弱い太陽。
朝六時。起床。美由紀が、夜勤を終えて、帰って来た。
「おはよう、京介」
「お疲れ、美由紀」
美由紀は何故だか、不機嫌だった。仕草、目つきでわかる。
「何か、あったの」
「京介、ただいま。今日は眠らせてね。疲れちゃって」
「うん。俺も仕事、行くわ。美由紀、無理するなよ」
「うん。京介もね。いってっらしゃい」
美由紀とキスを交わし、冷たい美由紀の唇を知る。
「美由紀、ぐっすり休んでな」
「うん」
バス停へととぼとぼ、歩く、HANABIへのバス出勤も慣れてきた。美由紀に何かあったのか。バスに乗り込む。席に座る。欠伸。考えるのは。美由紀の事と弘人の事。漫才に賭けた夢。俺に何ができるのだろうか。車窓を見て、ネタを考えるなんて、今日の俺には出来ない。朝焼け番長。統合失調症。理解者募集。降りなきゃ。
「おお、京介、早いじゃん。また、ネタ合わせか。例の奴と」
「はい。その前に、掃除機だけかけておきますね」
「ああ、頼む」
掃除機か。美由紀の立場になった。あいつは、毎日、俺に尽くしてくれる。掃除、洗濯、ご飯。俺、しっかりしなくちゃ。例の奴か。来た。笑顔だ。はああ。
「きょ、京介さん。おは、おはようございます」
「はい。おはよう。ネタ、合わせるか」
「は、はい。ぼ、僕が、じ、ま。町工場で、で、は、た、働いている、こ、ころ頃の話です。き着替え、き、ようと思って、ろ、ロッカールーム、ムムにはい、はい、入ったら、しん親友のま、雅夫が、せ、先輩のの、ロッカー、ろ、ロッカーを開けて、たた、たんです。そ、その時は、き、気にも、と、とめません、で、でしたが、ゆ、夕方に、な、ああああって、先輩、いいのさ、財布に、は、入っていた、13万円が、が、盗まれた。って、いいいいいう事件んんnが、お、起きたんです。せ、先輩達は、ぼ、僕が僕が、は、犯人だ、だと、きめきめ決めつけ、ぼ、ぼ、ぼ、僕をな、な、殴りました。そ、そうです。は、は、犯人は、ま、雅夫で、でででででした。しかし、ぼ、僕は口ををわ、わりませんででした。そ、そ、そ、そ、そして、自腹で、じゅ、13万円を払い、払いました。も、勿論、会社はは、クビで、です。で、で、ですが、このこの前、そ、その雅夫が、に、二年ぶりに僕のと、ところへ、そ、その時の13万円を、も、持って、訪ね、訪ねて、来て、くれ、くれ、た、た、たんです。ぼ、僕はう、嬉しかった。嬉しくて、う、嬉しくて、ぼ、ぼ、ぼ、僕は、も、もっと、漫才をおおおおおおおおおうう頑張ろうとお、思ったんです。きょ、京介さん。が、頑張りましょう」
「それ、ほんとに実話なの」
「は、はい。そ、そ、そうです」
鈴木さんが弘人にあきれかえり、笑った。煙草に火を点けて、鈴木さんが弘人に言った。
「お前が犯人だろう、嘘って、まるわかりだよ」
「すみすみすみません。ぼ、僕がは、は、犯人です」
あああ。なんてこっちゃ。これから、どうなるものか。俺も煙草に火を点ける。
「弘人さ、まあ、座れよ」
「こ、こんなこと、い、言われると勃起ししちゃった」
「はいはい」
前途多難。鈴木さんが入れてくれた、お冷を飲み干す。煙草の本数が、多くなるばかり。美由紀も俺も今日はダメな日。鈴木さんも。嬉しいのは弘人だけか。
「甘えないでネタ合わせ、するよ。いいな。弘人。逃げるなよ」
「は、はい。ぼ、僕はつ、強くなりましたよよよ」
どうも、朝焼け番長です。頑張るか。漫才師。