今、決めた。
美由紀と弘人とHANABIでお茶。困ったことが起こりそう。俺、。。
「お、おきれい、なな、な、」
「初めまして。弘人君。私、美由紀です」
「きょ、京介さんの、お、奥さんで、ですか」
「うんうん。違うよ。京介の理解者だよ。弘人君も理解してあげるよ。私、看護婦なんだ。困ったことがあったら、いつでも、言ってきてね」
「ぼ、僕から、か、から、京介さんを盗らないでください」
「うん」
一瞬、美由紀と目を合わし、俺は、また、笑うことを選択した。すると、髭面の怖そうなリーゼントの店員さんが言った。
「兄ちゃん達、今日は美人を連れてるね。何、漫才師になるの」
「は、はい」
と、俺が答えると。やっぱ、弘人。
「ぼ、僕がじ、自動車しゅ修理工場では、は、は、働いている頃、の、の、は、話です。お、おやっさんは、や、優しかったんで、ですけど、せ、先輩の、ま、前田さ、さんって人にま、毎日、ば、馬鹿だ、間抜けだ、だ、だ、って、し、叱られて、その、その日も、も、ぼ、僕は、つ、疲れ果ててい、いて、て、鉄パイプで、で、で、つ、つまづいて、こ、こ、転んだんです。す。す。そ、その時、く、クレーンのスイッチににに、に触れてしまい、い、い、いいい、鉄パイプが、が、がたがたっと。そ、その時、ぼ、僕は、もう、ま、漫才は、で、で、できないと、お、思ったん、で、で、。そ、そして、僕が、う、うっすらと、メ目を開けると、ぼ、僕のふと、太ももにち、血まみれの、ふ、太い、う、腕が。そ、その腕は、ま、前田さんののおおののの、腕だ、だったんです。く、苦痛にか、顔をゆ、ゆがめながら、ま、前田さんは、は、あ、『ひろ、弘人、こんなことでお、お前のゆ、夢、つぶすんじゃねえねえねえぜって』って笑顔でい、言ってくれくれくれくれました。ぼ、僕がま、漫才を、し、したいわけは、ま、前田さんのや、優しさから、き、きているものなんです」
「え、まじで」
「は、はい、実話です。実、実話です。前田さんは、きょ、去年、お、お亡くなりになりました。65歳で、でした」
こいつ、何だ。何者だ。シャレにならへんで。すると、リーゼントの店員さんが大爆笑していた。
そして。
「兄ちゃん達さ、いいね。若いって。笑わせてもらったからさ、これから、ここでネタ合わせしていきなよ。三人ともアイスコーヒーでいいんでしょ」
満面の笑みの弘人。狂ったように笑いこう言った。
「こ、これからも、ぼ、僕と、きょ、京介さん、り、理解者になってくれてありがとうございます。す。ここで、で、僕、僕達、い、一生、ネタ合わせ、が、頑張ります」
こいつ、自分さえ良ければいいのかよ。不安だ。俺。凄く、情緒不安定だ。
そしたら、ことが起きた。いきなり、弘人が、お冷を自分自身の頭にぶっかけた。
「お前、何のつもりだよ。警察、呼ぶよ」
店員さんに弘人は殴られた。そして、逃げるかのように、震えて、走って、一人、弘人は店を出た。
「兄ちゃん、あいつ、なんなの。今日は勘弁しとくけどさ」
「すみません。あいつ、病んでるんです。今度、何か、あったら、俺が責任、取ります。ほんと、すみません」
「わかった。アイスコーヒー、飲んで行って。兄ちゃんも大変だね」
「ほんと、すみません」
俺が、頭を下げると、美由紀は優しい。濡れたテーブルを無言で店員さんと拭きだした。俺、どうしよう。あいつと漫才師に本当になれるのか。
「まあ、兄ちゃん、煙草でも吸っていきなよ。イイ女だね。結婚するの」
美由紀がケラケラと笑いだした。そして、優しく、こう言ってくれた。
「京介が働いてくれたら、結婚してもいいよ」
「え、まじで」
「うん。まじで」
「兄ちゃん、プーなの」
「あ、まあ、はい」
「ここで働いてくれないかな。俺、マスターやってる、鈴木。男は働いてなんぼだぞ」
「か、考えときます」
美由紀とブラブラとバス停まで歩く。話すは、弘人のぶっかけ事件と、鈴木さんの言葉。
「京介さ、弘人君、一度、入院させたほうがいいんじゃない」
「俺もそう思った。でもなぁ」
バス停の前に猫がいた。煙草に火を点ける。今、決めた。
「美由紀、俺、HANABIで働くわ。それから、本気で弘人と漫才やるよ」
「え、まじで」
「うん。まじで」
帰ろう。バスが来た。俺達の部屋へと。人生スロースロー。我々も頑張っていかなあかんなぁ。