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勇者家族のへっぽこ長男  作者: 蛸山烏賊ノ介
第3章 依頼を達成することが目標のへっぽこ長男
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番外編2 腹黒なお嬢様は古都の守護

山城地域探索協会副会長九条日奈乃の視点

良ければご一読ください。


誤字報告して頂き、厚く御礼申し上げます。

お手を煩わせ、本当にありがとうございました。




『――そうか。それでは山城のことは君に一任する。お年寄りの戯言は私に任せるがいい』


「ありがとうございます、総理。これでやんごとなき御方の御心をお慰めすることが叶いますわ。いにしえよりこの地でお仕えする九条家の当主であるわたくしから、京の都は必ずお守するとお伝えしてください」


『わかった。陛下にお届けできるよう、人を手配する』


「ありがとうございます」


『モンスター族との和平条例は君が草稿を起こしてくれたまえ。ただし、期限は最大でも30年内に収めてほしい。後の世代が日ノ本の国を取り戻す余地を残してやらんといかんのだよ』


「もちろんですわ。オーク族とコボルド族との話し合いで、15年をめどに再締結すると話をまとめておりますので、ご心配なさらずに」


『比叡山にいるオーガはどうするつもりかね』


「オーク族とコボルド族から得られた情報により、オーガ族はあくまでわたくしたちに従わないと結論付けしました。こちらからすでに()()()()降伏勧告を送り届けましたので、オーガの習性から鑑みても投降するのはあり得ないと思われますわ」


『ふむ。なにか政府のほうで助力することはあるのかね』


「自衛軍を派遣してください。国土を取り戻すのはあくまで日ノ本帝の国の力によらねばなりません。伊丹村に駐屯する砲兵部隊をこちらへ来させてください」


『砲兵か……いくら威力があるとは言え、重砲ではモンスターを殺せないではなかったのかね』


()()()()()()()()()()ですわ、総理。花火は派手に打ちあげたほうが美しいとわたくしは思いますのよ」


『どういうことかね?』


「政府の攻撃によりモンスター族、しかも恐れられてるオーガが撃滅された。私たちはその成果を手にすべきだと思いませんか? 冒険者や協力するモンスター族によって滅ぼされた真実は()()()()として、後の世に伝えていければそれでいいじゃありませんこと?」


『その通りだ、九条くん。国土はあくまで我々の手によって復旧されるという事実が必須だ。それによって日ノ本の領土は政府の管轄下におかれる。これを世の人から見て、ゆるぎない現実として我々政府がその責任を果たせねばならんのだ』


「はい。総理のおっしゃられた通りでございます」


『宜しい、時期は君が定めるといい。自衛軍のほうは私のほうで手を打とう。東京や大阪のように勇者という個人の力ではなく、我々日ノ本帝の国が国土を取り戻す。今度こそそのことを国民に示すべきだ』


「はい」


『報告で見た山田太郎なるものだが、わが国へもたらせてくれた僥倖を十分に報いてやりなさい。政府にできることがあれば、遠慮なく話してくれたまえ』


「畏まりました。総理のご好意にお礼を申し上げますわ」


『うむ。では私はお年寄りの相手をしてくる。山城……いや、畿内のことは君に託そう』


「畏まりました」


 旧京都市内にある九条家の邸宅で当主である九条日菜乃は、受送信妨害のできない遠距離通話を終わらせて、すっかり冷めた紅茶を口にした。



 最初に山田太郎と会ったときは()()()()冒険者がいるものだと思い、勇者の一族だから鍛えたら面白くなりそうな人材と考えていた。そのために山田明日香と話し合って、期間限定だけど山城地域で役立つような冒険者に育てようと計画した。



「でも、太郎ちゃんはそれ以上のことをやってくれたわ」


 モンスター族とは対立状態にあると固定観念にとらわれていた九条は、サバギン族を初め、山城付近に棲むモンスター族と交渉してしまった山田太郎の行動を注意深く見守った。


 式神を飛ばして監視してもよかったが、その間に九条自身が動けなくなるため、それは諦めてヤマシロノホシという、昔から可愛がったパーティに同行させた。


「ふふふ、ゆたかくんの報告はよくできてるわ。太郎ちゃんに意図なしの一文が太郎ちゃんの本質をよく現してるわね」


 気ままで動くのほうが九条にとっては都合がいい。こちらの思惑通りに動けなくてもいい、結果が出ればそれこそ総理の言った通り僥倖である。



「陛下がお望みになられる京都の平定、それこそが九条家の念願ですわ」


 九条は探索協会の副会長として責任を果たそう気持ちもあるし、それが自分の義務と考えている。しかし、それ以上に旧時代から公家の血筋として陛下にお仕えすること、それに京の都を守り続けることが彼女の生きる原動力となっている。



「オーガを打ち滅ぼせば、東と北はこれで警備隊程度の守備態勢に抑えることができるわ。あとは西の亀岡……」


 旧亀岡市の状態は未だに改善することはできない。


 集めた情報を解析すると旧亀岡市の周りに棲むモンスター族は一定の期間を置き、こちらの戦力を測るように襲来し続ける。それに亀岡臨時支部と自衛軍が戦力を増加させたときに、それに合わせてモンスター族の戦力も増強される。


「こちらの動きが読まれてるしか思えないわ……」


 山城北部のオーク族と交渉した時に九条日菜乃が疑問に思ったことはいくつもあった。


 疑念の一つがオークはスマートフォンを利用しているということだ。モンスター族が人間の生存圏でスマートフォンの契約を行うことはあり得ない話、だれかがオーク族に契約中のスマートフォンを渡してると考えるのが妥当。



「問題はだれがオークにスマホを渡してることね」


 会議中にそれとなく聞いてみたけれど、オークセイジのイスファイルは笑うだけでなにも答えなかった。九条はせっかく築き始めた信頼関係を壊したくないので、それ以上のことを聞こうとしなかった。


 懸念事項として心に止めてから彼女はソファーに体を預けた。



「必要な金属製日用品をオーク族に作ってもらうのもいいかもしれないわね」


 イスファイルからの話で、山城北部のオーク族は丹波の山で鉱山を持っている。彼らには鍛冶する技能があるし、鍛冶場も所持すると聞かされた。


 イスファイルにしてみたら、そのことはギルドと交易を行うために公開した情報だが、九条としてはオークが持つ文明の高さに驚かずにはいられなかった。さらに動画で見たカリスタというオークナイトは、ラビリンスモンスターのオークよりも強いであることが確認できた。


 いつか人類は彼らと敵対するかもしれない。


 そのオーク族がスマートフォンを使用して、人間の科学技術を手にしたらどうなることだろうと危惧した彼女は、慌ててその考えを振り払うかのように頭を荒々しく振った。



「厄介なことばかりで埒があかないことを考えてもしょうがないわ……いいわ。鬼門の守護である叡山に居座るオーガはもうすぐ退治できる。後は西、亀岡さえ落ち着いてくれれば都は安泰。時期を見計らって四神相応の都を取り戻して見せますわ」



 九条は壁にあるモニターに映る詳細地図を眺めている。京の都の北部と東部から脅威が取り除かれそうとなった今、亀岡臨時支部へ余剰戦力となった冒険者を派遣し、調査クエストを増やそうと探索協会の方針を決めた。



「オーク族と違って、攻撃の手を緩めない亀岡のモンスター族はなびきそうにないわね」


 山田太郎を帰したことは多忙になってきた九条日菜乃にとって、この時期に合う判断だと考えている。


「ほかの支部から手を出されちゃうと困るわね」


 功績に相応しい冒険者の昇格はギルドの幹部としての責務である。そのために山城地域探索協会から、山田太郎をCランクの冒険者に推薦する書類を探索協会の本部へ送信した。



 冒険者の昇格は規定により協会のサイトで公告されるので、Dランクへ上がった太郎がサイトで名を連ねたのはつい最近のことだ。


 それが短期間でCランクになることが知られると騒ぎになりかねないため、できれば山田太郎にしばらくの間は大人しくしてほしいと九条は考えている。



「お嬢様、お食事はいかがなされますか」


「あら、じい。気が付かなくてごめんなさいね」


 思いに耽る九条に、子供時から仕えてきた老人の執事が控えめに声をかけた。


「今宵の献立は丹波の山地より送られてきました牛肉をとろ火でじっくりと煮込んだシチューでございます。サラダは同じ産地の自生する野菜と果物をふんだんに使って、お嬢様がお好みのフレンチドレッシングで仕立てました」


「オーク族から送られてきたものばかりですにね。わかりましたわ、すぐに食堂へまいりましょう」


 ソファーに腰掛けたまま背伸びする九条へ、執事が遠慮気味に口を開く。



「お嬢様。この前にお話のあったお見合いの件ですが……」


「そのお話は丁重に断ったつもりですが、なにか?」


「ええ。先方様の頼みで東京のほうから藤田様がご一考されてはいかがかと、連絡がありました」


「藤田のおばあ様からねえ……」


 立ちかけた九条は再びソファーに腰かけた。


 ネオジパン党の幹部である藤田は京都の出身で、九条が幼い頃からの知り合いだった。


 畿内地方で勢力を伸ばしたいネオジパン党は、ことがある度に藤田を通して九条家と接触を図ることに、九条は快く思っていない。


 ただネオジパン党が国政を裏から大きく関わっている以上、九条としても邪険するわけにもいかず、顔を潰さない程度にあしらったほうが得策だと観念した九条は、お見合いに出席するを執事に伝える。



「いいわ。見た目は若いかもしれませんけど、こんなおばちゃんで良ければ()()()()でもお付き合いしましょう」


「いいえ、お嬢様はいつまでも若々しくお美しいであられます」


「じい、ありがとう」


 ワールドスタンピードの時に両親を亡くした九条を大事に育ってきたのが執事。彼にとって、彼女は先代の当主から預かった大切な九条家の現当主で、いくつなっても守っていかなければならない宝物でもある。



 どこの馬の骨であろうとお嬢様にその気がなければ嫁ぐことなど、彼が命を賭しても阻止する気構えは持っている。


 執事がどう思うであれ、探索協会で有数の実力者である九条日菜乃に手を出そうとする命知らずは、今でもほとんど現れない。





明日も番外編を投稿します。良ければ読んでください。


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