楽屋(2)
予想通りの言葉に、心臓を強く握りしめる。
それでも。
一抹の思いでこの人を信じて。
「どういう意味ですか?」
と尋ねた。
「そのままだよ。アイドルグループにとってセンターは特別な意味を持つ。柿谷もまた、特別なものをもっていただけに……残念だがね」
「……つまり、センターから下ろすって意味ですか?」
「そうだ」
「見捨てるってことですか?」
「そうだ」
「……クビってことですか?」
「それは本人次第だ」
あまりも予想できた答えに。
あまりにも予想通りのその答えに。
「なんで! なんで……なんでそんな風に言える!?」
思わずそんな言葉が漏れでていた。
「彼女が僕の……いや、みんなの期待を裏切ったからだ。いや、彼女は僕だけじゃない。応援してくれるファンも支えてくれるメンバーたちも番組スタッフも運営スタッフも全て!」
梨元さんの語気が荒い。
いつもどおりなんてとんでもない。彼はどうしようもなく怒っていた。それは、不思議ではない気がした。そして、それを責められない自分もいた。無責任なコメンテーターでも記者でもなく、アイツにこれ以上ないくらい期待していたのだろうから。
「センターというのはグループの顔だ。彼らの今後を左右する魂だ。彼女はそれを傷つけた。台なしにした。彼女には相応の責任をとってもらわなくちゃいけない」
「……」
「そういうもんなんだよ。ここは狂気の世界。常人は踏み入れられる世界じゃない。ここ芸能界は究極の選民集団なんだ。残酷なことだがね」
「……」
「……今日の収録は生放送でやる」
冷たく言い放ったその言葉に。
思わず震えが止まらなくなる。
「正気ですか?」
「言っただろう? 狂っていると。ファンに対する贖罪だよ。早ければ早いほどいい。生放送で柿谷に謝罪させろ。そのあとは、二度と柿谷に話題を振るな」
「……この放送中ですか?」
「二度とだ」
聞きたくもない言葉が次々と吐かれる。この男は、いったい誰なんだろうか。いったい何者なのだろうか。もはや以前軽口を叩きあった時と同一人物だとは思えない。
「……いやです」
「新谷君、わきまえたまえ。君はプロデューサーか? ディレクターか? 渡された台本を忠実に行う演者だろう? 僕らの考えたシナリオ通りにすることが君の仕事だ」
「……」
「いいか? これは罰なんだ。これをすることによって他のメンバーは助かる。癌細胞は部位を切り取ればそれ以上は拡大しない。これは、凪坂46という命を助ける延命処置なんだ」
「……断ると言ったら?」
「僕の指示通りにしない演者は不要だ。さっきの総合MCの話も白紙。当然、君には番組のMCから降りてもらう。ああ、そうそう。今後一切のテレビ番組には出られないと思ってくれ」
「……」
「あとは君に任せるよ。決断は生放送を楽しみにしている。まあ、答えは決まっているのだろうがね」
「……失礼します」
お辞儀をして梨元さんの楽屋を出る。
それから廊下を歩いていて。
「決まってる……か」
ひとりでつぶやいた。
たしかに決まっている。
自分の答えは。
もう、決まっている。




