これがわたしの武闘舞踊だ
発経とは、言うなれば地祇に対する挨拶だ。
経絡の経の部分、活脈、すなわち大地を踏む行為に血脈、気脈を乗せるのだ。その逆もある。
短気なわたしは、行動が先に、つまり活脈が先になってしまう。
大地は発経を受け止める。そして返す。
やさしく発すればやさしく、強く発すれば強くだ。
還った経を、体幹深部の丹で受け止め反射する。
“体の中で何かが跳ねる”のだ。
今なら分かる。地祇が返した己の経だ。
反射した経を、そのまま動き始めた活流(体の動き)に乗せる。
始動発経をすれば、達者ならば経を繋げ続け、全く疲労しない。
聖王兎が三日三晩歩き続けたのは、誇張ではないだろう。
反復した経を歩様に合わせ、
始動発経を使い切る様に移動すれば、脅威的な瞬発を発揮する。
上位武技、“縮地走”だ。
タンッ……タンッ………タンッ!
ここで追加発経をいれる、減衰した経を継ぎ足し、反復経を丹から右腕拳に送る。
右拳経打だ。縮地走と合わせ、この武技は
“疾駆長打”と云う
わたしがあの時魅せられた、老師の疾駆長打は、経歩ではなく練歩なので、似て非なる武技だ。
練歩だと疾駆絶打という。小姐はその違いが分からなかった様だが、素人では仕方ない。
刺突する感覚で、右拳を伸ばす。
腕力で突くのではなく、体幹で打つ。
拳はただの打点だ。
その一連の動作(活脈変じ活流)に経を載せる。
「な!」
反応が遅い、舐めすぎだ!
わたしは躊躇なく、覆面男の腹部を撃ち抜いた。殺すつもりはない、初動から腹部人中が攻撃目標だ。
最も、小柄なわたしには、胸部下が攻撃しやすい。
覆面男は“グッ”と短く呻き声を上げ、崩れ落ちた。
残心は必要ない手応えだ。
私は、僅に覆面男から返ってきた反射経を丹に送り、利脚踏み込みの活流に乗せる。
タンッ!
これが始動発経の代わりとなる、極拳士は発経したら、それを途切らせない。
移動に、防御に、牽制に、攻撃に、まるで舞いの様な動作(活脈)に歩法を絡め(その段階で活脈は活流となる)、経を繋いでゆく。
タンッ!
二人組の覆面男に接近する。目標は大柄の方。
近接戦だ、いや、超近接戦だ。
相互の距離は、拳にして三つ分。
覆面男の呼吸音すら聞こえる程だ。
わたしは、もう一人と、まだ隠れている人間の援護を、頭に置いている。
ここまで近接すると、同士討ちを恐れ何も出来ない。
大柄覆面は距離を取ろうと、後退するが、
わたしはさせない。
タンッ!
下がったら、その分更に詰める。そして、
ダムッ!
男の足を、経歩足で踏み縫つけて、沈み込む様に腰位置を極端に下げると、
「ぐわっ!!ギャァッ!!」
腰下人中、金的を、右腕肘鉄にて突いた。
殺す気は無いのだ、経打ではない。
ただの肘打ちだ。
経打なら睾丸は破裂して、良くて衝撃死、悪くて内部失血死だ。
タンッ!
残心しつつ距離をとる。
大柄男は悶絶しながら泡を吹く。あと二人。
わたしは、昇り始めた太陽を背に接近した。
馬鹿め素人か、何故に日の出を正面に迎える。
タンッ!
何やら構えをとっている、武術の心得が半端にあるのだろう。
だが、太陽を背に誘導出来ない段階で素人だ。
タンッ!
何より、極拳相手に立ち向かうのが、その証拠だ!
タンッ!
極拳の歩様を知らない、だから、わたしの闘法が分からない、
極拳特有の武闘舞踊がわからない。
先程より小柄な男だが、わたしより頭一つ高い。
わたしの先の戦いから、超近接戦の粘身功使いと思ったのだろう。
タンッ!
わたしを懐に入れない為に、右腕中段突きを放ってきた。
朝日を浴びた目眩突きだ、正確性は無い。
わたしは、それを受け止めない。
相手の必殺(気脈、血脈の乗った活流、経に近い)を両掌にて逸らす様に流す。
化経だ。
タンッ!
化経で減衰した経を、経歩で継ぎ足して、
弧を描く様に懐に飛び込んだ。
男は一撃を流されて、そのまま体勢を僅に崩す。
勝機!
わたしは瞬時に屈む、丹位置を下げる。
ダムッ!
経の出力を上げて、男の顎に打上頭打を撃ち抜いた。
額頭突!
頭も打点となるのだ。
“ボクンッ”と云う音と共に男は倒れた。
倒れ方からして、脳震盪だろう。
小姐の方も終わったようだ。
黒士に耳目を塞がれた最後の覆面が、奇声を上げのたうっていた。
わたしは、懐の暗器と共に携行している捕縛縄を使い、全員を縛りあげた。
「ただで済むと思っているのか。洛都の方で少しばかり名を売った程度の小娘が」
更地の隅に覆面達を移動させた。黒靈は便利だ。
「大した物だ、黒靈を前に大口を叩けるとは」
(感心している所を悪いけど、黒靈は普通見えないの)
「なんだと!感心して馬鹿をみた。ん?わたしには見えるぞ」
(当たり前でしょ、私は大姐とかなり同化してるんだから。)
「うん?昔母さまが倒したやつは?小姐が同化前だけど見えたぞ、母さまも普通に見えている様だったが?」
(旱導師は呪符で使役するから、見えるようになるのよ。
私は少し同化したから黒靈は呪符なしで使役できる。
その私と同化している大姐も簡単な命令なら使役できるよ)
「ふうん、あいつら喰わせる事もできるか?」
(咀嚼させる程度なら訓練次第かな?)
「小姐が居るから、意味ないだろ」
(意味ないね)
心で対話している訳では無いので、会話状態だ。
当然、小馨は独り言を言っている様に見える。
覆面で分からないが、男達の顔色が変わる。
“こいつ、キ印なんじゃ……” と思われたようだ。
昨日、こちらとの取引仲介の随行者を、殺害したと推測され、
自分達を圧倒する武術を有する、
気の違った小女。
最悪の結末しか予想できない。
おまけに、奇妙な術も使う。
顔色も変わると云うものだ。
「妙な事は考えるなよ」
偶然だろうが、図星を突かれた形になった。
男は言う。
「どうするつもりだ、殺すつもりか」
その一点が聞きたい、死にたくはないのだ。
「周大人に話をつけたい、双方騙されたようだ、手付金はわたしが返却しよう」
男達は返事に困った、この襲撃は独断だ。
小僧に付けた別動の二人の成果も分からない。
「答えろ、周大人に会いたい」
(……大姐、良い?)
「なんだ?」
(マルコ吾子の周囲警戒につけた黒三だけどね)
「なんだよ吾子って?」
また始まった、男達は固唾をのんだ。
気違い相手だ。次の瞬間に、
“ならば死ねい”などとほざいて、殺されても不思議は無いのだ。
(なんか、覆面二人を“ガブッ”てやったみたい。あれは助からないかな?)
(そうか。まあ、済んだ事は仕方ない)
(そうね、マル吾子が無事なら良いか)
「なんだよ、マル吾子ってのは」
男達は、小刻みに震えだした、目の前の小女が“本物”だと認識したのだ。
「なんか、覆面二人死にそうだって。どうするよ?」
わたしの悪い癖で、なんだか面倒臭くなってきた。
本当、どうしよう。
コイツら始末して、知らん顔して逃げようかな?




