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勇者家族のへっぽこ長男  作者: 蛸山烏賊ノ介
第3章 依頼を達成することが目標のへっぽこ長男
28/83

3.03 へっぽこ長男は純情な幼馴染にイタズラ

誤字報告して頂き、厚く御礼申し上げます。

お手を煩わせ、本当にありがとうございました。



 亀岡臨時支部で一泊した後、ギルドの職員は輸送隊に洛西支部へ運ぶ物を指示して、桑原さんたちと一緒に倉庫へ足を運んだ。


 臨時支部の倉庫に備付けの大型な冷凍庫から退治されたツキノワグマやワイルドドックなどのアニマル、討伐されたオークを初め、各種にモンスター素材などが次々と空になった大容量収納リュックに入れられた。


 いたたまれない思いしたのが保冷機能が付いた納体袋だった。


「わたしが運んでおくから」


 桑原さんはそう言ってくれた。


 でもそれは俺を慮ってのことではなく、山城地域で活動してきた桑原さんにとって、亡くなった冒険者や亀岡開拓団たちの人々は戦友だったからと、増野さんの奥さんである朱里さんがそっとささやいてくれた。



 人には生きた分だけ積み重ねた歴史があるし、人と人が通わせ合った心は目に見えないものだけど確かにそこにあったはず。まだ22才の俺には死が漠然としたイメージでしかなく、はっきりと意識することはまだできてない。


 一つ、また一つと名札が貼られた袋へ手を合わせながら収納する桑原さんを見ていると、これが俺の生きてる世界だとあらためて認識させられた。


 妖精リリアンのことはアリシアさんが説明してくれたようで、護衛チームのだれからも直接に聞かれていない。亀岡臨時支部を出た俺らは、災害地のような旧亀岡市を後にして洛西支部へ向かった。



 2週間ほど前に別の輸送隊がモンスターに襲われた。かろうじて数人だけが生き延びて、やっとの思いで逃げて帰ってきたと林間の道で桑原さんは教えてくれた。そのために今回の運送依頼達成は亀岡臨時支部にとって、息が吹き返した思いだと大いに沸いたらしい。


 知人が多くいる桑原さんたちは、桑原さんが自腹で持ち込んだお酒で深夜まで亀岡臨時支部の冒険者たちと飲んでいた。


 出発前に青白い顔で大丈夫だとうそぶいてる増野さんを心配したけど、桑原さんと朱里さんがなにも言わないので、俺も口を噤むしかない。帰路途中の休憩時間に吐いてたのはたぶんご愛嬌だ。



 来たときと同じように、モンスターからの監視に付きまとわれたが襲われることもなく、旧亀岡市と旧京都市の間にある山間部を無事に抜けることができた。ようやく気を休めた俺らはすぐに洛西ギルドへ戻り、預かった輸送品を引き渡し、大容量収納リュックを返却してから1階の受付へ向かう。



「――これでクエストは完遂です、皆様、お疲れさまでした。明細書は後ほど発行致しますのでご確認ください」


 受付カウンターで桑原さんに対応してくれてるのは九条さんだった。今回の輸送報酬は危険手当込みの金額はポーターチーム全員で50000円、一人当たり12500円の手取りとなり、それぞれの銀行口座へギルドが振り込んでくれる。



 冒険者の依頼報酬は免税ではなく、依頼書に書いてある報酬金額の10%が税金に当たる。いわゆる冒険者税だ。


 本来は税金を天引きされるものだが、特殊冒険及び狩猟行為に係る派遣労働者の勤務と権利に関する法律、通称冒険者法の第25条第3項に記載されてる通り、派遣労働者が納付すべき税金は依頼する探索協会が税金を包括した依頼報酬に対する所定税率の税金を代行して納付することができる。


 ……とかなんとかの条文を、探索協会に加入した時にもらった冒険者手帳に書いてあった。



 早い話、依頼報酬の金額とは別に報酬の10%を含んだ金額が本来の報酬。しかし、ギルドは冒険者の代わりに税金を納付するので、10%の金額を差し引いた分が冒険者の手取りというわけだ。


 ギルドに規定する申請手続きを済ませていれば、税金を含んだ報酬が受け取れる。年収が120万を超えるない場合、確定申告が不要となる。これはワーカーに配慮した免税策であると、九条さんがこの前に教えてくれた。


 年収が500万以上の冒険者は冒険者税とは別に、確定申告で年収に応じた冒険者特別調整税を支払わねばならない。例えば年収1000万の場合に10%の税率となる。要するにお金持ちはより多くの税金を納めろってやつ。もっともそんな大金が稼げないおれには関係のない話だ。


 正直なところ、確定申告とか面倒くさそうなので、さっさと税金分を引いてくれたほうがありがたい。


 もしいつか年収500万以上の冒険者になれる日が来たらば、家族たちが依頼してる税理士に税務を丸投げするつもり。そんな日は来そうにないけど、高収入冒険者の夢をみるのは()()だ。




「機会があったらまた一緒にクエストへ行こう」


 朱里さんからの別れ言葉でお互いに手を振り、桑原さんたちが次のクエストの受付をするために別のカウンターへ移った。


 チームを組んでるために収納できる物資の量、熟練したポーターの技能、クエストの達成率も高いため、山城地域に所属する冒険者パーティから彼らへの同行依頼はかなり多い。ここ一帯でもっとも多忙なチームの一つであると九条さんが話してくれた。



「クエストの同行でいい人たちを合わせてもらえました。ありがとうございました」


「はい。太郎ちゃんもお疲れさまでした。本日は案内する依頼がありませんのでゆっくりと休んでください」


 にこやかな九条さんの笑顔に、てっきり次のクエストを手配されたと思っていた俺はどう返事すればいいかと固まってしまった。



「冒険者は体が資本ですので、体調を整えるためにもしっかりと休暇を取ることが大事ですよ。

 宿泊先は洛西支部のアドベンチャラーホテルを手配しましたから、そちらで休んでくださいな


「ありがとうございます」


「次のクエストですが、明後日の朝に洛北支部へ朝7時に来て頂いたら案内しますので、ちゃんと遅れずに来てくださいね」


「わかりました」


 有無言わさずとばかりに、九条さんはしっかりと俺のスケジュールを立てていた。こっちにいる間はそれのほうが楽だし、ホテルも手配してもらってるので、ちゃんとお礼を言っっておかないと申し訳ない。



「よう、太郎。この後の予定は?」


「あ、ハヤトさん。特にないですけど、3連続のクエストだったんでゆっくりしようかなって」


 エレベーターに乗る九条さんを見送ってたら、後ろから肩を叩かれたので、振り向いてみたらハヤトさんとアリシアさんが来てくれた。


『リリアンさま、お食事へ行きませんか? 美味しい甘いものを食べれるところを知ってますよ』


『うん! いくいく。

 リリアン、アリシアと美味しい甘いものを食べにいく』


 腰の水筒入れから飛び出したリリアンが親しそうにアリシアさんに飛び付いた。


 ――リリアン、餌付けされたな。



 この二人、昨夜のうちにすっかり仲良くなって、クエスト中もリリアンがアリシアさんのところに行ったりするものだから、武器が無くなるかもしれないとすっごく心配した。


 気にしてない素振りを演じつつ、アリシアさんにそれとなく聞いてみた。


 アリシアさんがいうには、この世界に転移してきて、リリアンが困ってたところを俺に救ってもらったし、大事なパートナーなので離れるつもりはない。そういう嬉しいことを妖精はアリシアさんに伝えたみたい。



 だけど本当はすっごく疑問に思った。


 ――なんでリリアンが俺と離れるつもりはないことをアリシアさんに話したのか。


 さてはアリシアさんのところに来ないかと、リリアンが誘われてたではないだろうかと。


 今でも心の中に疑念がいっぱいのだけど、リリアンが離れないとアリシアさんに明言したから、俺も今のところはこの疑惑をアリシアさんに確かめるつもりがない。


 だけどいつかは聞いちゃるつもり。



 そういうのは本当に困るからやめてほしい。


 なにが困ると言ったら、やっと手にした相性が最高の武器であるフェアリーガン(リリアン)が無くなるのは困る。


 魔物や動物に植物を察知して採収もしてくれるリリアン(センサー)が居なくなると困る。


 さらに言えば、もしもリリアンがアリシアさんのところへ行くと言われたら、たぶん満面の流涙でリリアンを送り出すだろうという自分がいるから困る。


 本当に困るんだよ。


 世界にひとつしかない生きた魔法人形(マジックドール)なんだ。希少価値(リリアン)が居なくなっちゃうと、愛好者(おれ)がしばらくは立ち直れないほど困っちゃうね。



「異世界語はよくわからんわ、話せる太郎が羨ましいぜ……

 あねさん、日が暮れるまでに先に飯を食いに行こうや」


「そうね。キョートなら任せて、昨日からロクなもんを食べてないから美味しい所へ案内するわ。

 そうね、精進料理なんてどう? 肉がないからリリアンさまも喜ぶわ」


「あねさん、ショージンリョーリって……頼むからクエストの後は肉を食わせてくれよ」


「あ、俺も肉に一票を投じます」


 リリアンと話し込んでるアリシアさんに晩ご飯のことで声をかけたハヤトさん。


 アリシアさんから料理の提案に、悪いけど俺もハヤトさんと同意見だ。肉体労働の後は身体が動物性たんぱく質を求めている。



「リリアンさまの好物が大事だけど……まあ、いいわ。とにかくここを出ましょう」


 アリシアさんの主張ににわか首肯しかねる俺は、ギルドから出ることに対しては賛成する。とにかくこっちにきてからクエストの連続で疲労が溜まってるので、今夜くらいはゆっくりしたいものだ。




 結局は工夫がいっぱいの精進料理を食べに連行された。その後のデザートタイムにおしゃれなお店れで、アリシアさんとリリアンは果物盛り沢山のフルーツタルドと紅茶を楽しんだ。


 俺とハヤトさんはメニューにあるこんがりと焼き上がったタンドリーチキンを着目した。大盛りのご飯をお代わりして満腹になるまで、声も出さずにジューシーなお肉をむさぼった。



 ユタカさんは装備のメンテナンス、冬子さんは友人と温泉の旅へお出かけしてるようだ。連絡したハヤトさんは二人が近日中に俺らと合流するつもりだと通話の後に伝えてくれた。。


 買い物を楽しみたいアリシアさんは、リリアンを連れて祇園のほうへ軽やかな足取りで夜の街に消え去った。ホテルへ戻った俺とハヤトさんはチェックインしてから早々と部屋にこもる。



 なんだかんだで忙しかったので近頃は一人でゆったりと過ごすことが少なかった。今夜は部屋に備え付けてあるテレビでも眺めて、ボーっと時間を浪費するつもりだ。



「あ、ハナねえが出てる」


 放送されてるドラマに姉の顔が映ったので、スマホでドラマの情報を検索してみると、旧時代が背景の恋物語だそうだ。


 なになに、田舎から出てきた青年が都会で色んな女性と出会いつつ、子供の時に離れ離れとなった最愛の人と添い遂げる物語。原作はすごい閲覧数を誇るネット小説。


 ……ふーん、暇つぶしくらいにはなるかも。



 ――こんな格好いいやつが街の中でウロウロしてたまるかっつーの。

 あ、いたか。特別授業でボランティアだってのに先生を引っかけってくるド畜リア充クソ野郎が。


『僕は君のことが忘れられないんだ! ずっと君のことだけを思っていたのさ』


 嘘こけ。色んな女性と大人の仲になってただとうが。ドラマだってのにツッコまずにはいらないぜ。


 ……


 おっ? こいつ、ヒロイン役のハナねえを抱きしめた。もしこれを洋介が見たらどう思うでしょう。それにしても我が姉ながらハナねえはいつ見ても世界に自慢したい美女だ。


『ダメ。もうあの頃のわたしたちじゃないわ』

『好きだ! もう二度と放さない』



 ――キ・ス・し・た・ぞ。

 よしっ、スマホ、ゴー!


『今日、クエスト?』

 幸永にメッセージを送る。

 ……


『いいえ、今日は私がギルドの会議に出席。ヨーくんは武器のメンテだけど、どうしたの?』


 おっしゃー、もうてめえに用はないわ。



『洋介くんへ。見たか、ハナねえがイケメンにキスされたよ』

 洋介にお問合せのメッセージを送る。

 ……


 ――返信キターーー。

『キスsてるとこ、見手ない、ぼk、くエs途中』


 ぎゃははははー! 見てるじゃねえか、しかも動揺しまくってるなこいつ。変換がおかしいし、クエスト中だって……行ってねえじゃんか。


 あーははははっ! めっちゃ楽しい。



『返事ないけど、どうしたのかな?』

 お、幸永だ。先の通信をスクリーンショットで送信っと。

 ……


 うん、さっそく爆笑してるスタンプが返信された。



 お次はと。ハナねえにスクリーンショットを送信。

 ……


『悪い子ね。いい年なんだからあまりイタズラしちゃダメよ』

 でも爆笑してるスタンプが同時に送られてきた。


 ――おもしれえー。


 こうなりゃ洋介以外の家族全員に送信だ。たまにはこういう面白いファミリーイベントがなくちゃな。あー、腹いってえー。


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