特別編2 ばとる・おぶ・SekiGaHara 中編
猛攻をかける東軍に押し返す西軍。
例年のように午前中は西軍が若干優勢になるけれど、もうすぐ歴史が動くはず。だがその前になぜこの武将がここにいる。
『どうしたらいいと思う?』
『いや、どうって言われてもねえ』
コバヤカワ金吾さん。
もっとも目の前にいるのは、鎧を着せられてるような線の細いバンパイア。悩んでいるように見えるけど、口はパクパクとカラアゲ棒を食べている。
そのせいで加奈子が愛実のお手伝いに、追加の鶏肉を一口サイズに切っているところだ。
『お代わりを』
『毎度ありがとうございます』
さすがに大判を出してくれるお客さんはカモさんしかいなく、その後にきたシマさん、トウドウさんやオオタニさんたちはお代に小判を出してくれた。
それでもウハウハ大儲けが確定されてるものだから文句などない。現に今もコバヤカワさんが二枚目の小判を出してきた。
焼きそばを大テコでかき混ぜながら、味付けにソースを加える。
『今年はやっぱり寝返りしたほうがいいかな?
——店主はどう思う』
『さあ、そこは金吾さんがお決めになられるがよろしいかと』
『困るよなあ。みんなは店主みたいに自分で決めろとか、好きにせいとかいうけどさあ、意見くらい出してほしいよなあ。
――あ、ビールお代わりね』
「早紀ちゃん、コバヤカワさんにビール二本ね」
「はーい、わかりました」
足軽ゴブリンの行列で混んできた。
魔石がないために、店の外で頭を抱えているやつを見かけたが、刀で切腹しようとするのは勧めない。魔石が入るより先に自分が消える、というよりその魔石がお前だ。
『やっぱりここは裏切りしかないかなあ……
——店主はどう思う?』
『金吾さんはどうしたいですか?』
質問を質問で返してやる。このままだと決着がつくまで終わりそうにない。
『今日が終わるまで、ここでビール飲んでカラアゲを食べることかな。
——あ、カラアゲはお代わりね』
『さすがにそれは……
まあ、そこは金吾さんの選択で戦いが決まるわけですからね』
「――早紀ちゃん、カラアゲお願いね。」
「はーい」
『そうなんだよなあ……
一度だけさあ、東軍へ進撃したのよねえ。勝ったのはいいけど、ダンジョンに帰ったらみんなから責められてさ。
シナリオを無視するなよって』
『そう、ですか』
——ええい、こちとらキャベツを炒めるのに忙しいんだ。雑談はまたにしてくれるかな。
『でもなあ、裏切ったら裏切ったでヒデコがネチネチと一年も文句を言うんだよ。
ひどいと思わない? どうしたいいと思う?』
『じゃあ、歴史でそうに決まってるからしょうがないじゃんって、ちゃんと言い返してやれよ』
——うざいよ。支払いがいいからずっと我慢して聞いてたけど、ループしてんじゃないよ。
『それはいい手だね。
よし、ヒデコがまた拗ねたら、へっぽこタローが裏切れって教えてくれたと言い返してやる』
『ちょ、ちょっと。俺は――』
『ありがとうね。
——あ、ビール一箱とカラアゲ棒を全部もらっていくからこれでね』
もう一枚の小判をテーブルに置いてから、コバヤカワ金吾さんがビールとカラアゲ棒を抱えて、早足でそそくさと店内から離れた。
やつは裏切りを俺のせいにしたけど、元々歴史がそうなってるから俺は関係ない。
『——キンゴではないか、ここでなに油を売っているのだ』
『おお、トクガワところの伝令か。
すぐに山を下りるからそう伝えてくれ
じゃ、急ぐから行くね』
外のほうでコバヤカワさんがだれかと喋ってるようで、俺には関わりのないことだから、少なくなってきた焼くそばを山盛りほど作ろう。
『――誰に断ってここで物を売ってる』
『はい? ここって、許可制でしたっけ?』
外のほうで声がしたので覗いたところ、スレイプニルに跨った武士姿のオークナイトが俺のほうを見下ろしてる。
ところでここは使用料が徴収されていたのだろうか、去年までそんなことはなかったはずだが。
『……まあいい。
食べ物を売ってると聞いてな、ノブヤスから買ってきてくれというものだから買いに来た』
『はあ、いらっしゃいませ。
焼きそばとカラアゲ、それにビールですけど、なにが欲しいでしょうか』
『これで買えるだけ適当に売ってくれ』
『ありがとうございます!』
なにか投げられたので、よく見たら3枚の大判が地面に落ちてる。またまたお大尽様の到来だ、売る基準はカモさんのときを参考にしよう。
ノブヤスと言えばトクガワの御長男だったと勉強した記憶がある。
この模擬合戦にラビリンスマスターは来ないので、代理が派遣されたのでしょうが、でもそこはヒデタダにすべきじゃないかなと俺は思う。
『よろしければこれをどうぞ』
『うむ……これは中々うまいではないか』
トクガワところの伝令サムライにカラアゲの味を褒められた。
『これならもう一枚を渡そう。あるだけ包んでくれ』
『毎度ありです!』
——大判をさらに一枚の追加、商売繁盛笹もってこーい!
『ああー、チクショー。今年はまたキンゴ野郎のせいで負けだよ。
ご主人、ビールと焼きそばくれ』
『マジでやってられねえ。
ただのヤラセだよな、こんなじゃ』
身に着けていた甲冑が破壊され、戦死の判定で退場したオーガジェネラルのヒラヅカさんとギガンテスのトダさんはその巨体のため、店内で臨時に用意した座席に入ることができないから、外で胡坐を組んで座っている。
それはいいんだけど、元よりヤラセだと言いたい。ヤラセじゃなければこんな寸劇はなんなのというのだ。
「山田先輩。イノシシ肉が少なくなってきました」
「わかった。俺のアイテムボックスにはもう在庫がないので、リリアンからもらってくれ」
「はい。わかりました」
旧高島市に棲むオークたちからイノシシを仕入れてきて正解だった。
ついに両軍の均衡が崩れた。
西軍は必死になって陣が崩れないように頑張っているけど、優勢になった東軍は魔法の援護を得た足軽ゴブリンたちが槍で突き、刀を振り回し、西軍側の足軽ゴブリンを次々と倒していく。
見た目は種子島の魔銃が射撃を続け、防ぎきれない西軍側の陣に穴が開き、そこへ東軍の将たちが兵を率いて浸透していく。
ウキタ隊、コニシ隊といった主力が軒並み崩壊する中、シマ隊が孤軍奮闘を見せた。
サイクロプスが装うシマ左近が戦斧を振るって、押し寄せる東軍の攻勢を一時的ながら下げさせることに成功する。
『やりますな、レックス殿は。
大阪城本丸七将の名は伊達ではないわ』
『いやいや、レックスはシマであって伊達ではないぞよ』
『これは一本取られた。ワハハハハ』
『アハハハハハ』
戦死判定を受けた西軍のキノシタさんがさぼりに来た東軍のキョウゴクさんと一緒にビールを飲んで、テレビ中継の放送に夢中だ。
合戦も大詰めを迎え、ここに将たちがぞろぞろと集まってきたため、足軽ゴブリンたちは寄り付きにくくなったご様子。
「先輩、鶏肉の在庫が少なくなりました」
「そう? リリアンに預けているので出させて。
それともしなくなったらもう売り切れでいいから、全部揚げてしまおうか」
「はい、わかりました」
みんなが小判を持ってきたわけじゃないが、それでも今年は大儲けすることができた。明日は山城地域にある、ハヤトさんが紹介してくれた貴金属店で換金しないといけない。
『あ、シマのやつがやられた』
『ちくしょう、今年も負けかよ』
『これでヒデコのやつ、しばらくは本丸でスネるな』
『最後の暴れっぷりはよかった。
来年もこのくらい踏ん張ってほしいものよ』
『どうする?
帰りは名古屋城ダンジョンに寄ってみるか』
『それより浜松城ダンジョンに行こうぞ』
すでにここにいるラビリンスモンスターたちの話題は合戦後の話に移ってるようだ。
今年は屋台が繁盛し過ぎて、落ち着いて合戦をみることはできなかった。
幸い、今はネットでの再放送があるので、小判大判を換金したら愛実たちに分け前を支払って、その後に自宅でゆっくりと観戦しよう。
突然、戦場の喧噪を切り裂くように法螺の音が鳴り響いた。
ここにいるラビリンスモンスターたちと一緒に、俺もテレビ中継に釘付けとなった。
『あっとー、新しい情報によりますとトクガワ本陣が奇襲を受けてるようですね。
これはどういうことでしょうか。
桃配山のクワモトさん、どうなっているのですか』
『――はい、クワモトです。
今ですね、西軍の反撃が始まってます。後方にいたトクガワの各隊が崩壊したようです』
『どういうことでしょうか?
こちらではシマ隊が撃滅され、残るはイシダミツコの本陣だけですがどこからの新手ですか?』
『――そうなの?
はい、ただいま情報が入りました。
南宮山方面にいるチョウソカベ隊とナツカ隊が逆襲している模様です』
『チョウソカベ隊とナツカ隊?
しかしその方面は――』
『映像を回しますのでどうぞ』
そこに映っているのは見覚えがある顔だった。
ナツカ隊が魔法を乱射し、チョウソカベ隊が矢の雨を降らせてる、迎撃に向かったイコマ隊が瞬く間に蹴散らされた。
ナツカ隊の先頭で乗馬しているのはハナねえ、チョウソカベ隊を率いてるのがさっちゃんだ。
——なにしてるんだ、俺の姉妹は。
南宮山で空弁当なんか食べないで進軍していたらなあ……
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