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月うさぎのわけ

作者: 鵜塚 夕

 ある山の野原に、一匹の白うさぎが住んでいました。



 白うさぎは、この山の誰よりも高く跳べることを一等誇りに思っていました。



 ある夜のこと。ふと見上げた空に、まあるく柔らかい灯りをともす大きな月が浮かんでいました。白うさぎはその大きなまるい目をこぼれんばかりに見開いて、思わず止めていた息をそっとはきだします。


 “とてもきれいだ、ぼくもあそこへ行きたい。”


 白うさぎが、満月を見たのはこれがはじめてのことだったのです。生まれてこの方、満月の日はいつも曇りや雨ばかり。こんなにも美しく輝く月があるなんて、思っても見なかったのです。



 “ぼくは、この山の誰よりも高く跳べるんだ、きっと月まで跳べるはずだ。”



 いてもたってもいられなくなった白うさぎは、すぐに開けた野原の端までいき、助走をつけて思いきり月へと跳ね上がりました。

 月が近づいた、かと思うと直ぐに遠ざかり地面に足が着いてしまいました。



 “どうして、だってぼくは高く跳べるのに。”



 諦めきれず何度も、何度も、何度も跳びはね、しかしどうしても届きませんでした。







 それでも、白うさぎはまだ諦めきれませんでした。



 “そうだ、特訓しよう。もっともっと、高く跳ぶんだ。”



 その日から、白うさぎの特訓が始まりました。毎日山を2つも3つも越え走り、空に向かって何度も飛び跳ねます。



 雪降る凍てつく冬が過ぎ、雪溶けて暖かな春がきて、桜も散り、梅雨超えて、蝉の声響く焼けるような夏が過ぎ、ようやく待ちに待った秋、十五夜が訪れました。



 その頃には、白うさぎはより一層逞しい出で立ちになり、その目は自信に満ち溢れていました。



 “さぁ、ようやくこの日が来た。ぼくは、月にいくんだ。こんどこそ大丈夫、跳ぼう!”



 白うさぎは野原の端に立ち、勢いよく走り出しました。ぐんぐんとスピードが上がり、そして、持てる力を後ろ脚に全て込め、渾身の力で思いきり跳びました。みるみるうちに月が近づいていきます。



 “あぁ、やっとだ!”



 そう思ったのもつかぬ間、その勢いは落ち、身体が落下し始め、白うさぎはとうとう地面にべしゃりと打ち付けられました。



 白うさぎは、何が起こったのか分からない、という顔で、吐き出された空気をひゅっと吸い込みました。


 “どうして、なんで、ぼくは、”


 白うさぎは、無言で地面から起き上がり、また野原の端まで跳ねていき、そのまま再び勢いよく走り出しました。そして思いきり跳びはねます。



 べしゃり。

 白うさぎは、また地面に打ち付けられたのでした。そのあと何度も、何度も跳んでは、何度も、何度も、何度も地面に落ちました。




 白うさぎは、月の出る夜、毎晩月に向かって跳んでは落ち、跳んでは落ちを繰り返しました。


 生涯、休む間もなく跳び続けたのでした。



 力尽き、息絶えた白うさぎを見下ろして、和尚は呟きました。「うさぎが月まで跳べるはずもなかろうに、よっぽど月に魅入られたのだな、かわいそうに。」



 野原のすぐ側には、和尚のお寺があったのです。白うさぎが月に飛び跳ねていた何度目かの晩から、和尚はその姿を見ていたのです。



 憐れに思った和尚は、月を写す池のそばに白うさぎの塚をたて、月の綺麗な十五夜に団子を供え、「あぁ、月で白うさぎが団子をついておるなぁ。」と月見を広めたのでした。






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