番外編1 美男賢者は歴史授業の特別先生
今に至るまでの歴史をまとめてみました。
良ければご一読ください。
先生:
はーい、みなさーん。今日はカッコよくて素敵な美男子冒険者様が特別授業の先生で来てくれましたよー。まさか今をときめくヴェルディア様が来てくれるとは思いませんでした。
業務連絡と全然違いますけど、ヴェルディア様のほうがえっとだれだっけ、やまだなんだっけ……やま……あ、山田だ……山田さんが都合により来られなくて急遽ヴェルディア様が来てくれることになりました、やったね。
ヴェルディア様は勇者パーティの賢者様ですし、最高ランクの冒険者ですし……あら、ごめんなさいね。
さあ、みなさん。今日の現代史の授業はヴェルディア様……先生がみなさんに教えてくれますのでちゃんと聞いてくださいね。
特別先生:
こんにちは。探索協会から派遣されたヴェルディア幸永です。授業中はヴェルディア先生と呼んでくれたらいいですよ。
さて、みなさん。今日の授業は旧時代の世界規模の災厄から現代までを中心に説明していきたいと思います。いくつかの出来事がテストで出るだそうでちゃんと聞いてくださいよ。
——そうですよね? 片倉先生。え? テストに出るところはスマートフォンで連絡するから連絡先を教えてほしいって? じゃあ、授業後に教えときますね……
みなさん、まずは正面のインタラクティブホワイトボードを見てください。
西暦2035年、この年に原因不明な世界規模の大地震が発生しました。のちの研究で判明したことは地中深く潜んでいた魔力が地震により地上へ噴出した現象です。大地震による死傷者はほとんどいなかったのですが、噴出した魔力により、主に幼児や高齢者が耐え切れずに世界各地で多くの死傷者が出ました。
そして、西暦2035年以後に産まれた子供に異変が起きたようになったのです。火の玉を飛ばしたり、念力で物を動かしたりと、今ではその現象が魔力による魔法だと解明しましたが、当時はそれを知る人がほとんどいません。
そのために死霊による仕業とか、子供に呪いがかかったとか、オカルトで解釈する人が多数現れました。悪魔殺しや魔女狩りと称した宗教活動が多発し、罪のないまま、子供を含めた多くの人々が殺されました。
西暦2045年。世界の人口が約30億まで減少し、2035年以降の異変が魔力によるものだと認識されるようになったこの年に、前触れもなく世界規模の迷宮氾濫が発生しました。迷宮から溢れ出した魔物は人類に襲いかかり、建物を破壊していき、当時の科学では対抗できず、甚大な被害を被った人類は急速に減少していきます。
山間部では魔力で進化したアニマルやプラントが逃げ込んだ人々に襲いかかりました。そのため、生き残った人類は自分たちの身を守るため、平原地帯で小さなコミュニティを作るようになり、国家というまとまった集団が世界各地で瓦解していきます。
また、ワールドスタンピード以前は社会に大きな影響を及ぼした宗教は、なんらかの役割も果たせないまま、この時期を境に急速に衰退していきます。
——はい、手を挙げた生徒はなにか質問がありますか? 政府はなにをしてたのですかって?
そうですね。当時の政府はラビリンスから出たモンスターを撃退しようと、旧時代の自衛軍に出撃を命じました。
今でこそ物理的な攻撃は、魔法で作る防壁で防ぐことができると知られているのですが、そのことを知らない当時の政府と自衛軍は反撃作戦に出ました。結局、当時の武器ではモンスターに対抗することができなかったため、そのほとんどが全滅してしまいました。
防衛力を失い、各地で敗北し続けた政府は南海道地方の旧高松市まで敗退して、そこでわが国の最後の砦を築いて、反撃の時を待ちます。
各国の連携については、金属を好む鋼鉄古龍がスペースデブリーズを初め、人類が宇宙に打ち上げたすべての人工衛星を食い尽くしたので、世界の国々と連絡が絶たれてしまいした。分断された人類は絶滅を待つのみと覚悟したそうです。
以上でよろしいですか? はい、ここからが大事ですよ。人類に対する世紀の大災害に転換期が訪れます。
2056年の初めに現在の池田村がモンスターの群れに襲われました。
当時ではこの出来事はありふれた日常の一景ですが、500人を超える死者を出した姫室集落で、生き残った二人が襲撃したモンスターを討伐しました。
この二人が後の勇者である藤谷明日香と聖騎士の山田勇起です。彼女と彼は日ノ本史上、初めて迷宮と交渉して合意に達し、共存協定を結ぶことに成功します。
その後は尼崎村でパーティメンバーと集結して、いわゆる勇者一行ですね。その後、勇者一行は尼崎城ラビリンスにおいて、史上初のラビリンスマスター討伐を成し遂げたのです。
尼崎城ラビリンスを消滅させた勇者一行は西方面を進路に定め、時間を要する討伐を避け、各地のラビリンスと協定を結びつつ、現在の安芸地域にある通称海軍魔宮と歴史的な共存協定を結ぶことに成功しす。これにより勇者一行は海上の移動が可能となりました。
2057年、臨時政府と合流した勇者一行は高松城ラビリンスを活用して最初の探索協会を立ち上げ、ここで自衛軍と冒険者の育成に着手しました。
その一方に陛下の勅令及び臨時政府の要望により、海軍魔宮の協力を得て、旧東京都の奪還へ向け、自衛軍と当時の冒険者が集い、勇者一行を主力として、帝都復旧作戦を発動させました。
これが我が国において迷宮と魔物に領土を奪われてから最初の反撃作戦であり、今でも最も成功した軍事作戦と言われています。
みなさん、ここ、テストに出ますよ。ちゃんと覚えてくださいね。
武蔵地域を取り戻して、臨時政府を旧東京都へ帰還させた勇者一行は今の山城地域、旧京都市の復旧を目指して西へ進撃していきます。
2058年の半ば、旧大阪市と大阪府を復旧させた勇者一行はついに旧京都市への反攻を始めたのです。最終的に作戦は成功しましたが、しかしこの戦いで今までにない、多くの自衛軍と冒険者が犠牲になったのです。
旧京都市が復旧したあと、勇者一行は政府と話し合いを重ね、方向転換を図ります。2059年、実力を向上させるために各地を転戦した勇者一行は年末に海軍魔宮を訪れ、迷宮が発生する要因であった転移点の南極迷宮へ乗り込むことにしました。
勇者一行がラビリンスマスターと会談し、検討した結果、地球にある全ての迷宮はここを起点に転移してきたと究明したのです。
2059年の年末に南極迷宮へ突入した勇者一行は2060年南極迷宮の討伐に成功します。それによって異世界より迷宮が転移することはほとんど無くなったが、転移の原因は異世界の魔王による侵略のためと判明したのです。
そのため、勇者一行は南極迷宮の討伐に成功したが、そのまま最深層から異世界へ渡り、魔王の討伐に乗り出しました。
ここもテストに出るそうでしっかりと勉強してくださいね。
——はい、そこの生徒はなにか聞きたいことがあるのですね? 今でもそこから異世界へいけるですかって?
できますよ、とだけ伝えておきましょう。南極ラビリンスのラビリンスマスターは勇者一行によって討伐されましたが、原因は未だに解明されていないけど、南極ラビリンスそのものは消滅してません。
今でも最深層へ行けば、異世界へ行くことができると思われますが、危険度が不明な迷宮探索は非常に困難であるといわれています。現時点では当時の勇者一行による最深層の到達以外、未だに誰も辿り着くことはできません。挑戦者はいたみたいですけどね。
現段階で難易度が最も高いクエストは南極ラビリンスから異世界へ渡るということになります。
いずれは勇者一行以外の人が達成するのでしょうが、みなさんが挑戦する立場にあるときは、自分の実力をちゃんと把握してから実行してください。命は一つしかないですからね。
え? 私ですか? いいえ、まだまだ実力不足なので、まずは自分に見合ったクエストを完遂できるようにしてます。はい、なんでしょう? 実力があったらどうするかって? そうですね、その時にみなさんの応援があればら行くかもですね。
少し脱線しましたが授業にもどりますよ。
異世界へ渡った勇者一行の足跡はあまり知られてないのです。確かなことは2065年の年末から迷宮の転移現象はそれ以降に断絶したということで、今のところ復旧された国土に新しいラビリンスは発見されていません。
ただ、現在も多くの領土にラビリンスは存在してますし、例えば旧福井県のように分断された領土へ行くことはできません。
さて、みなさんは今年から中学校一年生です。授業でたくさん学んで、いっぱい遊んで、将来はなにをしたいのか、時間をかけて担任や両親と相談しながらゆっくり考えてください。
中学校三年生になったら、能力判定を受けることになりますので、その時に冒険者の適性があるかどうかが判明します。
それまでは焦らずに学校の授業をちゃんと受けて、潜在能力を伸ばしてください。スキルはいきなり発現することがありますけれど、それは日々の努力が根底となりますので、くじけずに頑張ってくださいね。
そろそろ時間となりました。授業の内容はみなさんに配ったプリントにまとめてありますので、わからないところは目を通してください。
はい、以上です。もう少し時間がありそうなので、なにか質問があれば答えますよ。
先生:
はいはーい!
特別先生
えっと……はい、片倉先生。
先生:
ヴェルディア様……先生、あのぅ、彼女はいるのですかあ?
特別先生:
はははは、困りましたね。まあ、いいでしょう——いいえ、特定の彼女はいませんよ。片倉先生。
先生:
彼女いないんですか……っし!
生徒A:
ヴェルディア先生! 妹さんの勇者マイさんは彼氏いるんですか!
特別先生:
はははは、授業と関係ないなんだけどねえ……そうですね、先代勇者の山田明日香さんなら夫がいますよ。
先生先生、賢者になるのはどうしたら――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『――なるほどね、それで俺の代わりにお前が先生を務めたわけか』
「感謝してほしいね。どうせ、特別授業のボランティアを忘れたんだろう?」
『……うん、ごめん。きれいさっぱり忘れた』
「どうせそうでしょうと思ったよ。子供の質問は大変だったし、片倉先生から夜に連絡が途切れなくてね。今度休みの時に出かけることになって大変だよ」
『このおにちくめがあ……自慢が? 自慢したかったんだな!』
「別にい。そうそう、妖精の画像は見たよ、可愛らしい子だね」
『リリアンに手を出すなよ? 俺が許さんわ!』
「あのねえ……まあ、いいや。帰ってきたら遊びに行こうよ」
『ちくせうめ、なぜにお前が出かけたら女が勝手に引っかかるんだよ。俺なんて、魔女と妖精だけ――』
「じゃあね」
ああなったら止まりそうにないから通話を切った。嫌だねえ。男の嫉妬は醜いよ、ターちゃん。
おかげで今日は冒険者の実務を休めた。
久しぶりに早く帰れたのであきほとご飯できたし、あとでカレンが来るからゆっくりとベットで夜明けまで語り合うか。ずっと待ってくれてるから義理は果たさなくちゃね。




