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3件目 このよろず屋に親戚の幼女が遊びに来た件 2/3


 俺は水の力を借りる事で辛さを何とか和らげる。

 そして心に余裕を作った後、突然の来訪者である茜に声をかけることにした。


「おい、何しに来たアルバイター。昨日と今日は休みだったはずだぞ」

「ちょっと近くを通ったので寄り道しただけですよぉ」

「何だ?今から買い物にでもいくのか?」

「そうですよぉ。服を買いに行くんですぅ」

「ほぉ……服を買いに行くのか…」


 俺は茜の言葉を聞いた後、全身のコーデを確認してみた。

 肩にかかっている鞄は可愛らしい。だが、身に着けている服はまだ男っぽい。


 これから女服でも買いに行くのだろうか?

 何を買いに行くのか…ちょっと気になってくる。


「それにしてもこの子……すごくかわいいですねぇ」


 俺が茜のコーディネートを確認していると、茜は花音の方へ視線を向けた。

 両ひざをついて目線を低くし、花音の頭を優しく撫でる。

 花音は無抵抗のまま撫でられていく。その表情は何だか嬉しそうだ。


 そんな様子を見た茜はゆっくりと花音を引き寄せていき、優しく抱みこんだ。

 ふんわりと柔軟剤の香りがする男物の服。……ちょっと違和感ありますね?


「はぁ…幸せですぅ」

「お姉さん…いい匂いです。それに…あったかいですぅ」


 茜と花音―――お互いが幸せそうにハグをしている。

 やはりこの幼女は懐きやすいようだ。俺に懐いたのも珍し事ではないかもしれない。


「私は恒丸 茜って名前ですよぉ。茜って呼んでくださいねぇ?」

「わたしは初宇部 花音です。花音でいいです」

「花音ちゃん、よろしくねぇ」


 茜は再度花音をゆっくり抱き寄せていった。

 また幸せそうにお互いがハグをする。……何回繰り返すつもりだこいつら。


「あっ!そういえばお嬢!質問なんだが…」

「いきなり何よ?やぶからぼうに?」

「花音ってやたら勘が鋭くないか?もしかしてギフトか何かが関係あるのか?」


 とりあえず俺は茜と花音が繰り広げるハグ合戦を放置する。

 そしてゲームの時や餃子ロシアンルーレットの時に発揮された花音の異様な勘の良さ―――その理由に関して確認することにした。


「うん、それはあるわね。花音のギフトは『見分ける』才能……簡単にいえば判別する能力がすごいってことよ。例えば宝石なら本物か偽物かを判別可能ってこと。勿論知識はいるだろうけど」

「それもまた凄い才能じゃねぇか。どれくらい凄いかは分からんが」


「うーん……そうねぇ。例えば……あっ!仁、さっきの餃子に何か仕掛けはしていたのかしら?」

「え?してねぇけど」


「表情が怪しいです。多分嘘です」

「――ぇッ!?」


 ま、まさかこの幼女……表情での真偽チェックもできるんですか?


「花音。他には何か気づいたことある?」

「ひとつだけ手の込んだあやしい餃子があったです。1回目に瞳お姉ちゃんが当たったやつです」


 しかもこの幼女…なんとなく気づいていた!?


「お、おいおい花音……言いがかりはよしてくれよ?」

「そういえば最後のゲームの流れ……あれは少しおかしかったわね?最後の餃子もとても辛そうだったし」

「――ッ!いや……実は俺もワサビ苦手でな……」

「ふーん」

「あっ、仁は嘘をついてるです。今ので確信したです!」


 ―――なッ!?バカなッ!!


「っていってるけど……そうなの?」

「…ッ…んなわけねぇじゃねぇか…」


 ヤバい…また冷や汗が……。

 何でこんなに汗を湧き出させなきゃいけねぇんだよ…。


「因みに花音はね?私がその怪しい餃子を取りそうになった時に触って教えてくれてたの。凄いでしょ?」

「何だと!?い、インチキじゃねぇか!」


「そう!インチキよ。ならアンタはインチキなんてしてないわよね?」

「―――ッ!!!な、何を言って…」


「そこの奴隷!何を考えながら餃子を用意したか包み隠さず答えなさい!…正直に…ね?」


 ――ッ!!!

 クッソッガァァァァッッ!


 そして俺は正座をし、激辛餃子に託した思いの全てを語っていった。




◇◇



 

 俺は全力で反省をした所、なんとかお嬢から許しを得ることに成功した。

 そして謝罪会見が終わった後、花音の能力の高さを改めて見せてもらう運びとなった。


 まずお嬢が間違い探しの本を花音に見せる。

 するとすぐに見つかる間違いからどれだけ探しても見つからないような細かい間違いまで全て当ててしまった。

 さらにお嬢は持っている本物の宝石とアクセサリー用で購入してあった市販のレプリカを並べてみた。

 するとそこまで時間をかけることもなく、本物の宝石を当ててしまった。


「わたしは宝石商の1人娘です!これは当然です!」

「すげぇなこの幼女……才能は本物だ。宝石商でもヒヨコ鑑定士でもやれるんじゃねぇのか?」

「できそうですねぇ。花音ちゃん凄いですぅ」

「えへぇ…そう…ですぅ?」


 茜がまたしても花音を抱き寄せて褒め始める。

 花音はまた気持ちよさそうに笑顔で抱き返し褒められていく。


 それにしても…めっちゃ嬉しそうだなこの幼女…。

 どんだけ茜が気に入ったんだよ…。

 

「ねぇ茜。ここに寄ったなら丁度いいわ。仕事が片付いたから商店街でお買い物とお茶でもしようかなと思ってたんだけど………一緒にどう?」

「あっいいですねぇ。おススメのお店もいくつか知ってますので行きましょうぅ。…花音ちゃんも一緒に行きますかぁ?」


「………今日は……仁と遊んでいくから大丈夫です」

「そうですかぁ…残念ですぅ」


「仁は続けて花音と遊んであげて。21時には花音のお迎えが来るから、それまでには遊びのキリをつけなさい」

「あぁ、分かった」


「じゃあ茜。行きましょうか」

「いってきますねぇ」


―――バタンッ


 お嬢と茜が外出していった。

 だが花音は一緒には行かないらしい。


 俺は一緒について行くかと思ったが…そんなに俺と遊びたかったのか?


「仁!いいことを思いついたのです!」


 突然、花音が俺の方を向いて口を開いた。

 眩しいくらいの良い笑顔が俺の方を向いている。


「いきなり何だよ?」

「仁は知ってるです?明日は瞳お姉ちゃんの誕生日です!」

「―――ッ!!まじかよ!?」


 お嬢の誕生日。

 パーティがあった時に誕生日が近いってことは聞いていた。

 だがいつだったかはよく覚えていない。…忘れただけかもしれないが。


「わたしのお家の敷地内に山があるです。ちょっと前にその山の斜面の岩場で宝石の原石を見つけたです。たしかガーネットです。それをプレゼントとして採りにいくです!仁が手伝ってくれれば前から考えていた計画がうまくいくです。これは運命なのです!!」」


「本当か!…で、でもそれでいいのかよ?」


「問題ないです~。わたしと一緒に行けば通してもらえるから、仁が掘ってわたしが加工するです。簡単な加工ならお父さんに習ったからできるんです。英才教育のたまものです!」


 自分で英才教育って……つか宝石加工もできるのかよこの幼女は!

 とんでもないハイスペック幼女だと思っていたが……本当にとんでもない幼女だったじゃねぇか!


「因みに何か計画していたのか?さっき計画があったって…」

「わたしがお母さんにプレゼントする計画です。仁は瞳お姉ちゃんにプレゼントできるのです!まさに一石二鳥です~」

「花音はお母さんにプレゼントするのか。お母さん思いじゃねぇか。自慢の娘だな」


「…ッ……そうです。でも違うです。そうなりたいからです…」


 俺の言葉を聞いた花音は、何故か少しだけ元気を無くした。

 さっき程までのテンションが嘘のように、大人しくなってしまっている。


「花音?どうした?」

「そういえば…仁には原石を採りに行きたい理由をお話ししてなかったです」

「あ、あぁ…確かに聞いてはいないな」


 花音は落ち込むような表情を変え、俺の眼を見上げてきた。

 先程の不安そうな印象はなくなっており、真剣な表情を見せていた。 


「わたしのお父さんは宝石商をしているです。そしてわたしの本当のお母さんは今、天国なのです。だから今のお母さんは二人目で、二人のお姉ちゃんもその時にできたです。寂しかった時にできたのでとても嬉しかったけど、日がたつにつれて分かってしまったのです。お母さんもお姉ちゃんも……わたしのことをあまり見てくれていなかったことに―――」


 花音は元気とまではいかないが、比較的平然とした声で話を続けていく。


 あまり期待されていないこと。

 あまり頼りにされていないこと。

 あまり意識されていないこと。

 あまり愛されていないこと。


「―――顔を見るとなんとなく分かってしまうのです。みんなわたしと話す時は笑顔です。でも顔は笑っていても心は笑っていないのです。どこか他人で…いつもお荷物です。だから何もできない子供じゃないって…証明してやりたいのです!」


 花音は今の思いの丈を言葉にして吐き出した。


 最初は淡々と話をしていた花音。

 だが話が進むにつれ、次第に声量が大きくなっていく。


「別にいいじゃねぇか?その年で期待する親も姉もどうかと思うぜ?」


「わたしが嫌なのです!早く認められて…”凄い”って褒めてもらって…今のお母さんにもお姉ちゃん達にも…もっとわたしを見てもらうのです!!」


 花音が声を少しだけ荒げる。

 その言葉は駄々をこねる子供の言葉ではなく、自分の存在を認めさせたいと願う心の声だった。


 少し前の俺と似てる気持ち。

 世の中で必要とされず、世の中が俺を認めていないんじゃないかと思っていた時期の俺と。


 複雑な家庭環境もあるので俺が口出しすることじゃない。

 背伸びをする必要もないし、その内自分で乗り越えていくべき事かもしれない。


 今俺が何かを言うべき事ではないと思う……だけど…それでも…。


「そうか…じゃあこれは俺の独り言だ。俺は甘えん坊でいたずら好きでもいいと思っている。黙っていても大人になっていくんだ…辛いなら無理して背伸びすることではないだろ。子供じゃなくなるその時に…自分に何ができるかを考えればいい。…俺はそう思っている」


「仁は……独り言が長いです」

「わ、悪かったな…。……俺は花音を認めているからよ」

「…じん…」


 俺にはもう取り戻せない時のもの…だが花音にはまだ沢山の可能性がある。

 伝わらねぇかもしれねぇが…少しでも考えるきっかけになってくれればいい。

 俺のクソみたいな人生から学べたこと……これはエゴな考えかもしれないが…。


「あっそういえば……花音のお姉ちゃん達は何をしているんだ?」


「うん?一番上のお姉ちゃんは演奏家です。才能もあって英才教育もされているので、もうプロで通用してるです。二番目のお姉ちゃんは絵が上手いです。芸術家レベルで評判が良いです。描いた絵画は高値で売れるです」

「まじかよ……すげーな…」


「もう質問はないです?」

「あぁ、大丈夫だ」


「それじゃ話は終わりにするです。さっさと行くです」

「おう、分かった!」


 俺はよろず屋を出て、自転車を用意する。

 そして花音を後ろに乗せて、山の方へと向かっていった。

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