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勇者家族のへっぽこ長男  作者: 蛸山烏賊ノ介
第4章 他人と関わることが目標のへっぽこ長男
43/83

4.03 友人思いの長男は求婚に協力

メリークリスマス!



 ピエーロさんの時もそうだけど、なぜ俺のことが岸和田右衛門督我流志守こと、岸和田城迷宮のラビリンスモンスターのガルシスにも知られてることが気になる。


でも俺には確かめる手立てがないので、気にはなるけどこれ以上は気にしてもしかたない。



 雨が毎日のように振り続けている中、出社して働く日々が続き、当分の間は冒険者稼業を控えるつもりだ。リリアンにマジックドールの装備や服を取られた俺は、ネットで好きなものを買ってやろうと妖精が選んだグッズを注文する。


 そんな気だるい休日の午後に尚人からの通話が入った。



『――楽しそうだな、太郎』


「そうかな? そうかもな。今度リリアンを会わせてあげよう。びっくりすんぞ、マジで生きるドールだからな——あ、リリアン、それにチェックを入れないで。あれはサキュバスの服だから買わないよ」


「ヒノモトゴ、リカイスルコトガデキマセン」


 理解しまくってるじゃないかこのご都合妖精。


 本体(リリアン)が持つ無駄に高い性能もさりながら、鬼ノ城のエルフさんのおかげさまでリリアンの日ノ本語はかなり上達してきた。簡単な日常会話なら苦にすることはない。期間限定だけど、引き続き無料の家庭教師をお願いしたいところだ。



『画像は送ってもらったのでめっちゃ楽しみにしてる』


「おう、そうしてくれ——リリアン、この前にドールハウスは買ってあげたから、その自衛隊ちゃんキャンプセットがカッコいいのはわかるけど、置く場所がないから買わないよ」


「ヒノモトゴ、リカイシタクアリマセン」


 理解しろや! とツッコみそうになったけど、尚人とお話するためにお邪魔妖精を掴んだおれは、抗議するリリアンを廊下にポイ捨てしてきた。そこでリリアンを待つエルフさんが回収してくれることでしょう。



「あー、ごめんごめん。妖精退治してきたからもう大丈夫——ところで今日はなに? 平日だけど仕事に行ってないの? 俺は休みだからうちに遊びに来るか?」


『あ、っとな。おれも休みだけどちょっとな……』


「なんか言いにくそうにしてるけど、どしたの。まどかと子作りに励んでるとこか?」


 本当に()()の真っ最中なら俺も対応に困るが。


『アホか! ヤりながら連絡する趣味はないわ! ——そうじゃなくてな、相談というか、お願いというか……』


「言うてみ、親友だから相談でもお願いでも聞くだけなら聞いてあげるよ。あ、ミサキ人形はやらんぞ」


『それはおれも買ったからいらない……じゃなくて、太郎! 甘えたいことがあるけどいいかな?』


「それを言ってもらわんと俺もわからんから話してみって」


 尚人は穏やかな性格してるが言うべきことは言える奴だから、こういうふうに言い淀むようなことは高校時代でも数度しかなかった。


 お互いが社会人になった今、きっと重大なことなんだろうと思った俺はこれから話されることを聞き漏れのないように耳を澄ませる。



『まどかと結婚したいと考えてるから、お金を稼ぎに行くのにクエストに付き合ってもらえないか』



 おっしゃきたー! なんのことかと心配したけど、友人のめでたいイベントを手助けないわけには行かない。


「任せろ。どこでクエストを受けるつもり?」


『まどかを驚かせたいからパーティは休みにしてる。エンゲージリングと結婚式もあるし、できれば住んでるワンルームから引っ越したいと考えてるし……欲張りかな』


「とんでもない、甲斐性があっていいじゃないかそれ。わかった、手伝うからどこに行くかを教えてくれ」


 どのようなクエストで金策に走るかを知っておかないと、俺もできるとできないことがある。



『うーん……正直なところよくわからないんだ。太郎は薬草とかの採取ができるから儲けられると思うけど、それに甘えるのは友達としてどうかと自分でも思う』


「まあまあ。この際だ、そういうのは考えるなって。先に聞くけど、尚人はいくら稼ぐ気でいる?」


『エンゲージリングは10万でほしいやつがある。引っ越しは二人用の家具の買い替えを入れて10万かな? 結婚式は親が苦しいから出してもらえないので、全部自分でなんとかしないといけないけど、相談した式場の人から30万はかかるっていわれてるんだ』


「尚人は50万は稼ぎたいと考えてるの? 貯蓄とかある?」


 スマホの向こうで尚人が悩んでるようで唸ってる。たぶん貯金はそんなにないのだろうと感づいた。



「なあ、俺んとこなら結婚式はいくらか安くしてやれるはずだ。50万は確かに大金だけど、やれるまでやってみようよ」


『……ありがとう』


「クエストも幸永に聞いてみる。今日中に返事できると思うからスマホを近くにおいとけよ」


『わかった……迷惑をかけてごめんな、太郎』


「バーカ。そういう時はありがとうって言えよな。後で連絡するから待っててや」


『うん、ありがとう。連絡を待つから頼む』


 尚人との通話が切れた後、スマホで幸永の連絡先を探す。



 50万なら尚人が口を開けば貸せる金額だが、あいつはそれを口にしなかった。


 お金って不思議なもの、人に貸せば助けられることはあるけれど、見えないところでお互いの絆を捻じ曲げる場合がある。



 オヤジのあれは別にして、俺には他人にお金を貸した経験がない。ただ、昔に両親からお金を借りた仲の良かったおっちゃんやおばちゃんたちがいつの間にか、うちに来なくなった記憶がある。


 オヤジもかーちゃんも、あいつらは困ってるからしょうがないと笑っただけで、それ以上はなにも言わなかった。俺が考えるには借金したおっちゃんやおばちゃんたちが気にして、自分から寄りつけなくなったじゃないでしょうか。



 尚人は大事な友達だ。付き合いがある分、なんとなく考えてることが読める。


 ——協力を求めたいけど友達の力を当てにするのは自分の甘えじゃないかな——


 そんな迷いをみせるあいつに応えてやりたい。なにより、高校時代の友人同士が結婚できるように力を貸してあげたい。




「いいよ。それなら私も同行するね」


「どこへ?」


 俺からの連絡を受けた幸永はすぐに部屋まで駆けつけてきた。


 山城地域で探索協会が大きな動きを見せているので、連日の会議が続いて辟易したと本人が珍しく弱音を吐いてた。


「吉倉くんが結婚のために金を稼ぎたいって言ってるでしょう? それなら稼ぎやすい所へ案内してあげるのが友人ではないかな?」


「俺のな」


 幸永は高校入学すぐに生徒会入りしていて、マイが生徒会長を務めた時は副生徒会長として生徒会の実権を握った。プライベートでも女をとっかえひっかえして、同級生だけでなく、後輩や先輩、果てには若い女の先生との噂があった。


 ……なんか思い出しただけでムカついてくる。



「——ド畜リア充クソ野郎は帰れ!」


「またいつもの病気が発作したようだね」


 俺とは2年生の時から遊んでいたので尚人と幸永は面識がある。まさかとは思うけど——


「まどかとは()()()()()()()んだろうな!」


「あるはずもないよ。ターちゃんの友達の彼女に手を出すほど落ちぶれてないよ」


「落ちぶれてたら手を出したのか!」


「ねえ、それ堂々巡りになるからやめない?」


「うん、俺もそう思った」


 こいつに女のことで追及していたらいくらでも埃は叩ける。ただこいつの場合、良識はないが常識はあるので、冗談のとき以外は追求するつもりがない。



「親しくしてなかったのは認めるけどね、顔見知りだし、ターちゃんのお友達だから私も友人と思っていいよね」


「おう、ありがとう」


 友達のことを幼馴染が友人の認定をしてくれるなら俺も嬉しい。



「ところで幸永、この話は家族に広めてないでしょうね」


「ターちゃんの言いたいことはわかってる。だからこうして来たじゃないか」


「その気遣い、ありがとう」


「いいよ。私の気配りは()()()から喜んでもらえるんだ」

「——ド畜リア充クソ野郎は帰れ!」


 こいつがいう()()()は間違いなく()()()()のことだ。ちくせうめ!



 この手の話は洋介に聞かせたくない。


 あいつが聞けば、きっと熱意に満ちたやる気でことを大事に変えてしまい、物事が持つ本来の本質がすっごくややこしくなる。


 それにマイにも教えたくない。


 あいつは外見こそ冷淡そうに見えて、友達に認定した人には本当に良くするいい子だ。だけど、今回はあくまで尚人がまどかにプロポーズして、頷いてもらえたら結婚してから引っ越しする。マイが間に入るとまどかの立場から物事を見るので、洋介とは別の意味で宜しくない。


 正重は論外。


 世間人情から道を外れてるやつに、言いたくないし聞かせたくもない。どうせ結婚式に行っても出されたを食い散らかすだけだから、多めのご祝儀を尚人の代わりにせびってやる!



「ターちゃんもマイのことは考えてあげなよ。近い内に三山さんと吉倉くんがマイにも知られてしまう。あの子も表には出さないけど、きっと寂しい思いしちゃうよ」


「……」


「まあ、恋バナに口はあまり出したくないけどね、マイは可愛い姉さんだから察してよ」


「……」


「そうやってジュースを飲んでマジックドールを突っつくのは構わないけどさ——吉倉くんの話を戻そうか」


 双子に弟も姉もあるかと俺は言いたいね。ただマイを思う幸永の気持ちもわかるし、マイの気持ちも理解できるので心が痛くてしょうがない。



「短時間で50万を稼ぎたいって言ってたね」


「うん。そんなクエストはあるのか?」


「……このお茶は美味しいよね。ビワコ族だったかな、今度から私の分も買って来てよ」


「わかった」


 そういえば洛東にいるコボルド族もこのお茶を出してくれた。近い内に山城へ行って、九条さんがまだ抑えてないのなら先に独占契約を結んでしまえと固く決意する。



「さきの話だけどね、50万以上のクエストはたくさんあるよ。問題なのは吉倉くんのランクじゃ受けられないってこと」


「そっか……」


「またマジックドールを突っついてる……まっ、そんなEランクの吉倉くんとCランクのターちゃんに朗報だよ」


「なにそれ」


 悪い顔をする幸永がニヤリと笑ってる。それでもカッコいいと思う女はいっぱいいるかもしれないが、俺には気持ち悪さしか感じられない。モテないやつのひがみだ、悪いか!



「クエストではないけれど、今なら時期限定で50万は稼げる迷宮探索(ラビリンスアタック)があるんだ」


「ラビリンスアタック?」


「そうだよ。一般的にはCランクパーティ以上しか行かないけれど、用意されてるドロップ品や宝箱(トレジャーボックス)はラビリンスマスターが保証済みだから大当たりが多いのよね」


「へ、へええ……そんなのあるんだ——で、どこのラビリンスだ」


「大阪城迷宮、夏のフェスティバル。東歴22年度、夏の陣インおおさか」



 西の大阪城迷宮、東の江戸城迷宮。


 単体のラビリンスとしては大阪城迷宮が日ノ本で最大の規模を誇ってる。


 異空間化されてる迷宮とはいえ、いまだかつて誰一人として天守へたどり着くことがなく、侵入者ごとに異なる階層を作り出せるラビリンスは大阪城迷宮でしかない。


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