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勇者家族のへっぽこ長男  作者: 蛸山烏賊ノ介
第2章 探索に行くことが目標のへっぽこ長男
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2-06. へっぽこ長男は妖精のパートナー

『ねえタロット、お腹空いたし、ひまだから起きてよ。ねえ、起きて』


 気持ちよく寝てたら耳元でしつこい蚊がごとく、ずっと囁いてくるリリアン起こされた。


 6時って……


 旅館の外で蝉の鳴き声が聞こえてきて、あいつらは無駄な進化で音響兵器に化しているため、二度寝はできそうにない。夏本番になったらもっとやかましくなるのだから、ギルドのほうで絶滅させるクエストを出してくれないかな。



 朝が弱いからいつもは出社ギリギリまで寝るんだけど、ひょっとするとこれから毎日、目覚まし妖精が稼働するかもしれないと思うとちょっとうつになりそう。


 寝ぼけた目でスマホに目を通すと、かーちゃんとムスビおばちゃんからの連絡が届いてる。



『今日から30日間、ヒナちゃんのところで世話になりなさい。店はお父さんと頑張るから大丈夫。母より』


『頑張って。不在の間は無給休暇で扱うから心配いらない。帰る時はヒナから京野菜を預かってちゃんと持って帰ってくること。結』


 ヒナちゃんって……九条さんにガッツリと外堀を埋められた。


 一夜にして逃げ道が断たれてしまった。


 九条さんはギルドの副会長だけであって、ぬかりなく手を打ってくる。ムスビおばちゃんは相変わらずちゃっかりした性格だ。無給休暇はしょうがないとしても、京野菜の運送は絶対にタダ働きと思ってるはず。



 それよりも幸永の情報通り、かーちゃんとムスビおばちゃんは九条さんの知り合いみたい。早起きさせられたから、気分的にこのまま目を閉じて、気が済むまで布団の中で寝ていたい。

 蝉、うるさいけど。


『ねえタロット、起きて。ねえねえ、起きて』


 直接に揺さぶってくる分、リリアン(こいつ)のほうがウザい。




 ギルドはその性質から、一年365日、24時間の完全無休で営業している。付属するショップは特注品はないものの、武器装備や医薬品など冒険者向けの商品を置いてある。特筆すべきなのは一般向けに日用品や食糧も販売されてるということ。


 通称ギルドストアこと、旧時代のどこにでもあったコンビニエンスストアをコンセプトとした探索協会付属雑貨商店は、どのギルドでも設置されてる。


 最初の南海道地方探索協会高松臨時本部が建設された時、1号店が同時に併設されたものと洋介から聞いたことがある。



 なんでも魔物や動物がいつ出るかがわからない世の中で、冒険者が出入りするギルドなら警備の手間と経費が省けるだそうだ。便利なものは時代が変わっても生き残るものだなと俺は密かに感心した。


 うちから一番近いギルドストアは川西支部にあるだけど、家に居れば大抵のものが置いてあるので、あまり利用した記憶がない。



 ギルド大津支部の駐車場に駐車してから車を降りる前に、普段お出かけするときに使っている一般的なリュックの中へリリアンに隠れてもらった。


 昨日のように抱えての行動なら、間違いなく魔法人形(マジックドール)を持ち歩くイタい人と認定されてしまう。愛好家と自認しているとはいえ、日常から肌身離さず人形と過ごすとまではいかないし、そこまで執着してたらマイに持ってる全部の魔法人形を廃棄させられそうだ。



「おはようございます」


「おはようございます。太郎ちゃん、案内するので応接室までお越しください」


 丁重な口ぶりとはよそに九条さんは俺へ向かって、心持ち程度グイっと首を斜めに捻る。なんも悪いことしてないのに連行される気分だ。



 薄めのレースで眩しくないくらいの朝陽がさし込み、豪華とまではいかないものの、心が穏やかに落ち着けそうな応接室に連れて来られた。


「昨日の妖精さんを()()()()連れてきてますわね」


「はい」


 九条さんに促された俺はリュックを開けて、リリアンに出てくるように声をかける。



『リリアン。車の中で言ったようになにも喋らないで俺に任せてくれよ』


『はーい。リリアンは無口になっちゃうよ』


 元気よく右手を上げたリリアンは九条さんを見かけると、俺の後ろへ回り込んでから頭だけ覗かせて体を隠した。



「あら、嫌われてしまいましたね……ところで太郎ちゃん、スキル欄には記載されてませんが、異世界語を話せたのですね」


「……探索には必要のないスキルと判断したので、カードを作成してもらったときに書きませんでした」


「——」

「……」


 睨む九条さんに視線を外す俺、なんの攻防戦だこれ。


「……太郎ちゃんを責めてるわけではありません。ヴェルディアくんたちも申告してませんので問題はなのですが、担当のわたくしに一言があってもよかったじゃないのでしょうか」


「すいません」


 反論するのも面倒くさそうなので謝っておいた。だけど担当って言われても昨日が初対面だし、そもそもスキルの記入だって推奨であって必須事項ではないはずだ。

 うん、俺は悪くない。



「以後、気を付けてくださいね……当ギルドにも異世界語を理解できる職員はいるのですが、今回の場合は今まで発見されてない妖精が出現したため、不要な混乱を避けるよう、同席しないほうが都合はいいとわたくしが判断しました」


「気遣ってもらって、ありがとうございます」


「いいえ。そういう事情ですから太郎ちゃんも隠し事のないように、()()()()()()してくださいね」


「はい」


 何らかの事情で迷宮と一緒に、この世界へ転移してきた異世界の人族やエルフなど、言語を操れる種族がこっちの言葉を勉強し、話せるようになった異世界人たちはたくさんいる。


 ギルドのほうではこういった個別の事情に対応できるよう、異世界語が話せる職員を育成し、言語のカリキュラムを在籍する職員のために組んでいる。各支部には異世界の言語を理解できる専門職を最低一人は置いてるだそうだ。




 九条さんにリリアンとは昨日に出会ったこと、会話ができないためにまだ人間を怖がっている節があること、彼女の能力はまだよく知らないこと、出会ってから今まで全てのことを打ち明けた。


 話の途中、九条さんがリリアンの能力を聞いてきたので、臨時の通訳を担当したなのだが、俺もリリアンの有能さに驚かされてしまった。



 使える魔法は下級魔法に該当する水魔法、雷魔法に風魔法と、こっちの世界にいる一般的な冒険者の魔術士なら珍しくないものだが、異世界では魔族しか使っていない無魔法という極めて特殊な魔法を彼女は持っていた。それにほかのスキルも見たことがないものばかりだった。



――隠形――

【文字通り、彼女は自分の姿を背景に溶け込むことができる】


――囁き――

【これは念話みたいなもので、対話したい任意の相手と声を出さずに話すことができる】


――誘導――

【他者に対する悪意や彼女から離れた場合は効果がないものの、ある程度の範囲ならリリアンの希望に沿って行動してしまう。強い意志を持つ者やすでに支配されている者に対しては効果がない】


――息吹――

【自分の生命力を使って相手の心身を活性化させることができる。使っただけの分の生命力を魔力で補うことができる】


――瞬時転移――

【行ったことある場所へ瞬時に移動することができる。物を持つこともできるがリリアンより重いものは持てない】


――永遠に生きるもの――

【魔力で維持されるために命の限度がない。最小限の魔力となった状態では透明になる】



 リリアンは実に多才な妖精である。


 さらに俺と九条さんを無言にさせたのがリリアンには亜空間という、オヤジの収納箱(アイテムボックス無)と同等の収納スキルが使用できるということだ。




「——太郎ちゃん、よく聞いてちょうだい。ギルドでは帯同(パートナー)という制度があるのよ。これは人間以外の種族をギルドのほうで登録して、特定の冒険者の保護下に置いて、共に探索活動を行うことができるようにするための処置よ」


「はい、聞いたことはあります」


 国が発行する冒険者の職種にテイマーのライセンスがないため、人間の社会に順応した危険性のない魔物(モンスター)動物(アニマル)などを、冒険者が探索に同行させたい場合はこの制度を利用して、該当する対象を登録しなければならない。



 聞いたことのないスキルに興奮してか、九条さんは自分で気づいてないと思うけど、話し方がフレンドリーになってる。でもこっちのほうが自然的のように感じたから、彼女へ指摘するつもりはない。



「大切なのは、わたくしたちと異なる種族の身分をギルドが認め、保証できるというところにあるわ。それにより、登録されたパートナーにおいて、一定の生存権を所有することができるのね」


「そうみたいですね」


 たまに町の中で歩くコボルドやゴブリン、女冒険者が連れてるユニコーンなどを見たことがある。それらは全てパートナー制度によって、冒険者と一緒に人間社会の中で生活することが認められてる異世界の異族なんだ。



「リリアンを検証した結果、彼女こそ太郎ちゃんにぴったりなパートナーだわ。これはもう、さっさと登録するしかないわね。太郎ちゃん、早くライセンスカードを出しなさい。わたくしの権限でちゃっちゃと登録しちゃうわよ」


「はい」


 俺の意向を聞くこともなく、九条さんは手のひらを突き出して、俺にカードを出すように催促してくる。もっとも、彼女を逆らうつもりもないし、リリアンのためにもここはありがたくその好意に甘えることにした。




『ねえねえ、なにを話してたの?』


『リリアンをギルドのほうで俺とパートナーの登録するってさ』


『ふーん、ぱーとなーってのはよく知らないけど、リリアンはタロットにテイムされちゃうのね』


『いや。俺にテイムのスキルはないから、リリアンをテイムするじゃなく……そうだな、リリアンが俺と絆を結んだ相棒になるってとこかな?』


 規定の書類に必要事項を書き込んでから、九条さんは手続きをするために応接室から離れた。ギルドのパートナー制度を解説するのは大変そうなので、ちょっと言葉をチョイスしてリリアンがわかるように説明したつもり。これでわかってくれるといいな。



『え? タロットはリリアンと結婚するってこと? やたー、リリアンもついに人族みたいに結婚しちゃうんだあ。あ、でもね、リリアンは身体が小さいからタロットと濡れごとはできないの。子供を作れないけどそれでいい?』


『ちげえよ、だれが異世界婚姻をしろっつった。妖精とエッチってどんだけマニアックなんだよ、そんな悪趣味はないから安心しろ』


『なによぉ、もう離婚なの? リリアンはタロットに捨てられちゃうのね。悲しいわ、シクシク……』


『結婚もしてないのに離婚バンザーイ——って違うから、そうじゃないんだ。あのな、よく聞いてくれ。この世界で冒険者のパートナー制度というのはだな――』



 生きてて初めて、急がば回れという名言の重要さを知った。


 めそめそと泣いている妖精を宥めるため、俺は彼女へなるべく丁寧な言葉で、パートナー制度の詳細を語る決意したのさ。





下記が太郎のスキルです。


――収納箱(大)――

【アイテムボックスの一種。収納量は限られている】


――大範囲防御――

【使用する盾に魔法の防御を施す。使用者の魔法量に応じて防げる攻撃の種類が増える】


――身体強化――

【自分の体を魔法で強化する。使用者の魔法量に応じて強化される時間が変化する】


――弱点出現――

【瀕死であり、なおかつ動くことができない敵に対して、その弱点を視覚でとらえることができる】


――採取刀術――

【植物を上手に刈り取ることができ、生物などの死体を滑らかに解体するのは達人級】


――魔力譲渡――

【自分が持つ魔力を触れることで他者へ渡すことができる】


――回復魔法(中)――

【傷や疲労を回復させることができる。身体の欠損に対しては効果がない】


――基礎魔法(微)――

【火・水・土・風・光・闇など、一通りの魔法が使える。ただし、僅かな殺傷力しか発揮できない】


――修繕術(中)――

【希少品以外の金属製や皮革製武器と防具について、同様の素材と魔力を用いて修繕することができる】


――技能固定――

【現在の所有するスキルは昇格することがなく、新たなスキルを習得することはできない】



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