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武侠少女!絹之大陸交易路を往く!?  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
2章
109/156

誰だお前は!何処に隠れていた!なんてな

「申三番頭様、お客様をお待ちしておりました。連絡は受けてはいたのですが、いささか到着が遅れている様なので、支店本部に確認を走らせた所でした」


 周家経営の広州大飯店の宿泊受付だ、周家の客を宿泊案内するだけあり、立派な宿所だ。


「お客様との重要な商談が長引いたのだ、周家にとってとても重要なお客人なので、くれぐれも失礼の無い様に」


 何気ない会話だが、河南語だろう。わたしが普通に番頭の申と会話してたので、彼等の通常言語での伝達会話だ。


 荷を運んだ下人に手間賃を渡して帰らせる、番頭にはまだ警邏局への道案内が有る。


 宿帳に記名をした、本名でだ。

 これが周家関係以外の宿ならば身分証である通行手形の提示が必要だが、身元証人である周家番頭の同道だ、態々身分証を提示する意味も無い。


 同様に善順、マルコ君の手形名と、まとめて記名した。


「胡小馨様ですか……お名前に覚えが有ります、高名なお方なのですね」


 うっかりしていた、そう言えば広州で亮順様が、謀反騒動顛末記を講釈で聞いた様な事を言っていた。

 客商売なら、噂話を会話のネタとして覚えておくものだ。


 そんな事を昔楊親分が宣っていた。


「ああ、よく言われる。胡姓は割と多いから同名の有名人が多いのかな。

 少年とは同室で構わない、剃髪は個室で。部屋自体は隣室にしてくれ」


 取り敢えずスッ惚ける、まあ、そもそも胡人は敢えて個人特定を避ける為に胡姓を名乗り、似た様な名を付ける。


 わたしの偽名の、と言うか元の手形持ち主の胡蓮華など特に多い名だ。知り合いに三人程いる。だから普段は適当に付けた通名呼びだ。本名はまず名乗らない。


 因みにだが、マルコ君の通名、と言うか手形上の名は胡九郎(フウヂゥラァン)と言い、マルコのマの字も含まれない。


 全の手配で、特徴、年齢など一致した別人の物なのだろうが、ひどい物だ。


 まあ、中原入国の胡人は、本当に適当な名前を付けて入国審査に及ぶそうなので、逆に違和感が無いらしいが。


「では行ってくる、宿内での飲食はわたしの名前で付けてくれ、マルコ君を頼むぞ善順」


 多分、全て周家持ちだろうが、態々店内で“周家客だ”と騒ぎ立てる事も無いのでそうして貰う。


「分かりました、お早いお帰りを」

 が善順。


「同道したいのですが……仕方ありません」

 がマルコ君、兎歩効果かこの程度歩いたくらいでは疲労が無い様だ。


 番頭の申を先頭に、わたしは行政府内警邏局へ向かった。




 行政府は水堀で囲まれている。城壁造りでは無く石柵が堀の内側に巡らせてある。


 柵と言うが高さは一丈(2.3m)を越える。行政庁舎が並ぶので風通りの為だろうか。


 水堀の巾は十五~六丈(約34~7m)だ、水深までは分からない。


 行政府の最奥が親王居住区だろう、内堀に囲まれて、外堀とは違い城壁造りとなっている。


 当然親王居住区である親和殿に立ち入れる訳など無い。


 だが、左道使いの悪食家は、妙な所で好奇心が強く、士に視界同調して上空から覗き見たのだ。


(公子……偶然でもお目にかかれないかな)

 王位に就かれたお方を公子と呼ぶのは不敬だぞ。


 雲上人を上空から覗き見て不敬も何も無い物であるが。


 この国では二代目皇帝永平帝の父王、健仁王に習い、王位に就く事は、慣習的に皇位継承の辞退を意味していた。


 なので、継承権を有する公子位と、継承辞退の王位を混同するのは、大層不敬である。


 時間が有ればじっくり観察したい所ではあったが、本来の目的は善順の審査予約だ。

 まだ、刻限は申の正刻(午後四時)を少し回った所で、役所の終業時間に半刻程有ったが、だからと言って親和殿観察を優先するのは本末転倒だ。


 行政区画内の警邏局本部に案内された。


 受付窓口で尋ねると、通行手形に同行者(奴隷)を記載する業務は保安課の管轄だそうなので、そちらに回される。


 役人が横柄なのは今に始まった事では無い。


 時間的に窓口は空いていた、難なくたどり着く。


「同行者の手形裏書き申請をしたい」

 手形、善順関係の書類一式を提出した。


「裏書される(同行奴隷)当人が居ませんね」


 冴えない下級官吏が呟くように駄目出しをする。申番頭は初老年配で、申請書記載の年齢にはどうみても見え無い。


 善順は十八だ。


「ああ、受付終業時間まで微妙だったから予約だけでも入れたくてな」


「予約制度をご存知でしたか、はて、奴隷商には見えませんが」


「教わった。時が惜しい、不備があるなら教えろ」


 イラッときた、この手の下級官吏とは仲良くなれない自信が有る。


 またこの手の下級官吏に有りがちな事で、特にこちらの心情など気にも留めず、手形や書類に目を通す。


「胡蓮華殿ですね、赤毛、小柄体格、痩身、身体的な特徴は一致しますね。では、二、三質問します」


 形式的な物だ、手形の現住所は開業府洛都だ、なので開業府が何処に有るか、広州入関までの道順や、裏書人の入手経緯などが聞かれた。


 広州から沙海までの船旅は周海運によってだが、それは周延により胡蓮華名で証明書類が作成されている。


 何で輸送船で?などとは聞かれなかった。


 “小役人らしく詰まらない事を聞いてこい”などと腹内で毒づく。


 設定を考えてきた悪食家としては、肩透かしである。


 特に不備も無いとの事で、後は善順の本人確認のみの運びとなる。

 明日の始業に合わせた巳の初刻(午前9時)に審査予約がなされた。


 書類一式と通行手形は提出となるので、仮身分証が発行される、これは予約票ともなるので、()くせない。


 失くすと本人確認の術が無くなるので、再発行の手間はかなりかかる。本籍地から確認書類(住民票か納税書類)を取り寄せての確認になるか、身元引き受け人の引き受け証が必要となる。


 こうして治安維持局での用事は済んだ。道案内の申番頭が同道している事もあり、親和殿の覗き見は後日の事とした。


 普段なら悪食家の思い付きを、嗜めるお目付け役が小言を宣うのだが、今回は一緒になってはしゃいでいる。


 遨家勘当の元となった公子だが、それを恨むは逆恨みであり、小馨としても公子は嫌いでは無いのだ。


 二歳年下なので三年前は十二才の少年公子だ。

 公子が十一才の頃から極拳指南のお供に随行していた。

 可馨は兎も角、小馨は弟弟子感覚だった。


 畏れ多いとは感じながらも、組手功練など容赦しないものだったのだ。

 半端に武を齧ると取り返しがつかないからだ。



 周大飯店に帰りつくと、わたしに面会依頼が入っていた。


「わたしに面会?周家か?」


 わたしはてっきり袴の件だと思った。袴の裾上げが済んだら届けて貰う事になっていたのだ。


 夕刻からわたしの歓迎宴をここで開いてくれる事になっているので、その時にでも届く物と思っていたのだが、わたしが袴の事を気に入っていたのを、周家針子も見知っていた。

 なので頑張ってくれたのだと思ったのだ。


(いや、それなら面会依頼なんてしないよ、大姐はいつも言っているけど、遨家の評価が低い。周殿が付き合いの有る商家に話したのかも、まあ、名刺を見て見よう)


 わたしの外出中に預かったと言う名刺を、広州大飯店支配人から受け取った。


 名刺とは、氏名、来歴、面会目的が書かれた自己紹介帖なのだが、

 ……見覚えが有る名刺表札だ……


 背後に人の気配を感じる。


 士も三も午朗も感知しないこの感じ。

 忘れる筈も無い。


 いつの間にか回り込まれている、不覚。


 背後の人物は口を開く。


「ようやく、ようやく捕まえましたぞ、お嬢様、まさか沙海まで出られていようとは」


 うっかり警邏局から黒靈を外したままだ、特徴的な赤髪を曝している。

 せめて二角帽をかぶって置けば良かったか。


「わたしの事を、お嬢様と呼ぶ者は誰だ!」


 わたしは振り返る。いや、こうも簡単にわたしの背後を取る人物だ、心当たりは当然有る。


「私です、お嬢様、呂達に御座います、こちらの宿より連絡を受けて、飛んで来ました。

 同名の可能性を考えて、名刺を支配人に預けましたが、連れ人の記載名で、いや、何よりお嬢様の筆跡で分かりましたとも、本当に探しましたとも」


「何だと!誰だお前は、何処に隠れていた」

(……………)


 悪足掻きでは無い、幼少時からの付き合いの用人だ。幼少時のわたしの専属だった。

 呂達は気配を消すのが上手いので、こうして良くからかって遊んだのだ。


 その名残だ。因に台詞は、特にお気にだった武俠冊子からの引用である。何度呂達に言ったか覚えていない。


 呂達は涙ぐんだ。

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