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勇者家族のへっぽこ長男  作者: 蛸山烏賊ノ介
第2章 探索に行くことが目標のへっぽこ長男
18/83

2-05. ギルドの副会長は長男の母親に連絡

「――太郎ちゃんは面白い子に育てたわね。久しぶりだからわたくしのことは覚えてないみたいだけど」


『・・・・・』


「ええ。でもね、甘やかしすぎじゃないかしら? こんな世の中よ? もう少し緊張感があったほうがいいと思うわよ、あすか姉様」


『・・・・・』


「そうは言うけれど、おんぶにだっこは本人のためにならないわよ。そうだわ! わたくしはまだ独り身ですし、見た目なら釣り合いは取れそうですからあ、太郎ちゃんをわたくしの婿にくださいな」


『くぁwせdrftgyふじこlp!』


「はいはい、怒らない叫ばない。冗談よ、あすか姉様。お年を召してカルシウム不足になったのかしら? わたくしだって姉様をお義母様なんて呼びたくないわよ」


『・・・・・』


「わたくしこそですって? それこそ冗談にしか聞こえないわ。太郎ちゃんはわたくしにメロメロよ、明日も朝一番にわたくしに会いに来るわよ」


『・・・・・』


「真面目な話をするね、あすか姉様。太郎ちゃんをしばらくわたくしに任せてほしいの。姉様たちが頑張り過ぎて、あの地獄から日ノ本をどうにか住めるような世の中に戻したのは感謝するけれど、いつまた迷宮が牙を向けてくるかは誰も知らないわ」


『……』


「舞ちゃんや花子ちゃんたち、現在の勇者パーティは頑張ってるけど、修羅場をくぐり抜けてきた姉様たちに比べたらまだまだよ。太郎ちゃんは勇者たちのように、際立ったすごい力はないけれど、持ってる魔力といい、ほかの人にないスキルといい、あの子が勇者パーティのワイルドカードよ。これは間違いないわ」


『・・・・・』


「ええ、あすか姉様があの子を大切にしたい気持ちはわかるわ。それと、太郎ちゃんには秘められた力があることを、姉様たちがわたくしに隠してることもね」


『……』


「別になにも言わなくてもいいのよ。わたくしだって、全てを知りたいわけじゃないわ。わたくしの手に余ることがあれば、知らないほうが幸せだわ」


『・・・・・』


「だからね、太郎ちゃんにある今の力で鍛えてあげたいの。なにもスキルだけで人は強くだけじゃないわ、スキルなんて補助器みたいなものよ。姉様たちとわたくしたちのように、戦いはねえ、知恵と経験だって決め手になれるわ」


『・・・・・』


「いいえ、迷惑なんて思ってないわ。それに政府と違って、家内安全を信念とするあすか姉様を、もう二度と戦わせるつもりはないのよ。それにね、わたくしだって新しい切り札が手に入るんだから、お互いにとって良い取引になると思うわ。そうね、まずは30日間、ここに居させてあげて。住むところは用意しておくし、なるべく戦わせないように手配するから心配しないで」


『・・・・・』


「ふふふ、信用してくれてありがとう。畿内一のポーターに育てるから任せて、あすか姉様。それと明日から30日間、山城地域ギルドに所属することを姉様から明日の朝まで太郎ちゃんに伝えてくださいな。こちらに来るように連絡はしておいたのよ」


『・・・・・』


「全然休めないのだけど、いつかは休みを作って、そちらへ伺うようにするわ。そのときにユウキさんの料理をまた食べたいわ。先に言うけれど、あすか姉様は作らなくていいからね」


『くぁwせdrftgyふじこlp!』


「はいはい。それじゃ、おやすみなさい。また連絡を入れるわ」



 山城地域探索協会大津支部の執務室で、スマートフォンを机の上を置くと九条日菜乃は瞼を閉じて独りで考えていた。こんなに久しぶりに楽しい一時を過ごせるのはいつぶりなんでしょう。



 旧京都市が復旧して以来、終わらない襲撃が続いてる。


 政府の強い希望により、勇者一族が協力して旧亀岡市を含む亀岡盆地を取り戻したものの、命を落とした冒険者たちは二度と帰って来ない。


 その上、山に囲まれてる旧亀岡盆地に対するモンスターやアニマルの来襲は激しく、ギルドの人員不足により、丹波地域亀岡臨時支部へ届ける補給は途絶えがちな状況が続いていた。


 このままだと後2年もしないうちに、政府がどう考えようと山城地域探索協会の副会長として、亀岡盆地の放棄を決断せざる得ない。


 運搬士(ポーター)が多少増えたところで、影響を与えることはできないと九条日菜乃もよく知ってる。


 それは輸送隊のポーターを増やせば、その分だけ護衛の人員を付けねばならないし、そもそも運搬士とそれを護衛する冒険者は、山城地域でその人数が全然足りてないのが現状だ。



 そこへ自己防衛ができ、通常ではあり得ない輸送量を持つ天性のポーターが現れた。



 卒業した後の山田太郎に関する噂は掴んでたし、最新の依頼完遂報告書も九条日菜乃は目を通した。


 昔に会った、おどおどする山田太郎という子供の記憶が強かったため、どこかで信じられなかったかもしれない。そのためにギルドへきた太郎と直に会談し、その実力を観察できるように、一人で出かける依頼を引き受けるように仕向けた。


 その後を追って、カナリアの式神を飛ばして観察したところ、予想以上の能力を確認できたことに九条日菜乃は興奮している。次にすることがあるとすれば、それは山田太郎という人材を、一人でも運搬の依頼を完遂できるように鍛え上げることだ。



 九条日菜乃にとって、一人のみに専念できるのなら、育成プランを立てるのも進行させるのも、さほど難しいことではない。ましてや育成される側に潜在能力を持っているのだから、後は手間暇をかけてじっくりと育て上げ、いつか才能を開花してくれればいいと思ってる。



「フフフ、太郎ちゃん。これでもう逃げられないわね」


 夜闇しかない窓の外を見つめて、九条日菜乃は久しぶりに心から笑った。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




『・・・・・』


「そうね。あなたも京都を取り戻して以来ずっと忙しいまま、会う機会がほとんどなかったわ」


『・・・・・』


「そ、そんなことはない。タローちゃんはできることを頑張ってるの。戦う力を持ってないからうちがまもらなくちゃいけないの」


『・・・・・』


「あなたはなにを言ってるのよ! 自分の歳を考えなさい! あなたに母親なんて呼ばせないからね!」


『・・・・・』


「なんですってぇ。あなたこそ男日照りで誰でもよくなってるじゃない? うちのタローちゃんに毒牙をかけないで」


『・・・・・』


「タローちゃんに何かあったら、たとえあなたでも承知しないわよ」


『・・・・・』


「……」


『・・・・・』


「あなたらしいね。言ってることは否定はしないけど、タローちゃんに無理をさせるつもりはありませんよ」


『・・・・・』


「……」


『・・・・・』


「その通りよ。知らないことがあるのは不幸ではないの」


『・・・・・』


「……そうね。母親としてずっと守ってあげたい気持ちはあるの。でもね、どんなに心配しても子供はどんどん大人になるのよ。気にかけてくれるのはうれしい、タローちゃんのことであなたに迷惑をかけるわ。ごめんなさいね」


『・・・・・』


「……そこまで考えてくれるのならあなたに預けてみる。タローちゃんのこと、お願いね」


『・・・・・』


「わかったわ、タローちゃんにしばらくそちらで世話になるように連絡しとく。ヒナちゃん、タローちゃんのお礼も兼ねて、店にいらっしゃいな。ジローちゃんと会ったことないでしょう? ご馳走を作って待ってるからね」


『・・・・・』


「なんてことを言うのよあなたって子は! バカにして。うちだってね、料理の腕が上がるように毎日頑張っているの!」


『・・・・・』



 いいたいことだけ言ってヒナちゃんはスマホを切った。本っ当に全然変わらなくて腹が立つわ。


「ヒナからの連絡?」


「ええ。自由な子って思ってたけど、変わらないね」


 静かな店の中で、結ちゃんは閉店後の掃除を付き合ってくれた。ひと昔なら、ここで子供たちが甲高い声で騒いでたけれど、今はみんな大人がなって、自分の人生を歩んでいる。


 嬉しいはずなのにどこか心が寂しい。



「横で聞いてたけど、太郎のことを預けろってことでしょう?」


「ええ、そうなの」


「あの子に預けなさいな。心配する気持ちはわかるんだけど、いつまでも閉じ込められないでしょう? それなら生きる道を与えてあげなさい」


「……」


 全てを知ってる結ちゃんだから言い返すことはできない。


 だけどタローちゃんを戦わせたくないのが親心なの。あの子は戦っちゃいけません、本気で戦ったら魂が削られる。魂が無くなったらタローちゃんが居なくなる……



「もう、太郎のことになったらいつもこうなんだから。ほらっ」


 結ちゃんはティッシュをそっと出してくれた。滲む涙もそうだけど、鼻水が詰まって息苦しいの。


 チーーンっ



「そっちできたか……明日香は明日香ってことやね」


「なに?」


「なんでもない。お茶飲む?」


「もらうー」


 空になった急須を持って、結ちゃんはだれもいない厨房へ行く。



 そうね、今でもタローちゃんのことは心配だけど、ヒナちゃんが言ったように、自分を守れるようにタローちゃんが成長しなくちゃね。かあさんがこれからもずっと見守ってあげるからタローちゃん、頑張るのよ。


 もしもタローちゃんになにか大変なことがあったら、かあさんがその根源を絶滅しにいくからね。





二つの情景と心情を同時に書いてみたかったため、通話してる場面で分けてみました。

見づらいとは思いますが、ご了承してくだされば幸いです。


会話の全文は下記にて記載してありますので、気になるお方はどうぞご覧ください。


「」九条日菜乃サイド 『』山田明日香サイド


「――太郎ちゃんは面白い子に育てたわね。久しぶりだからわたくしのことは覚えてないみたいだけど」


『そうね。あなたも京都を取り戻して以来ずっと忙しいまま、会う機会がほとんどなかったわ』


「ええ。でもね、甘やかしすぎじゃないかしら? こんな世の中よ? もう少し緊張感があったほうがいいと思うわよ、あすか姉様」


『そ、そんなことはない。タローちゃんはできることを頑張ってるの。戦う力を持ってないからうちがまもらなくちゃいけないの』


「そうは言うけれど、おんぶにだっこは本人のためにならないわよ。そうだわ! わたくしはまだ独り身ですし、見た目なら釣り合いは取れそうですからあ、太郎ちゃんをわたくしの婿にくださいな」


『あなたはなにを言ってるのよ! 自分の歳を考えなさい! あなたに母親なんて呼ばせないからね!』


「はいはい、怒らない叫ばない。冗談よ、あすか姉様。お年を召してカルシウム不足になったのかしら? わたくしだって姉様をお義母様なんて呼びたくないわよ」


『なんですってぇ。あなたこそ男日照りで誰でもよくなってるじゃない? うちのタローちゃんに毒牙をかけないで』


「わたくしこそですって? それこそ冗談にしか聞こえないわ。太郎ちゃんはわたくしにメロメロよ、明日も朝一番にわたくしに会いに来るわよ」


『タローちゃんに何かあったら、たとえあなたでも承知しないわよ』


「真面目な話をするね、あすか姉様。太郎ちゃんをしばらくわたくしに任せてほしいの。姉様たちが頑張り過ぎて、あの地獄から日ノ本をどうにか住めるような世の中に戻したのは感謝するけれど、いつまた迷宮が牙を向けてくるかは誰も知らないわ」


『……』


「舞ちゃんや花子ちゃんたち、現在の勇者パーティは頑張ってるけど、修羅場をくぐり抜けてきた姉様たちに比べたらまだまだよ。太郎ちゃんは勇者たちのように、際立ったすごい力はないけれど、持ってる魔力といい、ほかの人にないスキルといい、あの子が勇者パーティのワイルドカードよ。これは間違いないわ」


『あなたらしいね。言ってることは否定はしないけど、タローちゃんに無理をさせるつもりはありませんよ』


「ええ、あすか姉様があの子を大切にしたい気持ちはわかるわ。それと、太郎ちゃんには秘められた力があることを、姉様たちがわたくしに隠してることもね」


『……』


「別になにも言わなくてもいいのよ。わたくしだって、全てを知りたいわけじゃないわ。わたくしの手に余ることがあれば、知らないほうが幸せだわ」


『その通りよ。知らないことがあるのは不幸ではないの』


「だからね、太郎ちゃんにある今の力で鍛えてあげたいの。なにもスキルだけで人は強くだけじゃないわ、スキルなんて補助器みたいなものよ。姉様たちとわたくしたちのように、戦いはねえ、知恵と経験だって決め手になれるわ」


『……そうね。母親としてずっと守ってあげたい気持ちはあるの。でもね、どんなに心配しても子供はどんどん大人になるのよ。気にかけてくれるのはうれしい、タローちゃんのことであなたに迷惑をかけるわ。ごめんなさいね』


「いいえ、迷惑なんて思ってないわ。それに政府と違って、家内安全を信念とするあすか姉様を、もう二度と戦わせるつもりはないのよ。それにね、わたくしだって新しい切り札が手に入るんだから、お互いにとって良い取引になると思うわ。そうね、まずは30日間、ここに居させてあげて。住むところは用意しておくし、なるべく戦わせないように手配するから心配しないで」


『……そこまで考えてくれるのならあなたに預けてみる。タローちゃんのこと、お願いね』


「ふふふ、信用してくれてありがとう。畿内一のポーターに育てるから任せて、あすか姉様。それと明日から30日間、山城地域ギルドに所属することを姉様から明日の朝まで太郎ちゃんに伝えてくださいな。こちらに来るように連絡はしておいたのよ」


『わかったわ、タローちゃんにしばらくそちらで世話になるように連絡しとく。ヒナちゃん、タローちゃんのお礼も兼ねて、店にいらっしゃいな。ジローちゃんと会ったことないでしょう? ご馳走を作って待ってるからね』


「全然休めないのだけど、いつかは休みを作って、そちらへ伺うようにするわ。そのときにユウキさんの料理をまた食べたいわ。先に言うけれど、あすか姉様は作らなくていいからね」


『なんてことを言うのよあなたって子は! バカにして。うちだってね、料理の腕が上がるように毎日頑張っているの!』


「はいはい。それじゃ、おやすみなさい。また連絡を入れるわ」

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