収録(2)
「えーっと、なにをしようとしてたんだっけ」
あまりにも酷いオープニングのやり取りで、つい企画を忘れてしまった。
「はい!」
「どうした柿谷?」
「アンパンーー「それはもういいんだよ!」
お前ら、もう一生、アンパン禁止な。
さて、仕切り直して。
ディレクターのカンペを眺めて当初の企画を思い出す。
「……あっ、そうですね。新年初夢企画ー!」
「はい!」
「どうした柿谷!」
「今、10月ですけど」
「放送日が新年だからいいんだよ!」
野暮なことを言わせるな!
「……それって視聴者を騙すことになりませんか!?」
ビシッと。
俺に向かって指をさす激ヤバセンター。
その手を。
バシッと荒めに払いのけた。
「……さあ、この初夢企画はですね」
「まだ話は終わってません!」
「終わってんだよ!」
季節の嘘は、この業界では当たり前で、そもそも視聴者誰も気にしてねーんだよ!
「……くっ、権力」
「これが権力だというのなら、俺は喜んでそれを行使するよ座れバカ!」
「……」
「元気出して」「そうよ、元気出してよ」「新谷さんだって、悪気ないのよ」「あの人は性格が悪いだけで悪気がないのよ」「それって結構迷惑なんだけど、なんてったって悪気はないから」「それでなんでも許されてきたんだから得よね」「お得よねー」「今までお得に生きてきたんだよねー」「ずるいよねー」
悔しそうに、悲しそうに、口惜しそうに座る柿谷を、メンバーたちが次々と慰め、しまいにはディスりに変わる。
……俺が悪者かよ。
「さあ、今年も新年から頑張っていくために、みなさん書き初めをして頂いたんですが……」
「はい!」
「どうした東郷」
「はい! ゴーゴーカレーに、ゴーゴー! そして、私は、トー!ゴー! こと、東郷真那です」
「それは知ってる! で?」
と言うか、当てるたびに自己紹介をするな!
「私、書きました!」
「それも知ってる!」
なんせ、みんな書いたんだから。
「そうですか……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「見せたいの?」
「……はい」
「……」
「……」
「……」
「……」
「いやいいよ! いいんだよ、その積極的姿勢は。そんなシーンとなることじゃないんだよ」
「……はい」
「どんどん手を挙げてくれ。俺を信頼してどんどん手を挙げてくれ」
これは、いい傾向だ。先ほどのキャプテン本田といい、いつのまにかセンターになった柿谷といい、今回の東郷といい。自発的な発言は積極的なやり取りにつながってくる。それは、必然的に番組の活性化につながり、視聴率につながる。
たとえ、失敗したとしても、それはいい失敗だ。
いや、むしろ失敗することこそが成功したと言えるのではないだろうか。
「じゃあ、行きますよ。順番を変えて、東郷が積極的に手をあげた彼女の書き初めから見ていきたいと思います」
「……エヘヘ」
嬉しそう。
非常に嬉しそうな東郷。
公式お兄ちゃんとして、その成長は凄く嬉しい。彼女たちはアイドルだ。2年目に向けてなみなみならぬ想いを、きっとこの書き初めにぶつけたんだろう。
「さあ、彼女の新年の一発目の書き初めはこれだ!」
パラッ。
『カレー』
・・・
いや書き初めの意味ーーーーー!?




