第14話 ドッキリ
それから紆余曲折、権謀術数を経て。
今、俺はパンツ一丁で彼女たちの楽屋(待合室)のロッカーにいる。
「俺は、こんなことをするために……芸人になったんじゃないんですよ!」
誰もいない凪坂46の待合室で、叫ぶ。
テメーに叫んでるんだぞ、外で番茶すすってる、クソマネージャー!
「はいはい。私は、わかってますよ。あなたは梨元プロデューサー一筋ですもんね」
「木葉ちゃん!? 君は壮絶な誤解をしているな!?」
あれから、どれだけ言い訳しても、『私は、わかってますから……ただ、TPOをわきまえてくださいね。あと、今後、私には触らないでくださいね』と全然わかっていないであろう回答を繰り返す。
「あっ……そろそろ来ますよ。あなたは興味ないでしょうけど」
「君はやはり誤解しているな!? 僕は、女の子が、大好きなんだよ!?
「……男か少女かって……想像を絶する変態ですね。まあ、どうでもいいんですけど。じゃあ、頑張ってくださいね」
「……」
吐き捨てるような罵倒を口にし、木葉は楽屋を後にした。この先、彼女への誤解が解ける日は、来るのだろうか。
その数分後、凪坂46こと、ポンコツ娘たちが入ってきた。
「お弁当♪ お弁当♪ お弁当♪」
食いしん坊娘の異名をとり、自称宇宙の胃袋を持つと言われる、フードファイター冬月楓が、いの一番にお弁当コーナーに向かう。
……ここのタイミングかな。いや、でも……まだ早いな。視聴者は、ドッキリのリアクションももちろんだが、普段のリラックスした彼女たちも見たいはずだ。それなら、もう少しゆっくりして、尺(時間)をとってもいいだろう。
「はい、レンコン」「私もあげるー」「真尋って本当にレンコン好きよねー」「あっ、ゴボウもある。はいー」「私もー」「私も私もー」
「わ、わーい! いっぱいだぁ」
……おい、いくらなんでもあげすぎだろう。いくら能條が根野菜大好きだと言っても、もうレンコンとゴボウで弁当埋まってるぞ。しかも、涙目になってるし。
「ねえねえオダママ、モノマネやってモノマネやってー」
柿谷芽衣(うんばば娘)が、甘えながら、腕を掴む。
「えーっ、もう……しょうがないなぁ。じゃあ、少しだけね」
「うん!」
こ、これはお宝映像じゃないのか。視聴率UPの期待がーー
「鬼鬼マンモスー!」
・・・
「「「……」」」
いや、俺のギャグーーーーーーーー!?
「……はい、ということでね」
な、なに無かったことにしてんだオダママ。なんなら、俺が滑ったみたいじゃないか。(決して、俺のギャグがつまらないわけではない)
しかし、これ以上は、色々と危険だ。
そうそうに出ていかなければ……
・・・
「……」
い、いかん! なんか……緊張してきた。考えてみたら、パンツ一丁で、女の子たちに突撃する経験なんてないもんな。落ち着いて、考えてみたら、かなりの恐怖をかんじる。
「……」
こ……怖い! なんだ、この圧倒的な恐怖感は……色々と終末を迎えそうな予感。圧倒的に色々と終わってしまいそうな予感。この感情は……なんだ……
「……」
な、涙……俺は……涙を流している……のか? どんな時でも、命がけでやってきたつもりでいた。でも、それでも歯を食いしばって、これまで泣くことなんて、なかった……その俺が……泣いている? なんだ、この涙は……
「……っ」
ヤバイ……止まらない……なんなら、えずいて、このまま嗚咽して泣きくずおれてしまいそうだ。なんなんだこの悲しさは……なんなんだ……
「……」
やるしかない。
逃げちゃダメだ。
「……あのおこちゃをですね、ゆがいて、で……」
ああ、あの柿谷芽衣(うんばば娘)が無邪気に夢中で訳のわからない話をしている……そんな中、俺は、パンツ一丁で……
「……ちゃダメだ」
逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ!
「う……うおおおおおおおおおおおおおおおっ」
ガチャ。
続く……のか?




