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勇者家族のへっぽこ長男  作者: 蛸山烏賊ノ介
第3章 依頼を達成することが目標のへっぽこ長男
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3.02 へっぽこ長男は熟練のポーターと同行

 ヤマシロノホシの魔動車で九条さんも同乗して洛西支部へ向かう。以前に提示された一月のクエストとは別に亀岡臨時支部からの緊急要請で、武器装備や食糧などを至急に運送してほしいと連絡が入ったそうだ。


 運搬する物資は洛西支部の倉庫が用意して、すでにギルドの大容量収納リュックに収納したそうだ。


 洛西支部でクエストの引受手続きを済ませば、同じクエストを引き受けた冒険者と一緒に出発してほしいと、早朝に大津ギルドへ行った時に九条さんからクエストの案内があった。


 特にしたいことがあるわけではなので、ヤマシロノホシと一緒にクエストを引き受けることにした。



「今回のクエストですが、太郎ちゃんの収納箱もリリアンちゃんの収納魔法も使わないように、洛西支部が用意した収納リュックで運んでください。太郎ちゃんは今後のために同行する運搬士の仕事ぶりを観察するように命じます」


「はあ……」


「一般的なポーターは太郎ちゃんのようにスキルで運んだりしませんから、優秀なポーターの行動を見て勉強してくださいね。それとリリアンちゃんに万が一緊急連絡があれば瞬時転移を使って、わたくしの執務室へ戻って来るように伝えてください」


「わかりました」


 九条さんは俺を鍛えようとしてるのだろうか。もしそうであればここはちゃんと言うことを聞いておいたほうがいい。


「はやとくんとアリシアちゃんはクエスト中、事情が許すかぎり太郎ちゃんの護衛を務めてくださいな」


「はいよ、ヒナ姉さん」


 ハヤトさんは九条さんのことをヒナ姉さんって呼んでる。それを聞いた俺はハナねえのことを思い出したので、仕事の合間にあいさつのメッセージを送ろうと考えた。



 車の中で後部座席に座ってる俺へ、九条さんは昨日に完遂した巡邏クエストの明細書を手渡してくれた。


 サバギン族と交渉を成功させた件で機密保持のため、彼女が昨夜遅くまで自分で作成したと朝一番に告げてきた。食事後の雑談とかでギルド前で別れたのが夜の11時頃、その後に彼女は仕事してたということだ。明細書を受け取ったときに感謝の気持ちを込めたお礼を彼女に伝えた。



 メインミッションAである北小松地区と鵜川地区の調査は魔石交換込みで7500円。サブミッションBは討伐数がゴブリン16で16000円、ツキノワグマが1で30000円、ニホンザルが5で2500円。サブミッションCは勝野地区の現況調査で10000円。サブミッションDは琵琶湖の現地種族調査で記されて、こちらは50000円と高額の追加報酬となった。


 合計で116000円だ。わお、すげえ!



 そのことを九条さんに気楽な気持ちで言うと、前の席で運転するハヤトさんと助手席に座ってるアリシアさんに聞こえないように、小声だが強めな口調で説教された。


 本来ならあれはパーティ用のクエストで、一般的にソロで動く場合は、武装のゴブリンと出会った時点で撤退の判断を下すべきだそうだ。


 それについては九条さんから謝られた。ギルドで報告を受信した時にまさか殲滅するとは思わなかったので、九条さんもかなり迷われたそうだ。


 だがツキノワグマは頂けなかったらしい。


 あれは通常最低Cランクのパーティ、ソロならBランク以上の冒険者が対象となる討伐目標だそうだ。あ、それで朝に大津ギルドの倉庫でツキノワグマの死骸を出したときに九条さんが睨んできたのか。



 九条さんがクエストの成果を検討した結果、山田太郎という冒険者は探索に対する経験が明らかに不足であると結論付けた。そのために他の冒険者と行動するが必要と諭され、こちらにいる間は主にヤマシロノホシとクエストを受けるように命じられた。


 サブミッションDが高額の理由は琵琶湖を重視するギルド側にとって、サバギン族と接触を成功させたこと、異種族と交易する可能性ができたこと、以上の二点が九条さんの高評価に繋がったらしい。



 ラビリンスグループとサバキン族の交易について、ムスビおばちゃんと九条さんが協議した結果、書類上では大津ギルドへ商品が納入されることになるが、実際はラビリンスグループが直接ビワコ村へ受け取りに行くこととなった。書類の作業によって、ラビリンスグループとモンスター族はギルドを介しての交易にするだそうだ。


 うーん、大人の事情って、よくわからんや。



 ちなみにリリアンと採収した薬草や果実はギルドへ出さなかった。


 これはお食事会の時にアリシアさんからの提案で、今後はリリアン持つ知識で薬品の調合に用いるつもりだ。九条さんはなにも言わなかったので暗黙のうちに決定した。


 アリシアさんは里にいる仲間に連絡を入れて、全員がリリアンに会いにこっちへ来るとエルフたちがスマホの向こうで大興奮してた。


 京都にいる間は冒険者の仕事があるので、一ヶ月後に実家へ来てもらうようにアリシアさんが仲間のエルフたちに伝えてくれた。




 洛西支部の最新型装甲魔動車で送ってもらい、山間部に入る前に全員が下車し、旧国道9号線をたどる形で前進する予定。護衛チームはヤマシロノホシを含め、合計で4パーティが参加している。全員がハヤトさんとアリシアさんの知り合いのようで、クエストの打合せと雑談で話が弾んでる。



「へえ、珍しいね。妖精っているんだな」


「はい。私のパートナーです」


 俺に話しかけてくるのは運搬士(ポーター)の桑原さん、45才だからおじさんって呼んでくれと笑ってるけど、そんな失礼なことはできない。


 少し離れた場所にいるのは30代の増野さん夫婦で、品定めするような視線で俺を見ている。桑原さんの話によるとポーターのパーティは少ないのだが、山城地域ではポーターのクエストが多いので、だいぶ前から増野さん夫婦とパーティを組んでると理由を話してくれた。


 言葉が分からないリリアンは目をキョロキョロさせて、しきり辺りの様子を窺っている。



「今日は亀岡臨時支部へ重要な物資を運ぶわけだから、しっかり頼むよ。ベルトは締めてるかどうか、ちゃんとチェックするんだぞ」

「はい、わかりました」


 ギルドから貸し出された大容量収納リュックは、身体の前後にそれぞれ一つずつリュックがあって、首を通してから腰にあるベルトで動かないように締める。自衛用にナイフは腰に差してあるし、ミスリルの盾は左手に装着してる。



「ふーん、勇者一族は伊達じゃないね。へっぽこでもミスリルのものを持ってるよ」


 声は大きくなかったけど、増野さんの奥さんはこっちにも聞こえるように旦那に喋ってる。桑原さんはちょっと困った顔で苦笑いして、気にするなと慰めてくれた。


 もはや様式美ですから気にしてませんよ。


 でもやっぱり山城地域(こっち)のほうにも俺のことが知られてたんだな。ちくせう。




 前後左右の四方向に警備チームは、真ん中にいる俺と桑原さんのパーティを守るように山の谷間を慎重な足取りで進んでいく。



「気を付けろよ、囲まれてるぞ」


 声をかけてくれたのは先陣を切るクラマノコマイヌで狩猟士(ハンター)の柳井さん。


 警告を聞いた増野さん夫婦は顔に緊張が走り、周りを見回すように首を忙しく動かした。桑原さんは二人を呼び寄せ、盾を前面に持った三人が三方向を守るように盾の陣を組みつつ、桑原さんを先頭に旧亀岡市方向へ慎重な足取りで進み続ける。



 器用だなと眺めながら自分が呼ばれてない原因を考える。


 あれは訓練を重ねた動きで俺がいきなり入っても盾の陣を乱すだけ。それにポーターは自分の身を守ることが前提。パーティを組んでない俺が桑原さんたちになにか思うのは、そもそも筋の通らない話だ。


 勉強になれたのは桑原さんたちの動きと緊張感。桑原さんは前衛が歩いた後を確かめるようにして前進していた。あれなら罠にかかることも、足を地面の穴や突起物に取られることもないでしょう。



『大丈夫よ、あれはブラウニー。弓を持ってるけど様子見だけね。あいつらは気が小さいから』


 気だるそうに大きなあくびをしたリリアンが、腰の水筒入れに収まったまま、つまらなさそうに独り言のように呟いた。


「——ブラウニーだわ、このまま進む」


 警戒態勢を維持したまま、俺らポーターへ寄ってくる警備チームに、アリシアさんは自分が察知した情報を告げた。


 異世界と違い、こっちでは気配察知や気配遮断など気配系のスキルは発現した例がない。そのためにギルドでは気配系のスキルを所持するエルフを冒険者として歓迎している。


 リリアンはスキルで備わってないけど、前回のクエストの時に素晴らしい眼力を持っていることが帰路の時に確認できた。



「アリシア。交代するから前衛はお前と隼人が務めろ」


「わかった」


 クラマノコマイヌのリーダーさんによる提案で、守備隊形を入れ替えた輸送隊が左右の山間部に目を配りながら、ここから抜けられるように速度を速めた。




 旧亀岡市に入ったのは午後。


 結局モンスターからの襲撃はなかったものの、こちらを試すようにたまに森のほうから矢が射られた。


 右サイドを守っていたフシミノフォックスのアタッカーが反撃しようとした時、アリシアさんに止められた。どうやらオークなどの人型モンスターがよく使う手だそうで、隊形の一角を崩した集団へ突撃をかける前の常套手段だと、アリシアさんがみんなに異世界の知識を披露した。



 どうでもいいことかも知らないけど、クラマノコマイヌとか、フシミノフォックスとか、あれは絶対に九条さんの仕業だ。もはや笑いといえない命名センスにみんなのことが可哀そうに思えてきたのに、なんでみんなは平気そうな顔をしてるのだろう。


 緊張感のないやつと怒られるかもしれないけど、山城地域の冒険者文化がわからないと旧亀岡市に入る前、俺はそんなことを考えていた。



 旧亀岡市内はひどい有様だ。


 所々に焼け焦げた跡があって、最近まで燃えていたようで、いまだに煙を出す焼け跡が見える。


 ここまでして守らなくちゃいけない場所かと思ったりして、俺にはその理由がよくわからない。領土の維持については国が決める政策だから、一冒険者の俺がどうこう言うことではないことは弁えているつもり。でもなんだろう? 胸にわだかまるこのやりきれない気持ちというのは。



『人族ってバカね。こんな山に囲まれた危ない所なんて、あいつらにくれてやればいいのに』


 焼け跡を眺めているアリシアさんの一言が耳に響く。




 亀岡臨時支部についた輸送隊は、俺と桑原さんたちを残して、護衛チームは全員が受付へ到着手続きのためにいなくなった。


「山田君はいい動きをするね、うん。移動の間も我々の技を盗み見してたでしょう」


「あ、はい。勝手に覗いてすみませんでした」


「いやいや、別に責めてるわけじゃないよ」


 桑原さんは否定するように一生懸命両手と首を振っている。おじさんだし、移動中は冷静な判断を見せてたので落ち着いてる人と思ったけど、そうでもないかな。



「そうよ、仕事なんて目で盗むものよ。その歳でそれが出来たら大したもんだわ。噂とちがうわね、あんた」


 鷹揚な態度で増野さんの奥さんが褒めてくれた。あれ? 俺って、嫌われてなかったのか。


「うんうん。九条さんが言った通り、中々見込みのある子だよ。ポーターは軽視されがちだから、君、しっかりと頑張りなさい」


「あ、はい。ありがとうございます」


 今度は増野さんが人の良い笑顔で励ましてくれた。なんか嬉しいなあ。


 やっぱりというべきか、九条さんは裏で手を回してた。洛西ギルドに戻ったら、ありがとうってちゃんと言葉で感謝しなくちゃいけない。



「医薬品が届いたんですか!」


 数人の看護師が駆け足でこちらに走ってきた。


「はいよ。あたしが持ってるからついて行ってもいいけど、到着のてつづ――」

「——あかりさん! こっちは任してくれていいから、とにかく看護師について行ってくれ」


 増野さんの奥さんが看護師たちに話しかけて事情を説明しようとした時に、受付カウンターから男の職員が大声で指示を出した。それを聞いた増野さんの奥さんはすぐに駆け足で看護師たちと別棟へ移動する。



「武器弾薬と食糧はだれが持ってるのか」


「僕は食糧の運搬担当です」


「桑原だが、武器装備や弾薬は私が持ってる。それでこの子が山田君だけど、セメントとかの――」

「——建材は後でいい、武器弾薬と食糧を自衛軍と冒険者たちが待ちわびてるからすぐに来てくれ」


 慌ただしい状況となって、おれは現状についていけないまま突っ立ているだけて、男の職員に連れられて桑原さんと増野さんがこの場から離れていった。


 いやまあ、わかってたことだけど。そりゃ新人に重要な物資を任せられるわけにはいかないよね。別に気落ちはしないよ? ただちょっと寂しいだけなの。



『タロットぉ、おやつはまだぁ?』


 腰にある水筒入れに入ってるリリアンがおやつをせがんできた。


 ちょっと待ってね、先に建材をだれに渡せばいいのか、受付カウンターに聞いてから一緒に食べようか。


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