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勇者家族のへっぽこ長男  作者: 蛸山烏賊ノ介
第3章 依頼を達成することが目標のへっぽこ長男
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3.11 結界張る長男はオークの連撃に驚愕

 オークキングはオーガたちのヒーロー。3mはある巨体を誇り、全身をミスリルの鎧で固め、身長と変わらないくらい巨大なツーハンデッドソードは傍らに控える2体のオークジェネラルが抱えている。


『小僧っ子、大儀であった』

『はっ、ありがたき幸せ』


 先から大儀であったとしか言わないオークキングは酒を飲み、おつまみを美味しそうに食べている。



 九条さんとムスビおばちゃん、それにオーク族の内政担当であるオークセイジのイスファイルを交えてのスマホ会談は、口頭ではあるものの、山城地域探索協会と山城地域の北部に住むオークの集団は共存協定を結ぶ合意に至った。


 これはラビリンス以外で、モンスター族が人間と初めて和平条約を締結する快挙となっただそうだ。



 交戦の直前じゃなかったのかよと口から出かかってたけど、いい雰囲気だったので空気の読める俺は自重した。


 オーク族が人間の言う和平案に興味を持ったのは、イスファイルがキングに意見したことが大きく影響した。通訳して理解したのがイスファイルは人間と戦いたがってないこと、人間の知識を取り入れたい考えを持っていることの二つだ。


 オークセイジのイスファイルは自分たちオーク族の力を正しく把握し、人間との戦いを避けたいように思われた。



 本日の会議はで双方が合意した内容が四つある。


その一、

日ノ本帝の国と山城北部オーク族が和平協定を協議する場合は山城地域探索協会が立ち会い、双方に不利益な条件がないように条文の調整に協力する。


その二、

山城北部オーク族は山城に住む人間の地域に攻撃を加えない。山城地域探索協会側も山城北部に住むモンスター族へ討伐クエストを依頼しない。

ただし、冒険者やモンスター族の個体が違反した場合は個別案件で双方が協議するとのこと。


その三、

山城北部オーク族とラビリンスグループは山城地域探索協会の管轄下において交易を行う。

また、稲作を始めとする農業や食品の加工を学習するために、山城北部オーク族から一定の技術者(オーク)をラビリンスグループへ派遣する。


その四、

山城地域探索協会が地域の安定を図るため、周囲一帯のその他のモンスター族と衝突が起きた場合は、事前に山城北部オーク族と協議を行う。

双方の信頼関係に損害を与えないと認めた場合、山城北部オーク族はその他のモンスター族に加担しない、若しくは山城地域探索協会に協力する。



 双方が談笑するスマホ会談で俺の役割はオーク族側の通訳だった。


 リリアンは話にあきたのか、アリシアさんのお誘いで彼女の懐で就寝した。ハヤトさんとアリシアさんは眠気を耐えながら俺の護衛役を務め、冬子さんは録画してるし、田村さんは会談の内容を速記で書き留めた。


 冗談の一つがこんな大事になるとは想像することはできなかったけど、クエストの報酬が追加されるという嬉しい知らせにみんなが心を躍らせた。



『小僧。人族のところへ行ったらよろしく』

『はい。できる限りの協力がさせて頂きますよ』


 手を握ってくるカリスタは田植えの技術を学ぶために、ラビリンスグループへ派遣されることが会談中に決定した。オークナイトが曰く、池田駅前迷宮食堂に来ることが楽しみだそうだ。



『美味しい焼き鳥を約束しますよ』


『それは行かないといけない。ところで焼き鳥とはなんだ、ハーピーの丸焼きか?』


『そんな恐ろしいものじゃありませんよ。うちの養鶏場で飼育した鶏です』


『にわとりとはなんの鳥かはしらんが、楽しみだ』


 ハーピーを丸焼きするなんて、俺にそんな調理術はないし、その前にうちの厨房ではハーピーが大きすぎて焼けない。その前に人型のモンスターなんて焼く気にならない。



 ここで王様から手酌の合図が出た。差し出された酒杯というか、一升瓶の分が丸々入る大きなコップへお酒を注ぎこむ。


『小僧っ子、大儀であった』

『はっ、ありがたき幸せ』


 このオークキングとの会話はこれがテンプレートとなるのだろうか。それなら楽でいいと思った。



『カリスタさん、お願いがあるんですが、ちょっと槍で殴ってくれませんか?』


『は? タロウの小僧は我らと戦争する気か?』


 なんでやねん。


 説明不足のは確かに俺が悪い。でもそこでなんでいきなり戦争という言葉が出たのか、その発想がわからない。


 カリスタたち山城北部のオーク族と和平の交渉が成立したので、戦闘に突入する場面はなかった。ただ俺としてはせっかくなので、リリアンの結界をこの強いオークナイトで試してみたい気持ちが湧いた。



『違うんです。ちょっと離れた場所からカリスタさんからの攻撃を止めてみせますよ』


『ほう。いうねえ、タロウの小僧。我とてキングの親衛隊を務める身だ、小僧がその騎士の攻撃を受け止めるだと?』


『あ、いや。すみません。言葉の綾でカリスタさんの力をお借りしたいかなあと』


『よいぞ。そこまで言うなら小僧を切らないところからやってやろう。ただし、飛ばされる圧で吹っ飛んでもしらんぞ。構えろ、小僧!』


 横へ流すように槍を構えるとカリスタさんが気を集めるというか、戦闘力がグングンと上がっていく気がする。挑発するような言葉は失敗したと一瞬に反省したけど、ここまできたらもうやるしかない。



『リリアン、結界3メートルだ』

結界(バリア)!』


 距離感を覚えたリリアンがおおよそ3mの範囲で俺らを包むような結界を張った。


『む? 怪しげな魔法を……いくぞ、小僧!』

「――大範囲防御(ハイパーシールド)!」


 横方向へ薙ぎ払われるカリスタさんの槍が()()で結界を壊し、その後に来た風圧が俺を吹き飛ばした。結界が破れた瞬間に盾で防いだので、けがを負うことはなかった。



『むむ、変わった魔法であったが我の攻撃を止めるに至らず。残念だったな、小僧』


『——もう一度。もう一度お願いします』


『ふむ。勇気のある小僧だが、立ち向かえない者を相手するのは蛮勇と知るがいい』


『今度こそ止めますからお願いします』


 槍を収めようとするカリスタさんへ俺は食い下がってもやってもらう気でいる。そうでないと、この先に強敵と相対した時に生き延びる術を失う気がした。



『よかろう。そこまで言うなら気が済むまで付き合おう』


『ありがとうございます……リリアン、10()()だ』

()()結界!』


 これが猛牛(ミノタウロス)迷宮(ラビリンス)の最深層でみたバリア。一枚ではなく、数十枚と重ねたそのバリアに俺とハナねえの魔法連射コンビが食い止められた。



『小僧、今度は吹き飛ばされるなよ!』


 縦方向で振り下ろされたオークナイトの攻撃は、空中で硬直したかのように止められた。驚いた顔のカリスタさんはすぐさま槍の突きによる連撃に切り替える。


『タロット、全部()()()しまう!』

『焦るな、リリアン。今度は2()0()()だ』


 俺から魔力が抜かれていく感覚が止まらない。右手にいるリリアンがいつになく真剣な顔でバリアを張り続ける。


『——面妖な! これでもくらえ!』


 騎士団のオークだけであって、くり出される技は横払いに振り下ろし、その間にも連続する突きが止まりそうにない。



『タロット!』

『止まるなリリアン! 次は30枚だ!』


『ぬおー! 死ねいっ!』


 まずいと思った。怒気が溢れる顔を真っ赤にするカリスタさんが完全に本気となってしまった。あなたはどこぞの赤鬼かと心の中で罵ってやった。



『タロット!』

『よん――50枚だリリアン!』


『小癪なっ! ()()()()()のカリスタと呼ばれる我を甘くみるでないわ、死ねや小僧おおっ!』


『落ち着いてよカリスタさんっ! リリアン、とにかく張り続けろ!』


 充血した目をするキレてしまったカリスタに俺の言葉が耳に入らない。俺の思わぬ危機とカリスタがくり出す美しい技の切れに、この場にいる全員が目を張ってしまい、動けずにただ見ているだけ。


 これはマズ過ぎる。誰でもいいから早く助けて!




『——すまない小僧! つい本気になってしまった』


『いいです。挑発するような言い方で俺も悪かったです』


 発狂したカリスタを止めてくれたのはオーク族のお偉いさんであるオークセイジのイスファイル。


 冷たい雹の嵐である氷魔法がダメージを受けたカリスタの目を覚まさせ、リリアンが張ったバリアは数枚だけを残して、この騒ぎを鎮めさせた。



 土下座するカリスタに、これまた土下座で返した俺へイスファイルは微笑みながら近づいてくる。


『そこにいるのは妖精ですね。わたしたちの心の故郷であるカラリアン大陸からおいでなさったですかな』


『はい。らび……ダンジョンの転移でこちらの世界に来たと言ってました』


『そうですか。機会があればぜひわたしたちのところへ遊びに来てください』


『はい。近くに寄ったら行かせて頂きます』


 通訳での心労、カリスタとの対戦で味わった疲労。このままでいいのなら夜明けの今でもいいから、深い眠りについてしまいたい。



『小僧っ子、大儀であった』


 ブレない王様である。


『はっ、ありがたき幸せ』


 それなら俺もブレるわけにもいかない。




 カリスタたちに守られて、下山する俺へアリシアさんが無用な危機を招いたことにクドクドと文句を言ってきた。逆に田村さんからオークの実力を知ることができたと褒められた。


 怒られるのも褒められるのも、なんでもいいからとても眠たいので、すぐに寝かせてほしい。



『それではまた会う日まで』


『送ってくれてありがとうございました。カリスタさん、またお会いしましょう』


 愛宕山の麓を通った俺らは保津川に出たところで、カリスタたち護衛してくれた親衛隊と別れた。


 ハヤトさんが九条さんと連絡を取り、迎えを出すと気遣ってくれた九条さんと合流地点を協議中。もう少しで平地に戻れると考えた全員は、最後の力を振り絞って川沿いから行くことを決めた。



「よくっやてくれましたわ、太郎ちゃん。もう、ヒナちゃん大感激ですわ」


 天龍寺跡まで迎えに来てくれた九条さんが倒れる寸前の俺に抱きついてきた。


 眠気で麻痺した俺の神経では九条さんが持つ豊満な身体付きを感じることができない。車の中でいいから眠らせてほしいと、今はそれだけしか考えられない。



「田村さん。送ってきました報告と動画はとても素晴らしいですわ。その功績は追加する報酬にちゃんと加算しますからね」


「それは嬉しい配慮です。ありがとうございます、九条さん」

「やったね。50万以上は確定!」


 大人ってお金に取り付かれてるもんだな、なんてことをぼんやりと思い浮かぶ。現に俺自身も自分がいくらもらえるかなと、働かない頭なのに心は動いてしまった。



「詳しい報告は明朝に伺いますので、本日は宿泊先でゆっくりと休んでくださいな」


「ヒナ姉さん、そいつはありがたい。おれたちはもうぐたぐただからゆっくり休みたい」


「わかりました。明日の朝10時に洛西支部で待ちますね」

「了解だ」


 こういう場合はリーダーにお任せするのが一番と確認できた。九条さんは別件で洛東ギルドへ行くと告げてきたので、洛西ギルドの近くにあるアドベンチュラーホテルへ戻る俺らとはここで別れることになった。



「太郎、晩ご飯どうする?」


「ハヤトさん、起きてから連絡していいもですか? 今にも眠ってしまいそうです……」


「わかった、実はおれもそうなんだ」


 ここからアドベンチュラーホテルまで車なら30分もかからない。その30分でいいから目を閉じてしまいたい思いしか頭にない。


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