ファンの流儀(3)
チャッチャッチャーラーラ、チャッチャッチャッチャッラー♪
『ファンの流儀』
松下総一郎
年齢 32歳。
職業 会社員
生きがいは――
『凪坂46ファン』
今夜は、凪坂46に命をかける漢の生き方を密着した。
・・・
【前回までのあらすじ】
ついに、凪坂王国の野外ライブが開幕。
・・・
『ライブ映像は、権利関係で、割愛させていただきます』
「いやぁ、最高でしたね! まさか、あんな展開になるとは……これなら、遠くの席のファンも楽しませられる。いやぁ、まさかでしたね。この映像が流れれば……皆さんのアイドル像が覆る可能性がありますよ」
興奮冷めやらぬ様子で語る松下に対し、最終的にライブ運営サイドへの根回しをすっかり忘れていたスタッフは、
彼の表情を、まっすぐ、逸らした。
「じゃあ、帰りましょうか。いやあ、本当に、この映像が流れたら……日本、変わりますよ」
何度も何度も、そう連呼する松下に、最終的にこのライブ映像が流れないことを知っているスタッフは一同、
深く、頷いた。
そのまま、人込みに流れて駅へと向かう。
「帰り? もちろん、鈍行で家までと、言いたいところですが」
『東京』
「地元まで帰るには、もう終電がないんです。だから、遠回りに見えても、宿が確保しやすい東京に行く。なんせ、これがありますからね」
松下は、またしても、青春18切符を取り出す。彼は、それが万能ではないことを知っている。だからこそ、可能な限り、それを使いこなす。得意げな様子で、彼は満員電車の中へと消えて行った。
・・・
新宿のカプセルホテル。
「漫画喫茶と言う手もあるんですがね。やはり、そこは年齢を考えて。基本的に、カプセルホテルは居心地がいいんです。充電器も完備してるしお風呂にも入れる。これで、今日の1日の疲れを全て癒します。これで、4千円。愛知→山梨→東京→愛知を、実に1万円以内で行けた計算になります」
またしてもドヤ顔を浮かべる松下。
それだけ節約にこだわりを見せる彼にスタッフがある提案をする。
『ホテル代、払います』
そう申し出たのは、ライブ運営サイドへの根回しをすっかり忘れていたディレクター。彼は、仮に経費でこのホテル代が落ちなくても、最悪自腹で松下のホテル代を賄う、覚悟を決めた。
「いえ……先日言ったように、今回の報酬は一円も、貰うつもりはありません。それを、貰ってしまっては、俺は彼女たちのファンではなくなる」
チッ
その、あまりの潔さに、ライブ運営サイドへの根回しをすっかり忘れていたディレクターは、
静かに舌打ちをした。
「俺がこの仕事を受けたのは、彼女たちに少しでも光を与えたい。その一心なんです。だから……報酬は、彼女たちのライブ映像を流すこと。本当に、それだけで十分なんです……それが、俺の……『ファンの流儀』ですかね……ははっ」
チッ
スタッフ一同、そんな松下の想いに、
舌打ちした。
そして、ライブ運営サイドへの根回しをすっかり忘れていたディレクターは、松下に答えた。
『善処いたします』
チャッチャッチャーラーラ、チャッチャッチャッチャッラー♪
FIN
*
「……」
「あっ、新谷さん。来週から、また再開ですね」
「木葉……今、俺に、話しかけるな」
今後も、このクソスタッフと、やっていくなんて……




