収録後
収録も終わって、真っ直ぐに帰ろうとした時、一瞬その足が止まる。元相方の古谷卓がこっちに歩いてきた。
「おっ……よう。久しぶりだな大二郎」
「よ、よう」
なんとなく、後ずさりしながら、平静を装って応対する。
去年のM−1で惨敗した後、『お前とは将来が見えない』と言われて一方的にコンビ『新旧タニタニ』の解散を言い渡された。その後、古谷は勢力的に活動を続けレギュラーを何本も持つ売れっ子芸人だ。
本来は喜ぶべきところだが、実際には差をつけられたみたいで複雑な感じだ。
「見てるよ、『凪坂ってナギナギ』。なかなか、個性的な子たちで面白いよな」
「お、おう。ありがとう。お前も、レギュラー多くて大変だな」
「お前もな」
「一本だよ!」
「ははは……さすがはそのツッコミは健在だな」
「……くっ」
なんとなく余裕を見せつけられて面白くない。
これが売れてるやつの余裕というものか。
「そう言えば、この前梨元プロデューサーと会ったよ」
「……そうか。驚いただろう」
「ああ。本当に立派な人だ」
「どこが!?」
どっからどう見てもいろいろと破綻してるだろう。
「で、ひとつ俺も番組をやることになってな。遅ばせながら、公式お兄ちゃんをやることになったよ」
「そ、そうか」
可愛そうに。
アイドルって……モンスターだぞ。
そんなとき、後ろからキャピキャピした声が響く。
振り返ると、そこにはキラキラしたイマドキ女子の集団がいた。
「「「「「「「おはようございまーす」」」」」」」
ハキハキとした気持ちのいい挨拶。
「ああ。紹介するよ、今度この子たち、TYO49の公式お兄ちゃんになったんだ」
「TYOって……今度できる……」
TYO49(豊田フォーティンナイン)。言わずと知れた世界のTOYOTAの本社がある豊田市を拠点にするアイドルグループである。世界的な会社のお膝元であり、莫大な財力を背景にAKBグループを席捲するのではないかと囁かれているグループだ。
「「「未来を造るMobileアイドルに。私たち、TYO49です」」」
満場一致で深々と挨拶。
弾けるような笑顔。
つまり、あのポンコツどもとは全然違う。
「はっはっはっ……そういうことだ」
勝ち誇ったような表情を浮かべて、自信満々に去って行く。TYO49の子たちは礼儀正しくお辞儀をして帰っていく。
「くっ……」
そう言えば、昔から嫌なやつだった。あいつ、あえて俺に見せつけるためにここを通ったんだ。
「あっ、新谷さーん」
センターの柿谷とキャプテンの本田が走ってきた。
「おお、どうした?」
いけないとは思っているが、さっきのイマドキ女子たちと比べてしまう。おそらく、可愛さは大いに買ってるんだが、ダサすぎるセーターに、ダサすぎるワンピース。よく言えば、素朴。悪く言えば田舎臭い。
「あの……」
「……いや、どうした?」
それでも。
俺はこの子たちと歩いていく。どれだけ、変な子たちでも……
この子たちと成長していくって決めたから。
「……その」
「どうした? なんでも言ってくれ」
「……アンパンマン……嫌いなんですか?」
前言撤回させていただいていいですか?




