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武侠少女!絹之大陸交易路を往く!?  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
2章
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励明公子が……お懐かしや

「さて、胡様。肝心の天湊行きの船なのですが、生憎周海運は運行していないので、客船での出港と成ります。

 その場合、通関検査を受ける事に成りますが、胡様の手形は難有りなのでしょう。

 なので、やはり商船同乗が宜しいかと。天湊行きの商船に商用名目で乗船するのです、これなら周公司社員証でもおかしく有りません。

 ただ、受入れ先の商家とも話を通さなければならないので、少しばかり時が掛かります」


「それについては目処が立ったから、別に客船でも構わない」


 思考誘導術が思いの外使えた。偽名手形でも大丈夫だろう。

 正直な所、輸送船は飽きた。客船ならば娯楽も有るだろう。料理も三度三度似た物ばかりでは無いだろうし。


「誠ですか、お名前が別人の物と伺いましたが」


「詳しくは言えないが、手形自体は本物だ。開業から広州まで普通に通関してきたからな」


「……左様でしたか、では広州出港の証明書を周公司で発行すれば、沙海通関は可能ですね。……ただ、それでは何故周公司社員証で海運船での出港をなされたのですか?」


「事件に巻き込まれてね、多分広州では参考人手配されている。

 いや正直に言おう、正当防衛で連れの者を殺めた。無礼打ちなので慣習に習い遺体を放置したのだが、それが仇となった。

 まあ、それを含めて嵌められたのだが、手が回らない内に広州を離れる必要があったのだ」


「………なにやら不穏な内容ですな」


「ああ、これでも貴人家の養女だ、内容は伏せるが数年前の謀反騒動解決にも関与している、貴人家、士大夫家に敵は多い」


 船中暇に任せて小姐と考えた設定だ。あながち嘘ばかりでも無い。


 当初旱導師の単独犯行と思っていたが、良く良く考えれば、わたしに手出しする事は遨家、いや母さまを敵に回すと云う事で有り、それは狡猾な導師にそぐわない。

 表面上は母さまと和解しているのだ。


 そして遨家と敵対しても構わない勢力となると、やはり謀反騒動の時の士大夫勢力しか考えられず、旱導師と利害一致で野合したとしたほうが通りが良い。


 実行は旱導師、後ろ楯として敵性士大夫、利害はわたしの確保と、報復。


 うん、整合性はとれている設定だとは思う。事実は分からないが、それ程外れでも無いだろう。


 わたしの与太話に、周延殿が息を飲んだ。


 マルコ君達の方を見ると、善順が間抜け面を晒している。元の造作が悪くないので、余計に間抜けに見える。


「成る程分かりました、偽名手形もご自身の安全の為に手配された物でしたか、流石は貴人家、伝の規模が民間とは違います」


「え、いや、あ、うん、その通り。治安維持庁長官、郭价様に手を回してもらっている、だから偽名手形自体は本物だから問題無い」


 適当に答えておいた、設定が増えたな。今思ったがわたしは嘘が下手だ。内容はともかく顔に出すぎる。


 爆弾発言が周延から飛び出した。



 因みにだが兵器としての爆弾は既に開発されている。火薬の元となった仙薬は、道家から発生した薬家が発明したのだ。


 祭りなどで鳴らす爆竹は、少し後の時代で、火薬が民間に流布される様になってからだ。



「時に胡様、謀反騒動と言いますと三年前の瓤嚢(じょうのう)王の事でしょうか、私の倅の元服年の大事でしたので、覚えています。

 その時ご活躍された公子殿下がこちら沙海を収められました」


 瓤嚢とは地名だ、蜜柑の一大産地で、史上こんな地名で呼ばれていた。地名の元となった山の形が、柑橘類の瓤嚢房にそっくりなのだ。


(!……………まさか!)

励明(リィミィン)公子……殿下が沙海を拝領していたのか。お懐かしや」


「……胡様は殿下と面識がお有りでしたか、雲上人との繋りがお有りとは、………驚きを隠せません」


「殿下が極拳に興味を持たれて、母さま……遨老師が指南のために登殿したのが始まりだ。

 殿下は健康不安が有り、兎歩習得が当初の目的だったが、遨老師の人柄に感化され本格的に鍛練を積まれる事となった」


(殿下は線が細い御方だった。御身体が弱く寝込まれる事が多くて、私の様に読書が唯一の慰めだった、御可哀想なお人だったね)


 ……分かっているとは思うけど、殿下は雲上人だ、妙な事はするなよ。


(………うん………)


「成人前の殿下は、禁城後宮にある子房宮で過ごされて居られた。

 男子禁制の後宮だ、殿下の組手功練には年の近いわたしが当たる事となり、畏れ多くも親しく接していただいたのだ。

 生真面目な御方で熱心に鍛練を積まれて居られた、懐かしや」


「その様な事が。……公子殿下が沙海に入領されたのが今年の春先でした。

 元服加冠をお済ましになられ、姫君を娶られ、沙海入府に伴い江稜(こうりょう)王に封じられました。

 大層聡明な親王殿下と、有力者達から声が上っております」


「ああ、さもありなん。人一倍努力家で在られた、治世統治の勉学を持ち前の勤勉さで積まれたので在ろうな。

 殿下はどの様な治世を成されたのだ」


 入府してそれ程時は経ていない、春先に沙海入りしたのなら、まだ半年も経っていない、にも関わらず好評価なのは、何がしかの施政がされたからだろう。


「はい、先ずはそれまでの通例で有った恩赦を廃止されました、替わりに無縁諸仏の大法要を営まれました」


(………殿下は覚えていてくれたんだ、本当に律儀な人だね)


「うん……済まない周延殿、政治には疎くてな、それが高評価に繋がる政策で有るものなのか?」


「いえ、これだけでは。………ただ、殿下は恩赦を廃され、法の厳格、公正、正大さを示されました。

 正式な手順を踏まれて確定した罪科を、“施政者の吉事と云う理由で反故にするは道理に合わない”と仰せられました。これにより殿下の高潔さ、遵法意識の高さを知らしめました」


「成る程、流石殿下で在られる、道理を好まれ、不合理を憎まれて居られたからな、お変わり無い。して法要の件は」


「諸霊救済が一番の目的なのでしょうが、その実、寺社庇護を明言されたのでしょう。寺社からの納税は、新任の殿下には無視出来ない額でしょうから。

 つまり資金確保の為に寺社勢力を取り込んで、足元を固められたのでしょう。

 これは若さに似合わない老練さ、思慮深さ、現実認識力、実行力を示された事になり、またその様な聡明さを持たれている殿下で在られると知れ、商屋家からも期待が大きいのです」


「成る程。ただ周延殿。殿下は政治抜きにして、佛道の教えに帰依されているから、諸霊諸仏救済はついでの事では無いと思う」


 鍛練の休憩時には小姐に替わってもらい、公子に対応してもらっていたのだ。

 佛道の話を吹き込んでいたから間違い無い。


 毋さま主催の佛道講談で、わたしも佛道説話を聞き齧っていたから、小姐の話は少しばかりは理解できていたのだ。


 公子が小姐の話を興味深く聞いていた事が印象深かった。


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