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勇者家族のへっぽこ長男  作者: 蛸山烏賊ノ介
第4章 他人と関わることが目標のへっぽこ長男
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4.11 へっぽこ長男はテンプレと遭遇

 尚人たちが勤める材料調達課は定期的に店へ食材を配達するようになった。


 幸永から聞いた話でギルドがEランクとはいえ、冒険者を取られることを嫌ったみたいだけど、ムスビおばちゃんと何回か調整会議した上で、憲法で記されている職業選択の自由を盾に押し切ったとのことだった。



 幸永は実際の運営から身を引きつつ、この後のビジョンを尚人と語り合ったらしい。


 尚人は民間のためにサービスを提供するギルドを立ち上げたいと意気込んでる。それを現実にするために、材料調達課で働いている人たちが目標を立てて、毎日生き生きとした生活を送ってると幸永から聞かされた。



「まあ、人は人、俺は俺ってことかな」


 家業の店は週末と祝日の出勤となり、平日はできるだけ界隈にあるギルドでクエストを受けている。



 そんな日々の中で新しく知り合った冒険者がいるし、明らかに挑発してくる冒険者パーティもいる。


 万人に好かれる人なんていないから、いわゆるテンプレの連中と衝突しないように気遣いしてるのだけど、避けられないときも多々とある。




「はっはー。これはこれは、今売れ出し中のCランク冒険者の太郎()じゃないか」

「たかが運搬士(ポーター)の分際でどんな手を使って俺たちと同じCランクになったか教えてほしいぜ」

「あんたたち、弱い者いじめはやめなよ」

「イジメちゃいないさ、事実を言ってあげてるだけなんだよ」


 三男一女で構成する冒険者パーティであるフリーライフ、俺の同級生で高校の時からなにかと突っかかってくるやつら。



 卒業したら付き合いのない同級生なんてただの他人になるのだけど、こいつらはなにが楽しいのか、いまだにこうしてちょっかいをかけてくる。


 相手にしたら時間が食ってしょうがないので、カウンターへ行こうとするとリーダーを務めるやつが俺の前に立ちはばかる。



「おい、へっぽこの分際で無視するなよ」


「……」


 どうするかな。


 リリアンがいる今ならやれない相手ではないが、ギルドで騒ぎになると大概は喧嘩両成敗で裁かれる。面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだ。



「どうしたの? 行かないの?」


 リリアンがねぐらから顔を覗かせた。


「うわー。なんだこいつ、ドールなんか持ち歩いて気持ち悪いやつ」


 化粧が非常にケバい女が顔をしかめて暴言を吐いてくる。



「マジかよ、いい年して玩具遊びか」

「おい、へっぽこ。それを貸してみろ」


 頭に剃りこみを入れたやつがリリアンを掴もうと手を伸ばしてくる。



『——リリアン、雷魔法極小だ』


『はーい』


「いっつー」


 雷魔法を食らったやつは痛そうに手を引っ込めてから睨みつけてくる。


 ほかのやつらは俺を取り囲んで、武器こそ抜かないものの、見るからにすごい顔で凄んできた。



「なにしやがったんだてめえ」

「やんのかこらー」

「調子に乗るんじゃないわよ」


 これってさあ、旧時代に流行った小説の描写だよな。


 なんての? テンプレってやつか。でもここは摂津地域茨木支部、そんなものをギルド側が見逃すわけない。



「おい! なにをしてる」


 屈強そうなギルドの職員が制圧用警杖を携えて、俺と威嚇してくるやつらの間に入ってくる。




「違うんですよ、こいつから手を出してきたんですよ」


 ありきたりの展開で弁解するのも気力を使うから、手っ取り早く終わらせようと思った俺は事情聴取するギルドの職員に提案する。



「監視用ビデオを見ましょう。それでよくわかると思います」


「ああ? あにいってんだてめえ」

「全部お前が悪いじゃない、バッカじゃないの」


「静かにしろ。警告処分を下されたいのか」


 ギルドの職員のお言葉でキャンキャンと吠えてたあいつらが沈黙した。


 俺が言うのもなんだけど、警備が厳しいギルドの中で粋がるだけ粋がって、こいつらはなにがしたかったのだろう。警告処分なんか食らったら、しばらくギルドを出入りすることが禁じられてしまう。




 ビデオで見た結果は明白で、あいつらはギルドの支部長から直々絞られるという名誉を賜った。


 ここへ来たのはことさらしたいクエストがあるでもなく、畿内にある各支部を回ってみたいだけで、このままここに留まったら、お叱りを受け終わったあいつらが絡んでくるに違いない。



「山田君、ちょっといいかな」


「……用事が出来ましたので、また今度でいいですか」


 去り際にメガネをかけた()()()()仕事ができそうなスーツを着込んでる職員に呼び止められたので、さっそくだが断ることにした。



「そ、そうか……その用事というのはなにかな。いや、差し支えなければ教えてほしいだがね」


「うーん……能勢辺りに棲んでるモンスター族と交渉するかもしれないのでその準備があるんですよ」


「ほほう、それはご苦労さまです。

 山城での活躍はこちらにもうわさが流れてきてるので、今度は当ギルドでクエストを受けてほしいものですな。はははは」


「はははは。考えときますね、それじゃ」


 適当なことを言って逃げるつもりだったけど、真に受けるとは思わなかった。


 それにしてもどんなうわさがギルドのほうで流れているのか、気になるところだがここは逃げが勝ちだろう。




 やってきたここは獅子山城迷宮のラビリンスマスターであるピエーロさんが人々を招き入れ、より多くの魔力を取り入れるために、新たに迷宮化させた多田銀山地下迷宮。


 獅子山城迷宮と違って、この迷宮には百戦錬磨の迷宮迎撃軍(ピエーロフォース)が配置されていない。



 川西ギルドで調査記録を案内してもらったが、地下1層は初心者やワーカー向けに拡張させ、薬草や果物などの植物素材が採取できるらしく、記録されたモンスターもホーンドヘアやコダマネズミなど、油断さえしなければ一般の人でも簡単に倒せる。



 地下2層からは魔銅鉱石を採掘することができ、ゴブリンやコボルドが出現するため、こちらは下級冒険者向けといってもいいだろう。


 地下3層はオークが目撃されている。魔鉄鉱石の鉱脈はこの層で発見されてるため、今後は採掘依頼をかけていくみたいだ。


 地下4層にオーガが調査したパーティに襲いかかったので、詳しい情報は書かれていないけど、調査した冒険者が持って帰ってきたサンプルに魔銀鉱石が混じっていたと記されている。



『そうとも、魔銀鉱脈は4層にあるんだ。これで人がたくさん入ってきて、私のダン……ラビリンスのため、魔力をいっぱい使ってほしい』


「それでは採掘させてもらいますね」


『いいともいいとも、ちゃんとギルドに報告するんだよ。安全第一の多田銀山地下迷宮はガッポリ儲かるラビリンスとな。あはははは』


「ははは、わかりました。ピエーロさん、ありがとうございました」


『いいよいいよ。またいつでも来てくれ、エルフたちが()()()()()()とうるさいのだよ』


「はは。それじゃ」


 迷宮化した本人のラビリンスマスターからスマホで直接に聞くことができた。


 それはそうとエルフは俺に会いたいのではなく、リリアンを連れている下僕に会わないと妖精様に会えないのが正解だ。


 それでもリリアンさえ連れていればいつでも麗しいエルフと会えることを喜んでいいのか、それとも悲しんでいいのか、俺には判別することができなかった。



 一般的にまだ知られていないためか、ラビリンスの地下1層は人がまばらだった。


 俺は生えている果実を木からもぎ取って、背負っている籠に入れていく。たまにホーンドヘアが突撃してきて、足蹴りだけで気を失ってしまうため、殺すことがなぜかためらわれた。


 天井が高く、広さと明るさもあるために、ここならワーカーまたは一般人でも十分に探索することができる。


 ラビリンスマスターだって魔力の吸収という目的があって、なにも慈善事業をやってるわけじゃない。だが、こういう迷宮を作ったことはギルドから表彰されてもいいと俺は思ってる。




 地下2層でいくつかの魔銅鉱石を採掘し、ゴブリンとコボルドの魔石を手にしてから地下3層へ向かう。


 ここへきた今日の目的は多田銀山地下迷宮を実際に知ることであり、採掘した鉱石や採取した植物、それに魔石の値段を調べておきたいと考えたからだ。



「リリアン、新しい魔法を試すときだ。ミノタウロスは強いから倒せなかったけど、しびれさせることができた」


「うん? すぱいだーらいとにんぐのこと?」


「そうだ、お客さんのお出ましだ。結界も忘れないように」


「うん? えっとね……わかった」


 リリアンは言葉を理解するまで少し時間がかかる。


 これから先を考えると早く慣れるためにも、普通に話す言葉を正確かつゆっくりと喋るようにするのがリリアンのためだ。



『ブッキーー』



結界(バリア)50枚」


 結果の枚数もリリアンの判断に任せることで話し合った。その分、俺はバリアが壊されたときに盾で攻撃を防ぐことができる。


 太い木の棍棒を振り回すオークが5体、俺らに近付けようとするやつらはバリアに阻まれて、それ以上進むことができない。



『スパイダーあああ、ライトニングぅぅー』


 ほとばしる幾筋もの雷がオークを襲った。棍棒がラビリンスの床に落ち、やつらはもがき苦しんでいる。



「次だリリアン」


「うん? ラクライ?」


「そうだ、絡雷だ」


 スパイダーライトニングは見た目こそ派手なのだが、いかんせん下級魔法であるために火力が不足している。そのためにミノタウロスラビリンスで新しい魔法を開発した。



 絡むイカヅチ。

 これは雷魔法を連続して撃ち出し、そのイメージは敵の体に絡んで継続するダメージを与え続ける。元の発想は炎魔法から来ている。



「ラクラーイ」


 電撃の糸にオークにまとわりついて、やつらは絶叫を続けていく。削られた体力が限界まできているのか、急所に弱点が発現した。


「もういいよ、リリアン」


「はーい」


 雷魔法を終わらせてからミスリルナイフを持った俺は次々と止めを刺していく。ここのオークがドロップするのは魔石ではなく、大きな豚肉の塊だった。



「やったね、リリアン」


「やったね」


 飛び上がったリリアンが右手で上に挙げた俺の右手へハイタッチを交わす。



 これならリリアンと二人で迷宮探索(ラビリンスアタック)することができる。


 俺では無理だけど、ピエーロさんが教えてくれた話でリリアンなら成長ができるようだ。



 力を得たフェアリーは稀にハイフェアリーへ進化するそうで、リリアンのためにもそれに賭けてみたい。





ブクマとご評価して頂き、とても励みになっております。

皆様のご好意はとても嬉しく思い、感謝に堪えません。誠にありがとうございます。

本作で少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


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