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勇者家族のへっぽこ長男  作者: 蛸山烏賊ノ介
第5章 独り立ちすることが目標のへっぽこ長男
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5.01 決意する長男は思いを明言

「それでね、タロットがね、ご飯の前だからっておやつを取り上げるの。ひどいよねえ」


 リリアンがしゃべり出したらホラーなお友達と、俺の悪口で盛り上がってる。


 友達であるかどうか俺は定義したくないけど、リリアンがいいというのなら否定はしないつもりだ。


 一時期はポップソングとしても売れてたアニメソングを再生しつつ、バトルアックスを巧みに操り、黒い長髪をなびかせる戦姫の()()()()()()()は、かーちゃんをモデルとしたアニメの主人公だ。



 生まれた星が異世界から来た敵に侵略され、強大な敵を撃退しながら異世界へ逆襲をかけ、異世界にいる魔王を倒した一連の流れがあらかたのストーリー。


 俺が子供の時から始まったこの長寿アニメは、今でも国民的な娯楽番組として放送されている。


 再び異世界へ戻って内政チートする辺りから俺は見なくなったけど、今の放送では歌姫として星間戦争で活躍しているらしい。



 そのマジックドールを買ったのは出来が良かったためだった。


 箱入りしたままでリリアンが見つけて、それ以来彼女の()()()として亜空間の住民となった。


 時々こうして、今のように俺が釣りなどしてるときはリリアンのお喋り相手を務めてる。さっちゃんも幼い頃はよく人形相手に話してたから、こういう光景は慣れている。



『あら、タローやん。なんか手伝おうか?』


『お願いしてもいい? 野菜は持ってきたよ』


 尼崎の浜に棲むマーメイド族と俺は仲が良い。


 前に一人でここへ釣りで来たとき、彼女(マーメイド)らと危うく戦闘に突入しそうになった。


 争いを回避するために異世界語が話せる俺は、ラビリンスで採ってきた野菜を手土産に、彼女らからの敵判定を解除してもらえた。それ以来、時々こうして野菜を餌に、釣りの協力をしてもらってる。



『キャベツとジャガイモが欲しい』


『わかった。ほかにキュウリやピーマン、玉ねぎにニンジンがあるけど、いる?』


『ありがと! タローはいいやつだな』


『ははは、よせや』


 今日の釣りのために西宮野菜迷宮から大量に取ってきた。


 その全部をマーメイド族に贈呈するつもりなので、感謝してもらえるなら俺も嬉しい。その上にマーメイドたちからしてもらえる熱いハグは男のロマンだと俺は考えたが、実態は違った。


 マーメイド族には申し訳ないけど、やっぱり彼女らは生臭い。胸にある貝殻ブラジャーがめちゃくちゃ痛いので、できればハグはやめてほしいと今の俺はそう痛感している。



『みんなー!

 タローがまた野菜を持ってきた。いっぱい捕ってきてやりや』

『はーい』


 マーメイドたちには魚の追い込みをお願いしたかったけれど、最近は色んな魚介類をそのまま持ってきてくれるので、釣りを楽しむことができなくなった。


「――それでね、タロットがね、みんなの服をひん剥いちゃうのね。いやらしー」


 リリアンがマジックドールを相手に俺の悪口を続けている。横で聞き耳を立ててるマーメイド族がいるのでぜひやめてほしい。


 ドールを掃除するために着衣を外したりするが、リリアンには俺がイタズラしてるに見えたみたい。そんな趣味はないと弁解しても、アホな妖精は未だに聞き入れてくれそうにない。




「——へえ、それなら大漁じゃない。

 全部買ってあげるから出しておきなさい」

「じゃあ、捌いておこうか」


「いいの。厨房に新しいスタッフが入ったので、あんたのお父さんに教育させるからそのままにして」

「わかった」


 ムスビおばちゃんは、午前中にマーメイドたちが捕ってきてくれた尼崎浜産の魚介類をお買い上げしてくれるので、それらの下処理するつもりだったが、ムスビおばちゃんに断られた。


 高校の時から(ここ)でアルバイトしてたし、卒業してからは厨房でずっと頑張ってきたので、自分の居場所がなくなったようで、ちょっと寂しい思いが脳内をよぎる。



「今日はみんなが帰ってきてるの。

 今日は店が休みだし、久しぶりだから一緒に晩ご飯を食べるつもりよ」


「わかった。食事の準備を手伝うよ」


「実も来るみたいだから、正重のことも呼んであげて」


「はいよ」


 高校生の時までは、店が休みの日に全員が集まっての晩餐会をよく催したものだ。俺らが卒業してからはそれぞれの生活が忙しいため、こういう家族の集まりは少なくなってきた。


 だが若葉ちゃんと涼音ちゃんが家族になり、久々にみんなでわいわいと騒ぐのもいいと思う。


 それにみんなへ伝えたいこれから先の予定があるから、食後にそれを言おうという考えがあった。




 高校生の頃は何でも食えたし、野郎ども(おれら)はなにを出されても食った。


 社会人となって、お行儀が良くなったと言えばいいのか、昔に争奪戦をくり返したあのカオスな晩餐会が今では跡形もなく、思い出の中にのみ存在する懐かしい出来事だ。



 ハナねえとさっちゃんから可愛がられてる涼音ちゃんが、次から次へと食べ物をお皿へ乗せられていく。横にいる若葉ちゃんは オヤジとムスビおばちゃんから、食材や調理の仕方を教えてもらってる。


 マイはクララとリリアンへ 東海道各地で買ってきたデザートを食べさせてるし、ポメラリアンと正重がここぞとばかりに食べ物を口の中へ放り込んでいく。


 ミノリ姉さんは俺の進化した戦い方に驚いてから、かーちゃんと武蔵地域で起こってるスタンピードの話で意見を交し合う。


 それを聞いていた幸永と洋介がその会話に参加して、安芸地域にある海軍魔宮(ネイビーダンジョン)と交渉中の新たな条例について、ミノリ姉さんとかーちゃんに相談している。



 こうして、子供だった俺らは大人になり、自分の道へ進んでいく。



 ことさらしたいことがなかった俺は日々に流されて、死なないように生きて行ければいいとずっと思ってた。


 嬉しそうに笑う若葉ちゃんとデザートの中を飛び回るリリアンを見て、なにもできないと思ってた自分でも、頑張ればきっと自分でしか見つからない未来が待っていると考えるようになった。


 だから自分の決意を伝えるべき相手(みんな)がここにいるなら、俺は長い間、山田家の長男を大切に育ってきた両親へ心穏やかに進もうと思う未来図、それと感謝の気持ちをここで語りたい。



「オヤジ、かーちゃん。今まで大事に育ってくれてありがとう。俺は近いうちに家を出ようと思ってる」


 楽しかった久しぶりの晩餐会が、俺の発言で大荒れになってしまった。




「――はいはい、静かに」


 手を叩き、大きな音を立てたムスビおばちゃんは俺に慈しむような視線を向けてくる。


「あんた、本気なのね」


「ああ、自分だけができることを外の世界で見つけたいと思ってる」


「タローちゃん、家を出なくても――」

「――明日香は黙ってて。あなたが子供(たろう)を思う気持ちはわかるの。

 それでもあの子が自分で道を決めたなら尊重するのも親がするべきことよ」


「それでも――」

「あすか、太郎がいうことを聞いてあげなさい」


「あなた……」


 かーちゃんを止めたのはオヤジだったことが意外に思った。オヤジは俺へ頷き、話の続きを促す。



「この頃は色んなギルドを回ってみた。

 摂津地域、河内地域、和泉や大和地域、それに山城地域でクエストを受けて、たくさんの冒険者たちと一緒に行動してきた」


 みんなに見つめられ、ここは自分の本当の気持ちを正直に打ちあげることが必要と感じた。


「勇者一族の中でへっぽこ長男の俺は自分が考えてたよりやれる。無茶さえしないなら、俺でも自分が食っていけるような冒険ができる。

 みんなにはごめんだけど、勇者一族の名は俺には重すぎた。それに追いつこうと子供の時から色々と足掻いてきたけど、やる気を無くすだけだった」


 両親がわんわんと泣いてるけど、その光景を見ないようにそっと視線んを外す。



「焼き鳥を焼く仕事は今でもすきだし、やり甲斐も感じてる。

 ただ、技能が固定されてるとは言え、俺にも冒険者として生きる術を見つけることができた。

 まあ、リリアンのおかげだけどね」


「リリアン、すごい?」

「ああ、リリアンはすごいよ」


 妖精(パートナー)が俺の言葉で嬉しそうに、食卓の空中で軽やかに舞い踊る。



「今なら前へ進めるじゃないかなと思ったんだ、だから一歩だけ踏み出そうと決心した。

 別に家を出たからって、帰って来ないわけじゃない。

 若葉ちゃんと涼音ちゃんのことも気になるので、洋介たちと同じにちょくちょく顔をみせると思うから心配しないで」


 若葉ちゃんと涼音ちゃんは俺の葛藤を知らないため、言葉を発することはできなくて、きょとんとした顔で俺を見ている。



 でもそれでいいと思った。


 人が悩むことなんて人それぞれ違うし、人生の答えを探し当てようとみんなが自分の道で頑張ってるから、他人の苦悩なんて知らなくてもいいではないのだろうか。



「……わかったわ。

 タローちゃんがそこまで言うのなら、かーちゃんも覚悟を決める」

「かーちゃん……」


 俺のかーちゃんなら、きっと俺が決めたことを支持してくれると信じてた。


「ウィーぃ、隣にタローちゃんが住む家を拡張してちょうさい」

「あいよ」


 かーちゃんは子離れの覚悟がないようだ。



「あんたはどこに引っ越すつもり?」


「悩んでるけど、山城地域にしようかな。

 知り合った冒険者パーティも来いって言ってくれてるし」


「この前にうちの式場で結婚した子ね。

 わかったわ、あんたの気持ちを大事にしたいから好きなようになさい」


「ありがとう、おばちゃん」


 ポメラニアンとミノリ姉さんが食卓にある食べ物が落ちないように、暴れるかーちゃんを抑えてくれてる。



「なにかあったらいつでも帰ってきていいから、ここがあんたの家だからね。

 って、こういうことは親がいうことなんだけどね」


「ははは。おばちゃん、ありがとう」


「お兄ちゃん。一人住まいだからって、玩具ばかり買うんじゃないよ」

「引っ越しが落ち着いたら、お姉ちゃんも遊びに行くから部屋は片付けるのと」


「うん、わかった。住むところが決まったら連絡する」


 ムスビおばちゃんがてんやわんやと騒いでる両親にあきれ果てる間に、さっちゃんとハナねえの言葉に俺は頷いた。



「たろう坊。引っ越しするときはちゃんとお姉さんに連絡するのよ、安くしてあげるから」


「本当に安くしてくれるなら、ミノリ姉さんの会社を使わせて」


 頭を撫でてくるミノリ姉さんに念押しをしておく。


 この人はちゃんと言質をとっておかないと、通常の値段で請求書を送ってくるような性格している。


「太郎、僕の部屋も用意してくれよ」


「なに言ってんだてめえ。

 獅子山城迷宮(ラビリンス)で悠々自在の生活を送ってんじゃねえのかよ」


「ほら、別荘っていうのかな。

 そういうのは憧れというか――」

「うっせーよ。お前には絶対に家の敷居は跨がせない」


 正重なら引越し先に罠を仕掛けかねないので、こいつだけは来させてはダメだと直感でわかる。



 マイ。


 俺の話をずっと聞くだけで 何一つ言わなかった彼女はきっとなにか企んでいるに違いない。ただなにをするかは、実際にマイが行動を起こすまで読めやしない。





ブクマとご評価して頂き、とても励みになっております。誠にありがとうございます。

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