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01 無限の『金』

 


 ここは真夜中、ある都市の、とある公園。

 そんな何の変哲も無い場所で一つの生命が終わりを迎えようとしていた。




「ここで、おれは終わりか…最後に揚げ物を食べたかった」




 公園の片隅で空を向いて横たわり虫の息の男性の名は、尾張堅持という。

 その風体は、ボロボロのジャージと無精髭、髪もボサボサというように今にも餓死をするのが見て分かる。




 この男。貧困家庭から成り上がり、大企業に入社はしたものの出世競争に負けた末にリストラという転落人生を歩んでいた。




 彼の憎むものは一つ。

 それは、「金」だ。




 金さえあれば不自由な思いはせずに済むかもしれないが、金があるからこそ無意味な出世競争が巻き起こる。



 そして自分のような負け組が生まれ、最悪の場合はプライドが邪魔をして餓死するハメになるのだ。

 そんな思いを胸に秘めながら最期の時を待つ。



「神様よ。もし生まれ変わるのなら金の無い世界にしてくれよ…」




 男は最後の一言を空に向かい言い残すと目を静かに閉じた。

  完全に息を引き取り、意識が深い闇の中に沈んでいったのだ。



 どれくらい眠っていたのであろうか。体の感触が蘇っている。


 しかし、視界が開けない。

 おれが推測するにここは胎内の中だろう。



 よく赤ん坊の頃までは前世の記憶が残るというが、まさにその通りのようだ。



(まだ生まれるには早いようだな。もう少し寝ようか)

 再び眠りにつく。



 次に目を覚ましたのは赤ん坊用の小さなベッドの上だった。





「おぎゃあぁ、おぎゃあ」

「あなた!赤ちゃんの目が覚めたわ~可愛い~」




 何も考えていないのに泣き声が勝手に出てしまう。

 また偶然、視界に入った母親の顔を見て自分はラッキーであると確認できた。



 なぜなら母親は美人だからである。


 スラリとしたスタイルで身長も申し分ない。

  自分もきっとイケメンとして新たな人生を歩んで行くのだろうと思った。




 しかし、順調に見えるスタートだったが一つ気がかりな事が残る。

  それは前世の記憶が今なお残り続けていることだ。




 いずれは消えてゆくものだと、タカをくくっていたが1歳…2歳と年月を経ても記憶が消えない。




 そして3歳の時に前世の記憶を残したままのおれは、両親から生まれ落ちたこの世界について少しずつ学ぶことになる。




 簡潔に言うとこの世界は前いた世界とは完全に異なる。




 『金』という概念は存在するらしい。



  ―― だが、『金』の存在しない世界などない

  この時は既に割り切っていた。



 また人以外の種族が存在し、魔法なるものや生まれ持ったスキルというものがあるらしい。



 但し、スキルと言っても火を吹いたり、身体能力を超向上させたりするといった便利なものではない。



 単に走るのが少し早くなったり、記憶力が少し良くなったり、いわゆる得意な科目スポーツがある、といった程度のスキルがほとんどだ。




 そして、スキルとともに名前が示されるらしい。

 だからこの時点でおれには名前がない。



「お前は、どんなスキルが出るんだろうな」

「料理上手なスキルだったら、私は嬉しいんだけど~」


「父さん、母さん、スキルの話はやめてよ。分かるのは15歳、来年の話でしょ!気が早いよ」




 おれが生まれた村は裕福ではないが質素に平和に暮らしている所だ。

 今日も農作業が終わった後にこうして家族団欒、夕食を食べている。




「そういえば、スキルってどこで判定するの?」

「前にも言わなかったか。教会の牧師さんの所へ行って見てもらうんだ。牧師さんも下位とはいえ魔術師の端くれだからな」



「ふふふ。端くれって、あなた、牧師さんに失礼じゃない」



 父が冗談を言い、母がそれを指摘しながら笑い出す。

 そう。おれが求めていたのはこれだ。

  平和な日常をゆっくりと暮らしていくんだ、ありがとう神様。



 幸せを噛み締めていると自然と口元も緩んでくる。




「お前まで、笑っているのか?」

「違うよ父さん。どんなスキルなんだろうなって楽しみでさ。早く名前も欲しいし」



「そうか。来年の誕生日は、すぐ教会に行くぞ」

「あなたまで張り切っちゃって。ふふふ」




 おれはこの日常が死ぬまで続くと思っていた。

  当たり前の生活、何も考えずに過ごしていると月日は流れ、すぐに運命の誕生日が訪れる。



「さ。教会に行くぞ」

「気をつけて行ってらっしゃいね」



「大丈夫だよ母さん。すぐ帰ってくるから」




 父と共に馬を走らせ、教会のある村の中心部へ向かう。

 教会に着くと牧師がおれたちを出迎えてくれた。

  父が、先に連絡をしておいてくれたのだろう。



「よく来てくださいました。ささ。中へどうぞ」

「ありがとうございます。ほらついて来て」



「待ってよ。父さん」




 父の方が楽しみのようで急ぎ足で協会の中へ入って行く。

 それに続いて後を追うと暗く大きな空間に辿り着いた。



「父さん…どこ?」



 少し怖くなり、泣きそうな声を出してしまう。



「坊ちゃん。ごめんなさいね、すぐ灯りをつけますので」

「ごめんな。倅よ。楽しみすぎて先に行きすぎてしまった」




 〈ボッ〉

 松明の火が次々と灯って、教会全体を明るく照らし出す。

 その空間はまさに神秘的な空間であった。




 空間の奥には大きな十字架があり、前には牧師が立って手招きをしている。



 手招きに誘われるように近づくと牧師が本のようなものを額にピッタリとつけて、スキル解読のための詠唱を始めた。



「我が純白の精霊よ。我に隠れた才を見せよ…」

「牧師さん、もう終わった?」



「ははは。終わりましたよ坊ちゃん。この本にスキルの内容が写し出されるはずです」



「終わりましたか?」


 父が走って近づいてくる。




「はい。儀式は終わりました。もうそろそろスキルが解明されます。この前の子は、魚の包丁捌きに関するスキルでしたよ」

「倅は、農作業系のスキルだとありがたいんですけどね」




 父と牧師が世間話に花を咲かせている。

 しかし会話の途中であったが、自身のスキルの詳細が気になったおれは居ても立っても居られずに牧師を問い詰めた。



「牧師さん、まだ出ないの?」

「ごめんごめん。あっ、文字が見える。解明出来たよ」



「どんなことが書いてあるんですか?牧師」



 父が自分より身を乗り出していることに、呆れを通り越して少し怒りの感情が芽生えだす。

 だが、すぐにこの感情は困惑へと変わるのだ



「え‥ 何だこのスキル…」



 なぜか牧師は言葉を詰まらせ、親子の方を見ると真顔で結果を伝える。



「坊ちゃんのスキルは金に関するスキルです。いつでもどこでも国の使用する金貨を召喚することが出来る、といったスキルです。こんなもの聞いたことがありませんが」



「え。お金のスキル…?」



 頭の中が真っ白になり、唇を噛む。

 金に関わらない生活を望んだおれが、なんでこんなスキルを持つことになるのか。

 


 ――神様を最も憎んだ日となった



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