第12回 収録後
*
「……ヒック……ヒック」
「じゃあ……また来週ー!」
*
プチッ。
第3回の放送を見終えてテレビの電源を消した。収録前に楽屋で前回の番組を確認するのがルーティーン作業。だが、さすがに今回は辛過ぎる。熱くなっているスマホの画面をチラ見する。
『姫花ちゃんの特技をディスったな!』『誰が杉田玄白だ殺すぞ!』『鬼鬼マンモスー!鬼鬼マンモスー!』『あのスプーン曲げはどう見たって超能力じゃねーかー!』『あの空想モノマネの価値がわからないって本当にお前の脳みそ腐ってる!』『耳が動けば万々歳だろうが!』『うんばばばばばばばっ! うんばばばばばばばばばばばばっ! うんばばばばばばばばばばばばばばっ!』
「……」
そっと、スマホを、置いた。
俺は、ツイッターなど、見なかった。
「あっ、新谷さん。収録よかったですよー」
「木葉……今、俺に話しかけるな」
緊張とか消極性がどうとか、まったく関係ない。どうなってんだアイツらの人間性は。
そして、どうしてくれるんだ俺のアツい想いは。
「そんなことよりーー」
「梨元さんが呼んでんだろ!? よし、行くよ! 行けばいいんだろう!」
なんなんだ、収録が終わったら必ず呼び出しやがって。
*
コンコンコン。
「失礼しまーす」
「いや、僕はなにもしてませんよ。あなたの采配がバシッと決まったまでのこと。そうでしょう……ええ、それじゃあ」
中に入ると、梨元プロデューサーが楽しそう通話を終えた。
「誰と電話してたんですか?」
「西野監督。先日は『ありがとうございました』って」
「……それってサッカーの?」
「うん」
・・・
いや凄いな!
「なに話したんですか?」
「いや、世間話だよ。W杯も大成功だったし、私が選んだシフトも……おっと」
「えっ? えっ? えっ?」
こ、このオッサン……まさか。
あんたがあの布陣を!?
「まあ、その話は置いておいて。そろそろクリスマスだよ」
「は、はぁ」
『だからなんだ』というツッコミを、『ザ・権力』の前で必死に抑え込む。
「ときに、新谷君。君は欲しいものはあるかね?」
「欲しいものですか……あんまりパッと思い浮かびませんね。梨元さんはなにかあるんですか?」
「まあ、最近ちょっと気になってるものはあるよ」
「なんですか? 俺で用意できるもんだったら、プレゼントしますよ」
「本当かい?」
「もちろん」
少し高めのものでも、この人にはプレゼントする価値がある。100パーセント純度のゴマスリだが、欲しいものがもらえるのは、それでも嬉しいものだ。
「ちょっと高いけど」
「いいですよ、ちょっとぐらいなら」
「じゃあ……レアル・マドリード」
「それはプレゼントできませんね!」
こ、このオッサンは銀河系軍団を買おうとしてんのか。
あらためて、俺はとんでもない人と話をしている。
「はっはっはっ……洒落だよ」
「一般の人だと洒落でしょうけど、あなたの場合は洒落にならないことを自覚してください!」
「ところで、消費税のことってどう思う?」
こ、コロコロと話が変わるなこのオッサンは。
「消費税……ですか。まあ、10%にするのは仕方ないですけど、もうちょっと遅くてもいいかなって思いますけど」
「ふむ……」
「まあ、僕は政治家じゃないですから」
と言うより心底どうでもいいんですけど。
「ちょっと、待ってくれ」
梨元プロデューサーはそう言って電話を掛けだす。
「あっ……もしもし、安倍総理ですか?」
!?
「ちょ……えっ……」
「消費増税の話ですけど、クリスマスも近いし延期した方が無難かと。えっ? いや、ちょっと延期したほうがいいっていう男がーー「嘘です! 嘘でーす!」
強引に電話を奪いとって、電話を切る。
「超強引に政治的大決断をさせんでください!」
俺の発言で日本が揺れるとかゲロ吐いちゃうから。
「いやぁ、冗談冗談」
殺すぞ!




