ライブ(2)
なぜかアンパンマンの掛け声を聞いた後、控え室を後にしてライブステージに向かう。関係者席は後方の全体を見渡せる席。ピザマンの二村さんと一緒に席につくと、ファンの人たちが「二村さーん」と声をかけてくる。
そして、全然声をかけられない、俺。
……全然、人気ない。
オープニングが始まり、モニターにメンバーが紹介されていく。徐々に盛り上がって行く雰囲気に自然と胸の鼓動が高まっていく。次々と流れる音楽に、合いの手を入れる観客たち。
ドーン。
激しい破裂音とともに坂道46が登場。
「騒げー!」
キャプテンの梅井の掛け声とともに、ライブが開始された。
一曲目は、彼女たちの代表曲『人形征服』。かっこいい振り付けとともに、そのボルテージは上がりに上がっていく。
その後も、次々と曲が流れて、彼女たちのかっこよさと可愛さが入り混じったハーモニーは観客たちをドンドン惹きつけていく。
その後、凪坂46も登場。
『ナギナギで行こっ♪』が流れ、彼女たちが踊りだす。それは、坂道46よりもつたなくて、ぎこちない。
でも。
それでも、必死になって全力で踊っている彼女たちに心を打たれる。
イキイキとした表情をしている彼女たちを見て胸がチクリと痛む。
こんな楽しそうな顔ができる子たちだったのかと。
こんな全力が出せる子たちだったのかと。
梨元さんの言う通りだった。彼女たちに対する力不足を嫌でも思い知らされる。こんなに心から笑っている表情を、収録では一度だって見たことがない。こんなにも全力で頑張っている姿を、一度だって見せたことがない。
正直言って、嫉妬した。
自分が全力で頑張ってきたことはなんだったのかと、彼女たちに問いかけたい気分だった。
湧き上がってくる感情は怒り。
どこが悪い? どこを直せばいい? どうして同じ顔をしてくれない? どうして同じように笑ってくれない? どうして全力で臨んでくれない?
自分の実力のなさを棚上げにして。
そんな風に責め立てたい気分にも駆られる。
そして、不思議と。
悲しい気持ちになった。
次々と曲が終わっていき、とうとう最後の曲になった。坂道46も凪坂46もやはり全力で、全力の笑顔で踊りきり、挨拶をして去って行った。
やがて、アンコールの声が会場に木霊する。それに応えるように再び彼女たちが登場。その弾けるような笑顔は、猛烈に眩しかった。
『お笑い』とは、貧弱なものだと思う。
そう思った。
いや、そう思わされた。
心から笑う彼女たちを見て。
『笑う』と『笑わせる』ことの違いについて思った。
芸人は人を笑わせる。それは、非常に難しいことだ。どれだけストイックにしても、人を笑わせることができる芸人は少ない。しかし、そうして得た笑いも、『笑う』ことには敵わない。
自分たちが頑張ったすえに発生する笑顔は誰よりも眩しい。人に笑わせられることなく、心から笑うことができる人は美しい。そして、それこそがアイドルなのだと。
そのステージでは、彼女たちは紛れもなくアイドルだった。




