第11話 第3回収録
「さあ、始まりました。凪坂ってナギナギー! 司会は新谷がお送りします。そして、彼女たちが……凪坂ちゃんだぁ!」
「「「……」」」
そろそろ、なんか、喋れよテメーら。
……なんて、いつもなら思っていた。でも、気づいた。アイツらを楽しませることだって俺の仕事だ。そして、俺はお笑い芸人。人を笑わせるのを生業とする職業。
持ってきたよ……とっておきの、ほぐしネタ。
「いやー、先週までは君たちの自己紹介をしてきましたけど、そもそも俺の自己紹介をしてなかったな。失礼失礼。ご存知、漫才とコントの鬼、新谷大二郎でーす……鬼鬼マンモスー!」
「「「……」」」
・・・
う、嘘だろお前ら。緊張してる通り越して、俺がスベってるみたいじゃないか。(俺は、決して。スベっていない)
「さ、さて、今日の企画は……メンバーの特技披露大会ー!」
「「「……」」」
イ、イェーイ、とか言えよ。俺、完全に、ピエロじゃないか。
い、いや。こいつらは緊張しているのだ。緊張をほぐしてやることも俺の仕事だ。さっきそう理解したじゃないか。そうだ、頑張れ新谷大二郎。
「……誰か、なにか特技ある人?」
「「「……」」」
お前ら……いい加減にしろよ。
……いかんいかん! そんな想いを抱くことがいかんのだ。緊張をほぐすのが俺の仕事なんだから。
「……あっ」
「おっ、柿谷、なにかある?」
「えっ……と……やっぱりいいです」
……俺、こいつら、嫌い。
しかし、どうやら緊張だけじゃなく、本当に消極的なメンバーが多い。まさか、バラエティに出て発言したくないアイドルばかりとは思わなかった。そんな小娘たちには、挙手制というのがよくないか。半強制的に発言させないと、こいつらはなにも言わない。
そう思ってリストを開く。
若干茶髪が入ったショートカットの子がいいか。
*
自己紹介
『こらこらぁー、みんな、言い過ぎだぞぉー! ん? 言い過ぎ……イイスギ……いい、杉田ー! 凪坂46の花粉症娘、杉田姫花です!』
*
……花粉症娘ってなんだよ。でも、無駄に上手い自己紹介だな。
しかし、杉田姫花……杉田……杉田か。
「杉田《《玄白》》、お前スプーン曲げって書いてあるけど?」
「あっ……そういうの要らないです」
……妙なスルースキルを披露するな!
「杉田姫花、とりあえず、てめースプーン曲げてみろ」
「はい!」
おっ、いい返事だな。
「ふんっ!」
!?
「曲がりました!」
「死ぬほど掛け声出してたけど!?」
どう見ても、力任せで曲げてるように見えたけど!?
「……ダメって書いてませんでした」
「ふ、普通は超能力で曲げるんだよ」
「……あっ、そっちの奴ですね」
説明不足みたいな感じにするな!
「じゃあ、行きます……」
プルプル。
プルプル。
め、めっちゃ力入ってるじゃないか。
「ふぅ……曲がりました!」
「力入れれば当たり前だけどな! 他! まともな特技持ってるやつ!」
「「「……」」」
「よし、いないな。いないなら当てるぞ!」
ええっと……そこの肌が白くて少し揺れている美少女が長島世羅か。
こいつの情報は……
*
自己紹介
『なーがしまままま、なーがしままままま、シマウマ大好き長島世羅です!』
*
なんでこいつらの自己紹介はエッジの効いたやつしかないのだろうか。
「長島! いけるか?」
「はい!」
じ、自信満々じゃねぇか。
「よーし、どんな特技だ?」
「耳が動きます! ほらっ!」
せ、世界一くだらない特技じゃねーか。
「他には!? 友達に自慢できるような凄いやつ!」
「「「……」」」
「いないんだよな! わかってる……もうわかってるぞ!」
俺はこれから一生お前たちを指名していくしかないんだな。
ええっと、そこの黒髪のボブヘアの美女は……織田媽媽か。変わった名前……中国出身かな。
*
自己紹介
『凪坂46の聖母? それとも、新宿の占い師? どちらにしろ、ママ、織田媽媽です!』
*
こいつらは……変な自己紹介しかない!?
「織田媽媽。お前、やれるか?」
「はい! モノマネをします!」
「……」
当てたら当てたで自信満々で、なお不安。
……いや、こいつらを信頼しないでどうする。俺は公式お兄ちゃんだ。俺が信頼してやらないで誰が信頼できるというんだ。
「おっし、織田媽媽。やってみろ!」
「じーんせーいーごじゅーねん、うたーかーたー……」
「ちょ……ちょっと! 誰の真似?」
「織田信長です!」
織田なだけに!?
「……ちなみに大河ドラマの?」
「空想です!」
「……」
誰がわかるんだよそれ……
「オー、コレガクローフネーデスーネー!」
「誰!?」
「ペリーです!」
「なんでペリーが黒船見て驚いてるんだよ!?」
そして、もはや織田だからとか関係なくなっている。
「……ヒック……ヒック」
な、泣きやがった。
……なんだよ、俺が悪いのか? そんな目で見るんじゃねーよ。
「じゃあ……また来週ー!」
悲劇ともいえる収録は幕を閉じたが、数ヶ月後、この空想モノマネが空前絶後のブームになることを当時はまだ知らなかった。




