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勇者家族のへっぽこ長男  作者: 蛸山烏賊ノ介
第5章 独り立ちすることが目標のへっぽこ長男
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5.03 強気な長男は副会長に苦言

 引っ越しする前の俺はなにを思い悩んでたのだろう。


 九条さんが提供してくれたマンションはバルコニーからの見晴らしがよく、セキュリティーも管理人として、エプロン着用の現役女性冒険者が雇用されてる。


 山城地域のほぼど真ん中に位置するこのマンションは各ギルドへ行くのもだいたい同じ距離で、地下駐車場も完備しているため、きっとこの界隈では最高ランクの冒険者向け住宅だと思われる。



 ちなみにハヤトさんがあれだけ落胆してたのは、アリシアさんと一戸建て住宅に住みたかったらしく、九条さんのお勧めでその夢が破れてしまい、マンション暮らしを余儀なくされたからだと田村さんが後で耳打ちしてくれた。



「太郎、おはよう。今日は一緒にクエストへ行くか」


「半田さん、おはようございます。どんなクエストに行かれる予定ですか?」


 朝7時の洛中ギルド。中に入るとすぐに半田さんという40前のおっさんから声をかけてもらった。


「北部の山へイノシシ狩りと植物を採って来ようかと思ってるだけど、どうだ」


「あー、洛北の山間部ですか……

 今日は近江地域へ行く予定を立ててますので同行はできません」


「近江か、方向が違うな。

 ――また今度にするか」


「ええ、また誘ってくださいよ」


 半田さんと別れてからカウンターへ向かおうとしたとき、俺の前に若い女性3人が目の前に立っている。



「センパイ、おはようございます!」


「おはよう。空色騎士(セルリアンナイト)のみなさん」


 若い彼女たちは豊中高校冒険者学科の一つ下の後輩。


 主に山城地域洛東ギルドを拠点に活動してきたが、比叡山のオーガ族が自衛軍によって殲滅されてから、洛中ギルドでクエストを受けるようになった。



「早紀がですね、センパイが近江地域へ行く予定って聞きましたので、途中までご一緒できないかなって」


「佳奈子ひどい。またあたしのせいにして」


「なんのクエストを受けたの?

 それでどこまでいくつもり?」


 早朝から元気いっぱいな後輩に囲まれて、元気な声で眠気が吹っ飛ばされたので、彼女たちの話を聞いてみることにした。



「やったー、センパイは話が分かるー」

「やめてよ。佳奈子ったら恥ずかしい」


「すみません、先輩……

 わたしたちは近江地域堅田地区の山間部でアニマル狩りのクエストを受けようと思ってますけど、お邪魔じゃありませんか?」


「堅田か。俺は旧高島市まで行くつもりなんで、そこまでなら一緒に行こうか?」


「やったね。さすがは愛実、センパイを口説いちゃってるね」

「山田先輩、朝からわがまま言ってすみません」


「ありがとうございます。Cランクの先輩ならわたしたちも安心できます。

 ――カナ、変なことを言わないでよ。マイさんが怒ったらどうするのよ」


 昨日の夜に九条さんからのメッセージで、ビワコ族から琵琶湖で捕った魚を受領して、洛南ギルドまで輸送してほしいという依頼が入った。


 俺は個人の需要で旧高島市に住むオーク族からイノシシを買い付けするつもりだったので、九条さんが提案したクエストを受けようと思ってた、。



 山城地域へ引っ越してきてから毎日が新鮮で楽しい。



 こうして知り合いの冒険者と一緒に行動して、時には遠征へ同行することもある。


 もちろん俺のことが好きじゃない冒険者もいるし、陰でへっぽこ野郎やヘンフェアと呼ばれることもある。でもそれを含めてのアドベンチュラーライフだ。どーんと来いと今は構えられるようになった。


 もうすぐ近江地域で年に一度の大イベントが起きるため、俺は高校の時からそこで始めた商売の下準備をしていかないといけない。今度は家族(ファミリー)の力を借りないで、俺が自力でやってみるつもりだ。




「――先輩、送ってもらってありがとうございました」

「山田先輩、ありがとうございました」


「センパーイ。夕方に迎えに来てもらってもいいですかー」


「カナ! やめなさい」

「加奈子は本当に……

 山田先輩、すみません」


 堅田地区でセルリアンナイトのメンバーを降ろすつもりで停車すると、助手席にいる佳奈子後輩が露骨的に俺の腕を掴み、自分の胸へわざと当ててくる。


 ――小癪なコウハイめ、ここはセンパイたる威厳を見せつけないと格好がつかない。



「ウォッホン……

 俺が戻る時に愛実くんへ連絡を入れるから、それで時間が合えば乗せてあげよう」


「やったね。センパイはコウハイ思いと思ったわ」

「じーっ」

「……先輩、スミマセン」


 こっちでの行動範囲を考えて6人乗りの重装甲魔動車を新しく買ったので、彼女3人と獲物くらいは軽く乗せられる。


 ――それと早紀くん。睨んでくるのは別に構わないが、後部の座席から言葉でじーとか言うのはやめなさい。



『あら、久しぶりじゃない』


『そんなことないですよ。この前に干物を取りに来たんじゃないですか』


『そうだったかい? そうだ、あんたが来たから言いたいこ――』

『おう、小僧。次からギルドのやつらじゃなくておめえが取りに来い!』


 ビワコ村へくるのは2週間ぶり。


 この前は自社用の干物も兼ねて、捕れたてのビワマスを引き取りに来た。サバギン族のナツメさんとあいさつを交わすところへなぜか激怒する村長のイツキさんは怒鳴り声をあげた。



『イツキさん、どうしたんですか?』


『どうしたもこうしたもあるか! あいつらがそうしたんだろうが!』


 ぷんすかとイツキさんがお怒りになってるんだけど、なんのことを指しているのかがさっぱりわからない。


『お前さん、ちょっと黙りな。あたいがこの子と話すから』


『ぷんすか!』


 いや、普通はそういう風に使わないから! と言いたくてしょうがないが、どうでもいいことには無視する技能を俺は持っているからそこでツッコまない。



『いやねえ、この前にギルドの若い連中がお魚を取りに来たのさ。

 そうしたらね、交換するものも置かないでさ、そのまま帰ろうとしたのよ』


『それはいけませんね。あなたたちが欲しいもの物と捕れた魚の交換が条件ですから、そんなことすれば契約違反になっちゃいますよ』


『そうなのよ。うちのやどろくとあいつらがケンカしそうになって、慌ててあんたが持ってきてくれたすまほってやつでギルドと連絡したのよ。

 その日は結局そのままで帰ってもらったけどさあ、村の連中があんた以外の人族と取り引きをしたくないって言い出したのね』


『その現場を見ていない俺が言うのもなんですけど、一回のミスくらいは大目で見てくれませんか?』


『ぷんすか!

 一回だけじゃねえんだよ、小僧。その前にきたやつらもこっちが知らねえ言葉でご託を並べやがって、手振りで量が違うって因縁つけてきやがったんだよ』


『ええー』


『こっちはばかやろーって怒鳴り返しってやったんだよ。サバギン族はさばを読まねえってことをあいつらは知らねえのか!』


『……ちょっと待ってください。確認してみます』


 ぷんすかは会話で使わないことを覚えてほしい。それとサバギン族はさばを読まないというのは本気で言ってないことを祈ってあげたい。


 こんなことでビワコ族と諍いを起こすのも嫌だから、九条さんに連絡して確認してみようとスマホを取った。




「――ということがあったんですけど、ギルドのほうではどうなってるんですか?」

『……』


「あのう、もしもし?」


 おかしい。()()九条さんが俺の質問で無言になるなんて、絶対になにかあるに違いない。


「もしもし、()()()()?」

『……』


「わかりました。今日のクエストは破棄しますので――」

『その件はもう、わたくしが担当しないことになってますのよ』


「どういうことですか?」


『ビワマスは山城の市場でかなりいい値がつきますので、大津支部で取り扱うことが一月前の会議で決まりましたの』


「そういうことは一言も聞いてないですけど」

『……』


 九条さんにはお世話になっているし、いつも割のいいクエストを専属受付嬢と称して案内してくれるから感謝はしているつもり。


 だけれど、こういう騙し討ちみたいなのは話が別だと、冒険者としての俺は自分なりの信念を持ってる。



「九条さん。大津ギルドのクエストなら、大津ギルドで受けますんで、今日のクエストはやっぱり破棄させてもらいますね」

『太郎ちゃん、それは――』


「それとビワコ族のイツキ村長が俺としか取引しないと明言しましたので、俺もそれを受けようと考えてます。

 大津ギルドとそこで運搬クエストを受けた冒険者がビワコ族の間になにが起きたのは知りませんけど、その仲裁は絶対に引き受けませんからそのつもりで」


『太郎ちゃん、ちょっと聞いてくだ――』

「クエストの破棄で発生する違約金があったら、納得がいくなら俺も支払います。

 ただっ! 俺は九条さんの案内でクエストを受けたわけですから、そこんとこの説明がつくように()()で提示してくださいよ」


『それは……わたくし、困ってしまいます』


「この前も、その前も、()()()さんは緊急だとか言って、何も知らない俺に亀岡臨時支部へ自衛軍の弾薬輸送のクエストをやらせましたよね?」


『……ええ、ごめんなさい。でもわたくしはちゃんと謝りましたわ』


「そのときにひなのさんは今後、俺にクエストの内容を説明して、納得するクエストを受ければいいとお互いに合意したじゃないですか」


『……ええ、そうでしたわね』


「それなら今回のクエストは納得できないので辞退させて頂きます。ひなのさんもそれでいいですね?」


『はい、わかりました……

 手続きはこちらで行っておきますので、気を付けて帰ってきてください』

「じゃっ」


 イツキさんとナツメさんが見守っている中、額に血管を浮かばせた俺はニコッと笑って、俺の答えを待つ二人に結果だけを語る。



『今後はラビリンスグループがビワコ村から()()をお買い上げしますので、ビワマスをギルドに売るかどうかについて、()()関われません』


『ナツメぇ、マスを全部みんなに干させろ』

『あいよ』


 一介の冒険者である俺はギルドと村の間に立つ気はない。



 山城地域で活動するようになってから、仕事にも人の思惑が絡んでいることを学ぶことができた。


 たとえば、政府の発表では自衛軍による比叡山の制圧だが、比叡山攻めのときに山城にいる冒険者にも少なからずの犠牲者が出たことを田村さんからそれとなく聞いた。


 洛北の山間部でリリアンと狩猟クエストに出かけたとき、オークセイジのイスファイルからオーク族も比叡山へギルド側の援軍が送られたことを教えてもらった。



 それらの真実を知ることができたところで俺になにができるわけじゃないし、なにもいう気にはなれない。



 ただ自分が知らずの間に、都合のいいように利用されるだけのおバカさんにはなるつもりはない。今の俺はそう心掛けてる。


 この後はナツメさんの紹介で、ここに住むオーク族と物々交換するために話し合いが待ってる。それが今日にここへきた本当の目的だ。





ブクマとご評価して頂き、とても励みになっております。誠にありがとうございます。

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