あの技は疾駆長打というんだ
「心配したぞ小馨。もう大事はないのだな」
老師だ、駆けて来たのだろうけど、息は全く乱れていない。
わたしは、老師の声に深く安心したけど、可小姐は違うみたいだ。
?なんで可小姐の感情が分かるんだ?……まあ良いや。
何だか、恐れ、とか、親愛、とか、申し訳無さ、とかで、一番強いのが恐怖かな。
(当たり前よ!胡姐も母上の疾駆長打をうけてみな、必殺の練歩からの突きなんだよ、あの時、母上は本気で私ごと旱導師を始末する気だった)
(ふーん、練歩って何?母さまの動きは綺麗だったね。……思い出した、あのあと瓶から何か出てきて、わたしの口に飛び込んだ)
(だから、なんでそんなに呑気なんだよ。私の方は、あの時黒靈が砕けて、必死で胡姐に飛び込んだっていうのに)
(そうだったんだ。わたしも母さまみたいに強くなれるかな?)
(会話が成立していない!)
「どうした?小馨、まだ具合が悪いのか?
おい導師、どうなっている」
殺気が漏れだしてきた。だが、旱導師は何処吹く風だ。
「………そうだったのか、黒靈では駄目なのか、生霊か、だが?相性も有るはず。易では……」
「導師!答えろ」
旱導師、は興奮覚めやまぬ感じで答える。
「結論から言うと、御息女は安定している。変調は起こらないだろう。……当主殿、人払いを」
異論を唱えたのは王家宰だ。
「旱導師。ここにいる人達は、みな小馨様の身を案じているのです。口外はしませんから同席させて下さい」
「そうもいかない。道法の秘奥に関する内容になる。聞かせる訳にはいかない」
これには反論出来ない。武術も同じだからだ。
「道理だ。王と黄以外は退出しろ」
「いえ、当主殿。小馨様と当主殿以外は、退席願いたい」
「王には大体伝えてある。黄が居なくなれば、小馨が不安になる。今後を考えても、黄も聞いていた方が良いだろう」
有無を言わせない。実際、旱導師に拒否権は無い、小馨の意識が戻った事で、ようやく首の皮が繋がった状態だ。
「……分かった。だが当主殿、臥せる部分は臥せますぞ」
「ああ、無茶を通すつもりはない。わかったら黄と王以外は下がれ」
(わたしは下がらなくて、良いのかな?)
(当事者が下がってどうする!)
冗談だったんだけどね。
わたしは黄姐に助け起こされた、自分でも意外だったけど、体が重い。
導師はわたしに、いや可小姐に話しかけた。
「可馨殿、今どの様な状態なのだ?小馨様の魂に覆われていることはわかる。こちらから観察した所、安定している事も。何故に反魂に成功したのだ」
(胡姐、体を貸して、口だけで良いから)
(良いよ、どうやるの?)
(そう思うだけで良いよ、私は間借り人だから、体の主魂の許可がないと、体に干渉できない)
(返してもらいたい時は?)
(許可を取り消せば良いのよ)
冗長に感じるが、魂同士が繋がった状態なので、意志の相互理解は瞬間だ。
許可の意を伝えると、喉、口、舌がムズムズした。
「旱導師、こうして対話するのは初めてね。
母上、逆縁の不幸をいたしました。申し訳ありませんでした。
それから黄、あとで頼みがあります。
……久し振りの肉声は妙な感じですね」
(あれ?可小姐って普通に話せるんだ、意外)
(胡姐、少し黙って聞いていて、胡姐にも関係するから)
「おお、これは良い。直接対話できるなら、探求が進む」
「……可馨か、久しいな、本当に……
「可馨様?一体何が……」
「お久しぶりです。反魂呪法。実在するとは」
反応は、それぞれだ。
反魂呪法。当然そんな術など道法には無い。
人は死して土に帰る。当たり前の事だ。
だが、その当たり前を受け入れたくない、受け入れられない。
そんな想いが、この呪法の根底にある。
道法の道とは、真理の追及だ。
だから、別に神仙に至る道のみを至上とする訳ではない。
極拳の様に、武に至る道も有れば、
不老不死に至る道を模索する道も有る。
正当道法による仙人道ではなく、
逸れた道、外れた道を選択し、不老不死に至る道を選んだ道法家を、
左道、外道、導師と呼ぶ。
導師と尊称で呼ばれるのは、
手段はともかく、信念が微塵も揺るがない意志に、敬意を払っての事だ。
左道に生きる導師は、特に道流などはなく、各自が独自に道の探求をしている。
旱導師は、黒靈を使役する術を習得するに至り、魂の癒着性に着目した。
結果、不完全ながらも、独自に反魂呪法を産み出した。
反魂。という点のみの評価では、数例の成功を修めたが、
反魂者の人格は破綻しており、数日で処分せざるを得なかった。
反魂者の精神は、好意的に見ても、狂人に過ぎなかったのだ。
獣のほうがまだマシならば、人として存在させる意味が無い。
だから、処分するのだ。
今回は、成功した実験体自身と意思の疎通が可能だ。
上手くいけば、長年の夢が叶うかも知れない。
そう、不死不死に至り、永遠に生きるという、誰もが夢見る、ありきたりの夢が実現するかも知れないのだ。
曖昧模糊とし、矢鱈と不可条件や制限が有り、大前提として、仙骨の有無を問われる仙人習法など、
旱導師には、道化習法としか思えなかったのだ。
投稿時間をずらしてみます、試行錯誤と云うことで。本日はもう一話19時頃投稿してみます。
新規に読者開拓出来たらうれしいですね




