収録
翌日のスタジオ収録。現場入りすると、いつも通り緊張した様子の柿谷がいた。昨日の様子ではかなり親密そうだったが……
いや、やめよう。
プライベートはプライベート。仕事は仕事だ。ここは、バラエティ番組という戦場なのだから余計なことを考えている暇はない。
「では本番入りまーす……3……2……1……」
「さあ、始まりました。凪坂ってナギナギー! 司会は私、新谷大二郎がお送りします。そして、彼女たちが……凪坂ちゃんだぁ!」
「「「いぇー!」」」
・・・
「珍しく元気!?」
逆にどうした!?
「はい!」
「おっ、柿谷。どうした?」
「いいことがありました!」
「……なくても声はだせー」
仕事だろ?仕事なんだよ。
そして、それはお前例のアレか。恋愛してるからパワー全開という昨日のやつか?
「はい!」
「おっ、キャプテン本田。お前もなにかあるのか?」
「今日はお祝いです!みんなで花を用意したので受け取ってください!」
「「「「「わぁー」」」」」
パチパチという拍手の音とともに、湧き起こる歓声。そして、本田からは非常に控えめな(質素な)花束を送られる。
「お祝い……あっ、ありがとう」
そうハニカミながらも、なんの記念日かとグルグル脳内が駆け巡る。
誕生日……3ヶ月前だし……この番組始まってからちょうど1年……いや、まだ9ヶ月くらいだからそれもなし。他に記念日と言えるほど、こいつらと密接な関係を結んだ記憶もない。
「なんの記念日かわかります?」
焦る俺の姿を眺めながら、疑念の眼差しを向けてくるキャプテン。
おい俺の脳みそ!繊細な女子には記念日は重要らしいぞ。なんとか絞り出せ……絞り出せぇ。
・・・
「……サラダ記念日」
「「「「……」」」」
やはり違った。
サラダ油のように絞り出てきたのはいいが、全然違った。というか、このサラダ記念日のネーミングセンスたるや。
「さすがは最下位の公式お兄ちゃんなだけありますね」
「そんな失礼な企画してる雑誌どこ!?」
「まぁ、私たちはあきらめてますからね。しょうがないから教えてあげます」
「……はい、すいません」
なぜ、俺がこんな奴らに。
「今日は……凪坂46結成1周年でーす!」
「「「「わぁー」」」」
パチパチパチパチ……
・・・
「いや俺となんの関係が!?」
「ひ、酷い……あなた私たちの公式お兄ちゃんじゃないですか!?」
「いや、それはわかる。でも、『凪坂ってナギナギ』が始まって1周年だったらわかるけど、お前らがいつ結成したかなんていちいち把握してねぇよ!」
「ひ、酷すぎる……あなた公式お兄ちゃんでしょ!?公式妹が生まれた日ぐらい覚えてるのなんて当たり前じゃないですか!なんてったって公式お兄ちゃんなんですかーー」
「ああああ!公式お兄ちゃん公式お兄ちゃんウルセェ!」
「公式お兄ちゃんが……グレた」
「グレてねぇよ!」
「……もう仕方のない公式お兄ちゃん」
「言い方変えてもウルセェ!」
「プレゼントください」
「結局それか!?」
21人分で21万円の出費だった。




