エピローグ(2)
『それから二日後……ショッピングモールでそれは行われた』
「おおっ、レアだな」
『新谷はなにも知らされず、Kマネージャーの誘導によって柿谷との出会いを驚く。それが……仕組まれているとは知らず』
「声かけますか?」
「なんでだよ。プライベートで来てるのに」
「でも、こっちに気づくかもしれませんよ」
「流石にマズイな。気づく前に退散しよう」
「なんでですか。別に一言くらいいいじゃないですか?」
「俺ら売れてない芸人と一緒にすんな。あっちはトップアイドルだぞ。休日の価値が違うんだよ」
ば、バッチリ俺の会話が撮られている。
『そのとき、二人が手を繋いだ。新谷は、思わず二度見して、そして瞳をすぐに逸らした』
「あっ、新谷さん。お待たせしまーー」
「木葉、行くぞ」
「まあ、まだ買い足りないぐら……えっ、柿谷さーー」
「行くぞ」
「止めなくていいんですか!?」
「なんで?」
「だって凪坂46は恋愛禁止ですよね?」
「俺は運営スタッフじゃないからいいんだよ」
「でも、バレたら……凪坂46のメンバーを裏切る行為じゃ?」
「……アホか」
「えっ?」
「アホかお前は!いったいアイツらのなにを見てきたんだよ!?」
「……」
「たとえ、恋したメンバーがいたら、『裏切り者』って責めるアイツラだと思ってるのかよ。そんな奴らじゃねーよ」
「……ごめんなさい」
「もう……いいよ。わかったら、もう帰るぞ」
『そのマジ過ぎるコメントに』
「「「「……」」」」
『凪坂46のメンバーは……ドン引きした』
ど、ドン引きしてんじゃねーよ。
『公式お兄ちゃんとしての熱すぎる想いを聞いたメンバーたちは、その罪悪感に駆られた。悪いことしたな、今度ジュースでも奢ってあげよう』
……お、お前ら俺をなんだと思ってるんだ。
「継続しよう」
『しかし、そんなハッピーエンドの結末を梨元プロデューサーは許さなかった。伊達に旧テレビ時代のドッキリを経験してはいない。彼は、昨今の軟弱なドッキリに辟易していた』
「「「「はい!」」」」
『総合プロデューサーの一言に、罪悪感に駆られていたメンバーは、満場一致で了承した』
き、貴様ら。
『それから、Kマネージャー了承の下、24時間体制で監視を行った。キャプテンの本田が揺さぶり、センターで張本人である柿谷がそれとなくほのめかしたり。しかしKY新谷はそんなことには気づかない』
き、気づく訳ねーだろう。
『そんな鈍感の新谷のせいで……事件は起こった』
さ、さりげなく俺のせいにしている。
「はい、もしもしKですが」
「こんにちは。私、サタデー編集部のYです。この写真……って柿谷さんと俳優の篠田さんですよね?」
「いや、それはテレビの収録なんです」
「ふっ……そんないい訳が通用すると思いますか?」
「いや本当ですって。近日中に放送しますから。その日も教えますから」
「まったく……あなたはマネージャー失格ですね。あなたがどう言おうと、流しますから」
「いや、事実確認しないと本当に後悔しますよ。この会話も録音してますから」
「どうぞお好きに……」
「……」
『柿谷のマネージメントを兼ねているKマネージャーはこの録音テープを、梨元さんに提出した』
こ、木葉……お前か。
「これは……発表されたらエライことになるね」
「なりますね」
「でも、しょうがないよね」
「ですね」
・・・
『ニヤリ……と二人は笑った』
わ、笑ってんじゃねーよ。
その後のくだりは、全て盗撮されていた。マスコミについて発狂する下り、梨元さんの名演、そして……『俺たち家族だろ』発言。すべての羞恥が放送されて、もはや恥ずかし過ぎて憤死する自信がある。
『こうして、本当に熱い……熱いドッキリは……終わった』
*
「はい!と、言うわけなんです」
「という訳なんですじゃねーよ!」
「悪いのはキチンと事実を報道しなかったサタデーの編集部ですから。本当にKマネージャーが敏腕で。こんなこともあろうかと、スマホでの会話は全て録音しているそうです」
……木葉、テメーは恐ろしいマネージャーだな。
そんなことより。
「新谷さん……」
柿谷が涙を浮かべながら一歩前に出る。
全部嘘だったんだな。
「ドッキリだったけど……私たち、新谷さんの想いに感動しました」
「……」
恥ずかしい。
猛烈に恥ずかしい。
「「「「新谷さーん!」」」」
そう言いながら、俺に駆け寄ってくるメンバーたち。みんなが俺に抱きついてくる。
みんなの表情は本当に申し訳なさそうで。
少し嬉しそうで。
そうだ。
こんなやつらだけど。
あのときの思いに嘘はない。
こんなやつらだけど。
俺はこいつらの公式お兄ちゃんだ。
駆け寄って抱きしめてくれるこいつらを見てると。
こうして振り回される結末も。
こんな風に終わるハッピーエンドも。
まあ、悪くないと思う。
「誰だ俺にボディブロー食らわせたやつ?」
END




