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勇者家族のへっぽこ長男  作者: 蛸山烏賊ノ介
第5章 独り立ちすることが目標のへっぽこ長男
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5.09 勇者パーティは冒険者たちと対立

 必死かつ粘り強く説得の末、どうにかこの地で妖精教の成立を阻止することができた。


 冗談じゃない。


 毎日に献上品を食べて、一日三回はある拝跪の礼を受け、水龍ミズチと並ぶ守護神でいてほしいと言うけれど、早い話ここで監禁されるだけだ。


 ビワコ村の怪我人を治して、神がごとく崇められるリリアンはまんざらでもなさそうにしてたけど、俺が魔力の譲渡をやめると脅迫したら、あっさりと前言撤回してすがってくる異族たちをリリアンは退けた。


 巻き込まれやすい体質を持つ俺だけど、拉致されるのは勘弁してほしい。



 ギルドが施すジャミングは俺のスマホに通用しない。


 ラビリンス通信放送の技術力をナメるなと言いたいところだが、この技術はムスビおばちゃんが俺らファミリー全員だけに持たせるスマホで使われてる。



 幸永と洋介はすでに山城地域に到着し、九条さんと話が終わったら、俺と同じのルートでこっちへ向かうので、イスファイルさんにそのことで連絡しておいた。


 マイはハナねえとさっちゃんに同行しているみたい。


 三人は琵琶湖を北側から回ってくるそうで、道中の心配はするなと言われた。当代の勇者、最強の魔法使いである魔導師、それに遠近両用の戦乙女を相手に、なにを心配すればいいかをまずは教えてもらいたい。


 正重は来るつもりだったがこっちから断ってやった。


 対人戦では実戦に及びたくないために、化かし合いに持ち込むあいつが来ると、混雑すえう事態がさらにややこしくなりそうだ。スマホの向こうで落ち込んだあいつの声にちょっとだけ心が痛んだが、今回はお呼びでない。



『ねえ、本当にあんたに任せていいのかい?』


『ああ、これは人間同士のいざこざがナツメさんたちを巻き込んだみたいなつまらない出来事だから、ケジメはこっちでつけます』


 ムスビおばちゃんの確認に俺は自分の考えを伝えた。



 焼け落ちた家がある村で、俺はナツメさんとイツキさんから事情を聞いた。


 ビワコ村はこの地に住む異族が食べる以外の魚を、ラビリンスグループに卸す干物とした。


 俺が去ってから何度か大津ギルドから冒険者が派遣されたが、イツキさんたちは大津ギルドとの交易を頑なに拒んだらしい。


 そのことが大津ギルド側を強硬な態度に変えさせ、ビワコ村から干物を含む水産物が冒険者に強奪される事態に及んだ。


 サバギン族は抵抗したけれど、Aランクパーティを中心とした冒険者チームに勝てるはずもなく、去り際に火を放った冒険者チームの行為に気付いたアンドレアスさんたちが武器を持って逆襲をしかけた。



 双方に怪我人が出た戦闘は幸いに死者が出ることはなかったけど、冒険者チームが撤退してから数日後に、アンドレアスさんはスマホで大津ギルドの公布した緊急クエストを見た。


 ナツメさんたちサバギン族はこの地から離れて、ギルドの襲撃を避けようとしたが、アンドレアスさんたちの戦意を抑えることはできなかった。


 高まる緊張の中でホイホイ出てきたのが俺こと、勇者家族(ファミリー)のへっぽこ長男、のほほんの山田太郎だ。



『妖精様がそういうなら、あたしたちは従うよ。

 タッロ、お前に任す。

 だけど戦いになったら、あたしたちは引くつもりがないからそれだけを理解して』


『わかった』


 リリアンの勧告にリディアさんたちは引き下がってくれた。


 ただそれだけじゃないということを俺はわかってる。


 アンドレアスさんたちは冒険者の中で最強と言われる当代勇者(マイたち)がものすごく気になったみたいで、その勇者たちが来るのだから アンドレアスさんたちはその実力を確かめてみたい思いがあるようようだった。



 琵琶湖の畔から眺める夜空は、池田村で見るのと同じくらいにきれい。満天の星を見つめているうちに気分が悪くなりそうなくらい、煌めく無数の光が空のキャンパスに掲げられている。


 旧時代を知る学校の先生が言ったことは今でも覚えている。


 昔は夜空で星が見えにくかったそうだ。ただそんなことは今を生きる俺らにはわからないことだし、気にすることもない。



 いつか、モンスター族が俺ら人間と対等で一緒に生きる時代がくるのだろうか。


 それはどんな光景になるのだろうか。


 ねぐらでグースカ寝ているリリアンを見て、俺も与えられた小屋で寝ようと澄んだ空気を吸った。


 明日の朝一番にまずは幸永と洋介がここにやってくる。




『困ったねえ。あなたたちの力になりたくて来たなんだけど』


 貴公子たる風貌して朝焼けの中で佇む幸永は、アンドレアスさんたちケンタウロス族に囲まれても焦るそぶりをみせない。


 幸永の隣にいる洋介はアダマンタイトの鎧で身を固め、まるで幸永を守る騎士のように、険しい顔でアンドレアスさんたちを牽制してる。



『おはよう。夜中に山の中を駆け抜けてきたのか』


『おはよう、ターちゃん。

 オーク族に連絡を入れてくれたおかげで、モンスター族からの襲撃がなくて助かったよ』


 騒がしい声で起こされた俺は、寝ぼけているリリアンを腰にあるねぐらに入れてから、騒ぎの元となった幸永たちの傍に行く。


 アンドレアスさんたちケンタウロス族は俺の様子を見てから、剣の柄を握ったままの拳を緩めた。



『こいつがお前の言った賢者か』


『初めまして、ケンタウロスさん。

 勇者パーティで賢者(セイジ)を務めるヴェルディア幸永と申します。隣にいるのが――』

聖騎士(パラディン)の高坂洋介だ』


 俺へ質問するアンドレアスさんに返事したのは幸永だった。


 洋介は戦闘モードを解かないまま、簡潔な言葉で自己紹介を済ませた。その態度にリディアさんの眉が動いてしまったので、俺はこの場を和ませるために慌てて洋介の前に立つ。



『みなさん、おはようございます。

 勇者パーティでお馴染みの運び屋(ポーター)を務めるタローですよ。

 今日は俺らに任せてほしいので、みんなが村の中で待機してくれたら嬉しいなあ』


『……タッロの願いなら聞き入れよう』


 再度剣の柄を握るリディアさんが大きく息を吐いてから、正面に掲げたミスリルの大盾を横に向け、その姿勢でケンタウロス族の村へ走り出す。


 それに続くかのように、この場にいるケンタウロス族が次々と立ち去り、最後尾を行くアンドレアスさんは俺へ目礼だけ交わしてから、村のほうへ駆け出した。



「あのなあ、洋介。

 モンスター族に慣れてないのはわかるけど、助勢しに来ておいて、その態度はないだろう」


「ご、ごめん。強そうだったのでつい……」


「ターちゃんの言う通り、ヨーくんは時と場合を弁えることを学ばないとね。

 でもあのケンタウロス族は迷宮魔物(ラビリンスモンスター)じゃ比較できないほど強いね」


 やはり幸永と洋介辺りにもなれば、アンドレアスさんたちの強さを推し量れるものだ。


 俺の場合はリリアンから教えてもらったが、アンドレアスさん一人がタロット50人でも敵わない強さと言われたときは、しょんぼりとなったのは今でも覚えてる。



「この後はマイとサチ、それと()()()()()を待てばいいのかな」


「ああ、そうだ」


 洋介はハナねえのことを聞いてすぐに赤ら顔になった。


 それ光景をニヤニヤした表情して、俺と幸永は純情な青年へ声もかけずにただ目をやるだけ。


「なんだよ」


「別にぃ」

「なにもぉ」


 そんな雰囲気に耐えられなくなったのか、洋介が突っかかってくるような言い方で、俺らにぶっきらぼうな口調で喋ってくる。


 幼馴染(ようすけ)の性格を掴んでいる俺と幸永はまともに取り合うつもりがない。



「まあ、冗談はこのくらいにしようか」

「そだね」


「冗談って、お前らなあ――」


「洋介もハナ姉さんが来るからって、気持ちを高ぶらせるじゃないよ。

 今日の対応で下手したらギルドと対立するかもしれない」

「幸永、それは――」


「今回ばかりはギルドとことを構えちゃうよ?

 どこかで線引きしておかないと、私もヨーくんもギルドの手先として扱われるからね」

「……」


「これは勇者ファミリーの方針、総帥(かあさん)がそう言ってきたから洋介もそのつもりで」


 幸永やマイたちはムスビおばちゃんのことを総帥と呼んでいる。


 ムスビおばちゃんが総帥のイメージにピッタリのは認めるけど、俺だけが呼ばないのは、なんだか自分が悪の組織にいるみたいで格好悪いと思ってるためだ。



 朝の太陽が大地を照らし、小鳥が飛び交う秋空はどこまでも青い。


 この後は幸永と洋介に俺が持つ情報を伝達して、幸永がどう動くかを判断することだろう。


 マイ、さっちゃんとハナねえはそういうことに関心がなく、全員が動くときは幸永と正重のどちらかが状況判断で行動して、その指令に俺らが従ってきた。




 勇者パーティと対峙するのは緊急クエストを受けた冒険者たち、全ての顔に困惑の色が浮かんでいた。


 サバギンやオークを討伐しに来た冒険者たちにとって、ビワコ村という敵地を前にして、立ち塞ぐのが勇者パーティ(マイたち)であることが理解できなかった。



「……お前ら、なんのつもりだ」


「勇者の名の下において、この先へ立ち入ることを禁ずる」


「何様のつもりだ!」


「勇者様だよ、近江地域大津支部の一支部長殿」


 売り喧嘩に買い喧嘩なら幸永がとにかく大の得意、今までこいつが口喧嘩で負けたことを見たことがない。


 しかし今日の幸永はいつもと違い、勇者をダシに安直な脅し文句を口にしている。


 今までの幸永と比べれば、なんていうか、()()()()()()と表現したほうが正しいかもしれない。



「なんだとお……

 てめえら、ギルドに盾突いてタダで済むと思ってんのか!」


「ギルド? これはおかしいことを言う一支部長だね。

 報酬金の出所がギルド本部からではない、探索協会の会長に承諾を得ていない緊急クエストにどのような法根拠があるというのでしょうか」


「――てめえ、なにを言ってやがる」


「これでもギルドの本部から指名されている特定Aランク冒険者でね、色々と情報は入るんだよね」


「どういうこと?」

「知らねえよ」

「勇者たちがなに言っての」


 幸永の言葉でたじろぐ大津支部の中島支部長、その後ろにいる緊急クエストに参加した冒険者たちがどよめいてる。



「ここで引いてくれませんか?

 私たち勇者パーティはあまり人間を相手に戦う気がないんだ」


「アホ言え、こちとらちゃんと国から許可を得ての緊急クエストだ。

 勇者でも政府からの依頼を邪魔したら、ただでは済まんことがわからんのか!」


「国ねえ……

 政府というより政党と思うけどね」

「んな!」


「まあいいでしょう。

 私たちは引く気がないから支部長のあなたがこの後の行動を好きに判断すればいい。

 やるならどうぞ、お相手致しましょう」


「て、てめえ……」


「――おいおい、なにをもめてやがるんだ。

 こっちは緊急クエストをさっさと終わらせて、報酬(かね)をもらいたいんだがな」


 睨むヒャッハーな支部長と涼しげに受け流す幸永が真っ向から対立するところへ、緊急クエストを受けた冒険者の間から、いかにも強そうな冒険者パーティ4人組が下品そうな声で口を挟んできた。



「お前たちは――」

「――中島さんよお。

 勇者かなにかは知らんけどよ、こんなガキどもにナメられちゃギルドもお終いってもんだぜ」


「そ、それは……」


「だからよ……こいつら……して……で……

 な?」

「――それは!」


「静かにしてくれよ、声が大きいぜ」


 露出度の高い屈強な筋肉ダルマが中島支部長になにやら耳打ちしているようで、見る見るうちに支部長の顔が青ざめていく。


 これはだれが見ても悪知恵を入れているようにしか見えない。だが筋肉ダルマはそれを気にすることもなく、卑しい笑いを浮かべている。



「ゆ、勇者たちは大津ギルドの緊急クエストを妨害する疑いで拘束する。

 こいつらを束縛すれば追加報酬を支払う。生死を問わずだ」


 明らかに穏便じゃない言葉を青白い顔で叫ぶ大津ギルドの支部長。


 それを聞いた冒険者たちは動揺を隠さず、隣にいる仲間と顔を見合わせる。


 洋介がスッと目を細めてから腰にある剣の柄を握る。


 その拳を横から現れた女性が手を添えて、剣呑だった洋介が瞬時に赤ら顔になった。



「あら、武蔵地域でご活躍のAランクパーティじゃないの。

 ワイルドファングの皆さんが近江地域の緊急クエストに参加するほどお暇かしら?」


「はっ! これはこれは。

 最強の魔導師といわれる山田花子から顔を覚えられるとは、俺たちも有名になったもんだな。なっ!」

「ぎゃはははー」

「違いねえぜ」


 ハナねえからの揶揄に臆することもなく、筋肉ダルマは隣にいる同じパーティのメンバーと笑いをあげた。



「魔導師さんよ、俺たちゃ大津ギルドの支部長から、お前らをつかまえろって命令されてんだ。

 大人しくしてくれよ、けが人は出したくないんだろ?」


「勇者の身分は国によって保証されてるの。

 捕まえたかったら内閣総理大臣の命令書を持ってくることね」


 怒りを露わにする洋介を右手で制して、ハナねえは筋肉ダルマへ冷笑を浴びせる。



「はは、どっちでもいいんだ俺たちはよ。

 怪我人が多ければ多いほどいいし、死人が出ればそれに越したこったねえ」


 筋肉ダルマの小さな呟きは身体強化をかけている俺以外に誰にも聞こえていないようで、手甲を握りしめたそいつから Aランクパーティの成員に相応しい殺気が放たれた。


 それに触発され、数十人の冒険者が得物を抜き、まさに戦闘へ突入しようとしたこのとき、幸永が優雅な身ごなしで前へ出る。



「面倒だよね、まったく。

 ――ハナ姉さん、マイ! 爆発魔法(エクスプロージョン)だ」


 頭上に極小な太陽を作り出した幸永へ、ハナねえとマイが右手から同じ魔法を飛ばした。


 回り出した極小な火球は体感できるほどの熱を発しつつ、回転する魔法の火球はスピードを上げた。





ブクマとご評価して頂き、とても励みになっております。誠にありがとうございます。

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