
ここ広州でマルコ君の出国手続きと、船の手配をする周某に、マルコ君を引き渡す迄が仕事だった。
だったのだが……
結論から言えば、この旅はわたしを殺す為の罠だった。
いや、糞導師が噛んでいるのだ、わたしを殺すと云うより、小姐込みでわたしを回収したかったのかも知れない。
別にわたしの意識の有無など、小姐が無事ならどうでも良いだろうから、
殺害された方がマシだろうが。
洛都で、すっかり腐っていたわたしは(黄姐や小姐的な意味では、断じて無い)全の持ちかけてきた話の裏も取らず、大して疑いもせずに話に乗った。
わたしは遨家を勘当されていて、自棄になっていたのだ。
いや、養子縁組を解消された訳では無い。
屋敷の出入を禁止された訳でも無い。
禁軍武術指南役として、体面的に必要な処置だったと理解している。
しかし、しかしだ!
わたしが仕出かした事でも無いのに、あんまりだ!
(だから、謝ったじゃない、ゴメン、ゴメン)
「軽すぎる!この戯け!」
此奴のせいだった。
最近、突撃砲兵のpvが思い出した様にあがります。興味を持っていただいたなら幸いです。




