収録
幕張メッセのライブから数日が過ぎ、収録当日になった。正直思うところはいっぱいあって、このまま臨むのにも抵抗があったのは事実だが、時間は待ってはくれない。
俺は俺のやれることをやるだけだ。
「さあ、始まりました。凪坂ってナギナギー! 司会は私、新谷大二郎がお送りします。そして、彼女たちが……凪坂ちゃんだぁ!」
「「「……」」」
・・・
相変わらずの沈黙。なんか、いろいろあって久々な収録な気がしないでもないが、相変わらず過ぎて逆に嬉しいよ。
「柿谷、元気か?」
「んばばー!」
「うん、テメー、殴んぞ」
一周まわって変なキャラを取り戻すな。
「はい!」
そのとき、スタジオが一斉に注目した。
本田が手をあげている。
キャプテンの本田が。
香川県出身の本田が。
自主的に手を挙げている。
「どうした本田!」
「そうですねー、私の中のー、リトル―、本田が、ここまでー連れてきたのかも、しれませんねー……はい! 凪坂46のエース? 控え? どっちなんだリリカ・ホンダです!」
「うん、それは知ってる! で、どうした?」
と言うか、このタイミングで自己紹介をぶっこむな。
「あの……私たちのライブに来てくださって……」
「あ、ああ。うん、まあな」
思わず照れてしまい、ぽりぽりと頭をかく。
まあ、あのときにはお礼とか言われなかったから、なんだコイツらと思わなくもなかったが、収録中に言われるのは悪くない。
「どうでした?」
「まあ、どうって……よかったよ」
「本当ですか!? アンパンマンの掛け声、よかったですか?」
!?
「そっちか!?」
よかったかどうかと言われたら、まあアンパンマンだったよ!
「昔、ミーティングで梨元さんに聞かれたんです。デビュー曲は『凪坂で行こっ』か『それ行けアンパンマン』どっちがいいかって……」
「それは圧倒的に前者だろうね!」
もう『それ行けアンパンマン』はもう完全にアンパンマンだからね!
というか、あのオッサンどんだけアンパンマン好きなんだよ。
「私たちも凄いミーティングとかして悩みました。それこそ、みんなで胸ぐら掴みあって喧嘩したりして。三週間ほど悩んで、苦渋の決断で……『凪坂で行こっ』に決めたんです」
「一瞬即答でいい気もするけどね!?」
こいつらのデビューシングル発売が延期したのって……まさか……
「でも、みんなで決めたんです。『たとえ、アンパンマンをあきらめても、心の中にアンパンマンを持ってればいいじゃないか』って。で、そのときに掛け声はそれにしよって。満場一致で」
「……ちなみに、その意見だしたのは?」
「センターの柿谷です。ねっ」
「エヘヘ……」
「……」
イカれてるよお前んとこのセンター。
「とにかく、どうでしたかアンパンマンは?」
「……アンパンマンだったよ」
それ以上に言うことはない。
「勇気リンリン」
「うるせーばか!」
お前らしっかり梨元イズム継承してるんじゃねーよ。
「……ふぅ」
やりきった感を出して座るキャプテン本田。
「えっ……そんだけ?」
「はい!」
「……本当に?」
「はい!」
お礼は!?




