収録後
『パワーナイハラさん』……こんな風にふざけたアダ名をメンバーたちからイジられているとき、突然カンペが出た。
『梨元プロデューサーが来てます』
そのとき、ふにゃふにゃだったメンバーたちがビシッと背筋を伸ばす。
……あんな人でもやっぱり緊張するのだろうか。
「は、はみゅ!」
「どういう噛み方!?」
柿谷……お前どんな緊張の仕方だ。というか、もはや噛みにいっているとしか思えない噛み方。
「……」
ポタッ……ポタッ……
「はい、お前退場な」
スタッフ、いつものキラキラモザイクで流血修正しといて。
番組終了まであと5分。そこからは、大した盛り上がりもないまま幕を閉じた。
「はい、お疲れさまでしたー」
ディレクターがそう言って打ち切る中、梨元さんがツカツカと近寄ってくる。
「初めてですか。収録を見にくるのは?」
「……」
お、俺の言葉を完全に無視……
「君たちはこの収録で満足か?」
「「「……」」」
梨元さんの問いかけに、誰もなにも答えない。
「いや、そんなに悪い収録じゃーー」
「新谷君は黙っていてくれないかな」
……俺は完全に蚊帳の外。
「現状に満足をするな。僕から言えるのはそれだけだ」
「「「はい!」」」
「……っ」
それライブのときにも言ったやつじゃん!
本当にそれしか言わないなお前は!
反射的に頭に浮かんだそんなツッコミを必死に抑え込んだ。
「ちょっと新谷君と話したいんだが、別室に来れるかい?」
「は、はい」
ポカーンとする凪坂46を尻目に梨元さんと別の部屋に入る。
「……ありがとう」
「な、なにがですか?」
今度はいったいなにを企んでいるんですか。
「今日の収録……彼女たちのいきいきとした顔が見れてよかった」
「……いきいき?」
大いに違うと思うのだが。
「彼女たちを見たときに、一抹の不安はあった。それは、彼女たち自身の個性を発揮せずに小さく収まってしまうこと。芸能人はとにかく完璧を求められるからね」
「……」
「なんで、君に彼女たちを預けたのかわかるかい?」
「……俺にお笑いの才能があるからですか?」
「違う」
「……じゃあ、わかりません」
違うって、言われた。
「君だったら彼女たちが心を開いてくれるって思ったからだ」
「……」
「それは、簡単なようで難しい。なぜなら、まずは自分が無防備になって心を開かなくちゃいけないからだ。四方八方が敵ばかりの芸能界で、実はそれをやることは非常に難しい。でも、君はそれを躊躇なく自らの心を差し出すことができる」
「……買いかぶりですよ」
いかん、なんだか泣きそうになっている俺がいる。
「なにを言ってるんだ。君はあれだけ誹謗中傷を浴びても、自分のスタンスを変えなかったじゃないか」
「……」
「それは、公式お兄ちゃんとして得難いものなんだ。変わらずに接するということが、なによりも彼女たちを安心させる。人一倍感受性の強い子たちだからね」
「……ドッキリかなんかですか?」
照れ隠しに、思わず軽口を叩く。そうじゃなければ、きっと泣いてしまう。こんな俺のことを、ここまで認めてくれた人がいただろうか。
こんな俺のことを。
「ふふっ。これ以上はお笑い芸人には酷な話だね。とにかく、今日は感謝を伝えに来ただけだから」
背を向けて去っていくその後ろ姿は、少し自分の父親と重なった。
その二日後、柿本の熱愛スクープが発売された。




