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勇者家族のへっぽこ長男  作者: 蛸山烏賊ノ介
第4章 他人と関わることが目標のへっぽこ長男
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4.13 採掘する長男は大鬼と会敵

「薬草の群生と魔銀の鉱脈、同時発見! リリアン、あとは任せた」


「はーい、結界(バリア)10枚」


 リリアンがすぐに守備固めの結界を張った。


 予備の採取用ナイフを若葉ちゃんに渡してあるので、先からリリアンと彼女は少し離れた場所で嬉しそうに薬草を刈り取っている。俺はオヤジからもらったアダマンタイト製のツルハシで魔銀鉱石をガンガン掘るつもりだ。



 魔銀は鉱石から製錬して金属に変え、さらに精錬を重ねたら貴金属となる銀を得ることができる。だがそこまでは旧時代でも普及化され、ネットで検索すれば見ることができる普遍的な技術だ。


 ラビリンスでしか入手にすることができなかったミスリルは、現在なら日ノ本の高度な工業技術で精錬された銀に魔力を加えるという、最新の冶金術で人造ミスリルが生産されている。



 ワールドスタンピードで迷宮化された各地の迷宮で、枯渇したはずの旧時代の鉱脈が甦ったという情報はすでに確認されてる。


 迷宮化された多田銀山地下迷宮のように、元々なかった鉄鉱石が新たな地下資源として、力のあるラビリンスマスターの操作により、恣意的に鉱脈を出現させている。



 ラビリンスマスターと幾度なく資源の調整について、政府のほうが交渉を持ちかけたことは幸永から聞いたことがある。


 しかし一介の冒険者の俺にとって、そんなことは直接な関係がない。せっせとツルハシで鉱石でも掘って、それをギルドに買い取ってもらえれたら、それ以外のことなんざどうでもいいことだ。



 さあ、ガンガン掘ってバリバリ稼いちゃうぞ。

 サンサク~、ヨンサ~ク。

 って、旧時代に流行ったエンカというのはこんな歌だっけな? まあいいか。


 1回掘ったら1サクで歌うか。

 ゴーサク~、ロクサ~ク。



 ラビリンス内で響いてるのはツルハシが鉱脈をテンポよく叩く音。俺からちょっと離れた場所で若葉ちゃんたちが仲良く薬草を刈り取ってる。


 たまにリリアンが飛び立ち、ここ刈ってここ、と若葉ちゃんに薬草の在り処を手招きで呼び寄せる。


 こういうほんわかしたラビリンスでの光景は心を和ませる。



 ナナジューナナサク~、ナナジューハチサク~……う、歌いにくい。




『グオーーー!』


 音に誘き寄せられたのは地下4層のスタンダードモンスター、二体のオーガが大きな棍棒を持って、ラビリンスの中をこだまする咆哮とともに採掘場へやってきた。



「リリアン、オーガが来た。フォーメーションCだ。若葉ちゃんは俺らの後ろで隠れろ」


「ねえねえ、ふぉーめーしょんしーってなあに?」


「はいっ!」


 渡しておいた使い捨ての採収袋を膨らませた若葉ちゃんは、伝えた通りに俺らの後ろで体を小さくした。



 右手の中に納まったリリアンは頭を上げて、適当に言った名詞の意味を聞いてきたが気にするな。


 ただちょっと言ってみたかっただけだ。


 床に落ちてる鉱石とツルハシを素早くアイテムボックスに収納させると、横に置いてあるミスリルの盾を装着して、襲いかかってくるオーガとの戦いに備える。



「きゃあーー、いやああ!」


 バリアで阻まれたオーガたちは怒りを露わに振り上げる棍棒を、これでもかと連続で叩きつけた。



 一番外側にあるバリアはたぶん壊されたと思うけど、リリアンが張る全てのバリアを消すことは、迷宮のオーガ程度では無理なことだ。もちろん、俺もこのまま手をこまねいて、オーガの暴行を見ているつもりがない。


 恐怖で頭を抱えた若葉ちゃんが悲鳴をあげたので、その声を反撃の合図にしようと思った俺はリリアンを握る手に軽く力を加え、魔力を譲渡のスキルで送り込む。



「スパイダーライトニングだ、リリアン」


「スパライトぉ」


 うん、いつもながらのジュースのような美味しそうな略称をどうもありがとう。


 蜘蛛の巣のように広がっていく雷魔法は、無規則の軌道で広範囲に渡ってオーガたちに襲いかかる。



『ガアああーー』


 いくら範囲魔法とは言え、しょせんは下級の雷魔法だ。せいぜいオーガたちを驚かせてから少ししびれさせるだけ。でもこれでオーガの動きは止まった。



「絡雷だ、リリアン」


「ラクラーイ!」


『アバババババ』


 今度は一筋の雷光が二体のオーガへ絡むようにまんべんなくその体を纏わった。棍棒を手放したオーガたちは苦しそうに床で痙攣を起こしている。



「アイテムボックスっと……リリアン、採収袋を亜空間に入れろ」


「はーい」


「え、なになに」


 自分の収納箱を消してからリリアンに後片付けの指令を出す。状況がわかってない若葉ちゃんは床で体を震わせるオーガと、俺やリリアンに交差で視線を向けつつオロオロしてうろたえているだけ。



「もーいいよー」


「若葉ちゃん、ちょっとごめんね」


「え? きゃああー」


「出るまで我慢してて、撤退だ」


 腰の定位置に収まったリリアンが声をかけてくると、おもむろに若葉ちゃんを脇の下に抱えてから、3層に戻る階段へ俺は全速力で駆け出した。



 迷宮のオーガならリリアンの雷魔法でじわりじわりと体力が消えるまで殺すことはできる。でもそれだと奥から現れたオーガたちとも長期戦で挑まなければならない。



 若葉ちゃんのこともあるし、効率が悪過ぎるからここは離脱の一択あるのみだ。


 俺も若葉ちゃんも収穫は上々だから、変な欲を持たずにさっさとお家に帰るのが一番だと思う。




「今日はありがとうございました」


 多田銀山地下迷宮の専用駐車場で、腰を90度に下げた若葉ちゃんからお礼を言われた。


 ラビリンスの出口まで何度かエンカウントはあったけど、オーガから逃げられる俺とリリアンにオークやゴブリンでは敵にならない。



「家はどこ? 車で来たから送ってあげるし、ギルドで薬草の買取りに付き合うよ」


「……」


 うん。へんじがない。ただの泣きそうな少女のようだ。


 中学生の女子が棒切れを持って、汚れた服とカバンでダンジョンアタックするくらいだから、言いにくい事情はあると思う。



 ――でもな、ここまで一緒に行動しといて、死なないように気を付けて生きろよって、そんなさようならはないだろう。



 気になるし、今後の彼女を心配するし、夜になったら俺が眠れなくなるだろう。


「若葉ちゃんの歳はギルドに所属できないと思う。もちろん、ワーカーもだ。せっかくの薬草をどうするつもりだ?」


「……買い取ってもらえるおじさんがいる」


 ボソッと呟いた彼女は、抱えている薬草で膨らませた採収袋を大事そうに抱きしめた。



 どのくらいの薬草があるのは数えてないけど、最低100束として考えて、ギルドの買取金額が50円だから5000円以上にはなるはずだ。


 ただ若葉ちゃんが言うおじさんって、彼女のように人様には言えない()()()がある人から、素材を格安で毟り取るように買い上げる良心的ではない商人だと思う。



 無論、おれもこの世界が光り輝いてるなんてクソガキみたいなことは言うつもりがない。


 そういう商人だって世の中の経済において不可欠な人材なんだろう。だからといって、年端のいかない少女をここで見送ってしまうのは、自分が()()()()()()だけなんだ。



 ――ここまで付き合ったんだからさ、少しくらいは俺もわがままを言ってもよさそうじゃない?



「できるだけ立ち入った話をするつもりはなかったけど、若葉ちゃんみたいな子供が一人でいるのはちょっとおかしい。

 親御さんはどこにいるの? それとも児童保護施設なの?」


「――いや! 児童保護施設は行かない!」


 採収袋を藁のようにしがみついた彼女は、袋が変形したことに全く気が付いてない。薬草だけが入ってるから潰されることはないし、買取りの値段が下がることもない。



 ――だけどね、児童保護施設が当たりだな。



「お願いです、児童保護施設に連絡しないでください。妹と離れるのは嫌です。今日採った薬草はあげますから、黙っててもらえませんか!」


 今まで大事そうに抱えていた採収袋を惜しげもなく差し出す流涙する少女へ、俺はなんてお答えすればいいのだろう。


 悪いけど若葉ちゃん、今日の俺は魔銀鉱石でお前よりたくさん稼いだから、5000円の薬草は必要がない。



 ――大金を稼いだのは初めてなんだろう? 俺も初めて稼いだ時はすっごく嬉しかったからちゃんと持っとけよ。それにね、気付いてる?



 妹がいて離れるのは嫌だということは、お前たちに親がいないことを明言してるみたいなものだ。それを聞いたからにはますますこのままにしておけない。



「わかった。色々と事情があるみたいだから今はなにもいわない。

 だから先にギルドへ行こう、俺のライセンスカードで若葉ちゃんの代わりに薬草を買い取ってもらおうよ。ね?」


「ウグ……グスン……で、でも……ウグ」


 往来する人はまばらだがもうすぐ夕方なので、駐車場にいる冒険者がこちらへチラチラと視線を送ってくる。俺と若葉ちゃんの会話を知らない人から見れば、女の子をイジメるいけない兄ちゃんにしかみえないと背中から冷や汗が出た。



「いいからいいから、お兄さんに任せなさい。ギルドで薬草が売れたらお家に送ってあげるからね」


「グスン……」


 泣きながらも小さく頷いてる若葉ちゃんの肩へ、右腕が触れる程度の姿勢で愛車へ案内する。


 騒ぎにならないうちに早くここから離れたい。そうじゃないと若葉ちゃんにとって、確実に不利のほうへ働くしかない未来図がみえてしょうがない。



「ねえ、おやつはまだあ?」


「車の中でな」


 すっかり妖精の座席となった水筒入れから、気が抜けるようなだるそうな声でリリアンは食べ物をせがんできた。


 後でフルーツタルドを出すから今は静かになさい。





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