収録前
「収録をはじめる前に、お前たちに言いたいことがある」
「「「「……」」」」
いつも通りのダンマリ。
「俺は、正直言ってお前らのことが好きかと聞かれても、そんなに好きじゃない」
「「「「……」」」」
「だって、そうだろ? 収録でも声出さないし、受け答えは的外れだし、キャッチコピーはエキセントリックだし。他にもMCとして……公式お兄ちゃんとして迷惑は凄く被っている」
俺の言葉で悲しそうにうつむくメンバーたち。
「今回の柿谷の件だってそうだ。みんな迷惑だって思ってるんだろう?」
「そ、そんなことないです」
本田が立ち上がって言う。
「嘘つけって。マスコミだっていっぱい来て、いちいち応対しなきゃいけないし、今日の握手会だって色々聞かれただろう? 本田、お前なんてキャプテンだったんだから一番大変だったんじゃないか?」
「なんで……新谷さん……なんでそんなことを言うんですか?」
彼女の瞳には目一杯の涙が溜まっていた。
柿谷はずっと下を向いていて表情は見えない。
「怒ってるんだよ。少なからず、柿谷は周りに迷惑をかけてるわけだ。お前たちにも……俺にも……スタッフたちにもな」
「「「「……」」」」
「でも……でもさ。家族ってそんなもんじゃないか?」
「「「「……」」」」
「人生ってさ、そんなもんなんだよ。迷惑かけるときだってあるし、嬉しいときだってある。きっと、そんなんセットでさ。マクドナルドみたいに、単品でハンバーガー頼むみたいにさ。嬉しいことや楽しいことを単品じゃ味わえないんだよ」
「新谷さん……」
本田がつぶやく。
「俺は、お前たちの公式お兄ちゃんだ。不本意だってなんだって、その事実は変わらない。それって……もう家族じゃないか?」
「……」
「当然、俺は仕事としてこれを受けている。お前らもそうだ。でも、こうして一緒に大変な思いをして、迷惑かけられて、それでも一緒にいるんだ。これってさ……もう家族だろ」
「……」
「だから、しょうがないから我慢するよ。どれだけ迷惑かけられたとしても、家族だから、もうしょうがないから我慢する。家族だから、しょうがないから、お前らと一緒に乗り越える」
もう、あいつらの顔は見ていない。嫌がってたって嬉しがってたって関係ない。
「準備はできたか?」
「……なんのですか?」
柿谷がやっと顔をあげた。
「戦う準備だ」
「……」
「悲しいときほど……怒っているときほど……戦え。ここは、戦場だ。世間の目なんかに負けるな。いつも通り、飄々とお前らの顔を見せてくれればいい」
「……はい」
柿谷の瞳には涙が滲んでいたが、その返事は明確だった。
「ここはバラエティ番組だ。ありのままを見せろ。どうせだったら、ありのままのお前たちの『強さ』を」
「「「「……はい」」」」
「楽しくなくたっていい。スベったっていい。こんなときほど喋れ。辛かったら辛がれ。あがけるだけあがいて、泣きたかったら泣け。全部俺が拾ってやる。お前たちごと全部ぶつけて来い!」
「「「「はい!」」」」
「じゃあ、収録入りまーす、3……2……1……」
カウントダウンと同時に瞳を開け、彼女たちを見つめる。
「頼むぜ。最高の時間を過ごすために、どうか力を貸してくれないか?」
その問いに。
彼女たちはまっすぐな瞳で頷いて。
収録が開始された。




