9件目 このよろず屋に様々な秋がやってきた件 11/11
キャッチボール十分に楽しんだ俺と翔は、お嬢達のいる場所へと戻っていった。
そして、そろそろ日が暮れてくる為、紅葉狩り兼バーベキューを終わりにしなければならない。
「ほな、そろそろしまいにするで~。皆で片付けよか~」
翔が皆に声をかけ、片付けの指示を行っていった。
お嬢達は紙コップなどの使い捨ての物をビニール袋に纏める作業。
翔はテント等の大きな物の片づけを始める。
俺は使った網の水洗いを任された為、手洗い場を目指して歩いていく。
そして清流沿いの一画に設けられた手洗い場で、網洗いを始めていった。
網にこびり付いた手強い焦げカス。
タワシに似た道具を使い、力を込めて洗い落としていく。
「………。…ふぅ…あと一枚か…」
数枚の網を綺麗に洗っていき、汚れた網は残り1枚となった。
最後は一番焦げ付きが酷い網。洗い落とすには少しばかり気合がいるだろう。
「よし、ラストスパートかけるか」
「洗うの手慣れてるやん。もうすぐ終わる?」
「ん?」
突如、俺の後ろから誰かが話しかけてきた。
俺はしゃがんだまま上半身を捻って顔を向ける。
するとそこには真依が立っていた。
少し冷えてきた為だろう…上着を1枚羽織っている。
ちょっと暖かそうな格好をしていた。
「こっちの片付け終わったから様子見に来たよ?」
「…もうすぐ終わる。ちょっと待っててくれ」
俺が急いで最後の網を洗い始めると、真依は少し離れた位置で膝を抱えるように座った。
川のせせらぎと水道水の音。
そして時折流れる優しい風が、柔らかな草の上で音を奏でる。
「なぁ仁…」
「…ん?何だよ?」
「ちゃんと毎日ご飯食べとる?栄養偏ってない?」
「多分な。…カレーが多い気がしなくもないが」
「確か瞳ちゃんってカレー好きって言っとったもんね。もう半分カレー屋さんやん」
「そこまでは作ってねぇよ。でも…今だったら開業できるかもしれねぇな」
久しぶりに二人で交わす他愛のない話。
最後の一枚が洗い終わるまでの短い間、お互いの思い出話を共有していく。
「…よし完了した。待たせたな」
「うんええよ。それより1問だけ…クイズ出してもいい?」
「クイズか?別にいいぞ」
俺は洗った網を持って立ち上がり、真依の方を見下ろした。
一方真依は立ち上がろうとはせず、座りながら俺の顔を見上げてくる。
「じゃあ問題。”目に見えないけどとても大切なもの”ってなーんだ?」
「何だよそれ……クイズなのか?」
俺はよく分からないクイズに対し、一応少しだけ考えてみることにした。
目に見えないもの…それは沢山ある。
それでも”大切なもの”を選択すると…大体回答は絞られてきた。
「……とりあえず分かった」
「ほんなら……答え聞いてもいい?」
「……空気だろ?」
「ぶぶー、違いまーす」
両腕をクロスし、全力で不正解を表現された。
その表情は少しだけ、ドヤ顔に見えなくもない。
「はぁ?んじゃあ何だよ?」
「正解は……"絆"でした~」
「んなもん分かるかッ。クイズでも何でもねぇだろソレ」
そのクイズも分からねぇし、お前の気持ちも分からねぇよ。
「そんな仁に社会の先輩から、一つだけ伝えておきまーす」
「誰が社会の先輩だ……言ってみろ」
冗談を言ってくる真依に対し、俺は"俺流のジト目"で返してやる。
「ウチと翔はずっと仁の友達。これからもずっと…大人になっても変わらんから」
「ん?そんな当たり前の事を言って……何が言いたいんだ?」
真剣な目と優しい表情で、何故か”普通”の事を言ってくる真依。
俺はその言葉を聞いた後、少しだけ首を傾げた。
「社会に出ると色々思うことが出てくるんよ。分かるかな?新社会人さん」
「ぐッ…そういうものなのか?」
大学を辞めてからプーさんだった俺とは違い、真依は短大を卒業した後、すぐに社会へと出ている。
3年近く社会の中で過ごしていると、何か見えてくるものがあるのかもしれない。
「そうやよ?これは激励。…だから頑張ろ…社会人?」
「激励ねぇ……。まぁ、頑張るつもりだし問題ないけどな」
「そう?でも、あんまり無理したらあかんからね?」
「それはお互い様だ。…ありがとな」
「…うん」
俺の言葉に笑顔で頷く真依。
その笑顔を見たことで、心が若干安らいだ気がした。
心配してくれていたことがとてもうれしい。
確かに…”絆”は大切だ。
「それにしてもお前…顔が少し赤くね?酔ってるのか?」
「そうかも。…多分」
「程々にしとけ。それから、俺はもう戻るぞ」
俺は真依が立ち上がるまで足を止める。
やがて真依が立ち上がったら、一緒に歩いて戻っていった。
◇◇
各自片づけが終わった為、荷物を持ってバーベキュー場を後にする。
皆で駐車場まで一緒に歩いていき、そこで解散することにした。
「ほな、今日はここで解散しよか。皆さんお疲れさん」
「うん…お疲れ様。…朱梨沙と瞳ちゃんは楽しめたん?」
「私は楽しめましたよー。ありがとうございましたー」
「私もとても楽しめました。上賀さん、猪江さん、今日は本当にありがとうございました」
「瞳ちゃん…ウチも楽しかった…」
「私もありがとね。植野さん」
「あっ…はい!」
お嬢がお辞儀をして別れの挨拶をすると、真依が別れを惜しみ、お嬢に軽くハグをした。
満更でもなさそうな表情をみせるお嬢。
お互いに屈託のない笑顔を見せている。
真依と猪江さん、二人に愛でられているお嬢を見ていると、仲良くできていた事が伝わってくる。
多分かわいい後輩的な扱いなのだろうが、何にせよ打ち解けているようなので、内心ホッとした。
「なぁ仁、次は冬になったら雪山行こか?」
「またスキーかスノボでもやるのか?」
「そのつもりやで」
「ならその時季になったら連絡するわ」
「んじゃそゆことで。…ほなな」
「あぁ、またな」
俺は皆と別れの挨拶を済ませ、荷物を車へと積みこんだ。
そして忘れ物がない事を確認した後、車に乗ってよろず屋への帰路につく。
紅葉に染まる帰り道。
日が大分落ちてきた為、辺りの景色は朝の時とは違う様相を見せている。
「…ふぅ…なんか…今日はぐっすり眠れそうだ」
「……。…随分…機嫌が良さそうね?」
「ん?そりゃ当然だ。今日は色々と楽しめたからな。お嬢も紅葉狩り兼バーベキューは楽しめたか?」
「うん…そうね。景色もバーベキューも…とても…良かった……から…」
お嬢の満足そうな言葉を聞き、俺は少しだけ胸をなでおろした。
"お嬢を楽しませる"という俺の裏目標…どうやらそれが達成できたようだ。
「そうか!なら良かった!俺もお嬢を誘ったかいがあったってもんだ。…な?」
「……すぅ…」
「……ん?」
「……すぅ……すぅ……」
「…おっと…これは…」
助手席の方から、寝息の様な音が聞こえてきた。
俺はチラッとお嬢の横顔を見てみる。
すると、眠る寸前の状態のお嬢が扉にもたれかかっていた。
今日の催しは俺にとっては慣れたこと。
だがお嬢にとっては慣れない事の連続だったかもしれない。
慣れない事の連続…少し疲れていたようだ。
俺はそれから無言のまま、車をずっと走らせていく。
そして最近の秋に関する出来事について、少しずつ思いを馳せていった。
食欲の秋。スポーツの秋。
読書の秋。行楽の秋。
秋の楽しみ方は色々ある。
今年の秋の出来事は、去年よりもずっと…充実しているように感じられた。
「……。…なぁお嬢…起きてるか?」
「……ん……なぁに…?」
ダメ元で発した俺の言葉に、お嬢が僅かに反応する。
瞼を重そうにうっすらと開け、眠たそうな声で答えてくれた。
「…今日の催しは…良い思い出になったか?」
「…うん…。仁の…言ってた通り……」
「…そうか……」
今日の催しはとても楽しい時間となった。
だが"楽しい時間"は終わりを迎え、俺の思い出となり……最後に僅かな虚しさを胸の中に残してしまう。
「…なら…」
ただその僅かな虚しさは、ただの虚しさなんかではなかった。
俺に"もう一度来たい"という思いを、胸の内から湧き上がらせるものだった。…だから…。
「…来年も一緒に…来れたらいいな」
「…ッ!…ふふっ………うん…」
お嬢は一度頷いた後、ゆっくりと瞼を閉じていく。
その様子を横目で見た俺は、静かに車を走らせた。
紅葉と夕焼けが山肌に真っ赤な錦を飾る。
徐々に夜へと移りゆく美しい山景の中、二人はよろず屋へと帰っていった。
そして今日もよろず屋の1日は、楽しく過ぎていったのであった。
9件目を読んで頂きありがとうございました。
仕事とか色々で半分死んでいた為、投稿が久しぶりになってしまいました。
最近土日をフルに使って……やっとよ。
では早速余談の時間です。
今回は書こうとして書かなかっ…書けなかった茜の学園祭裏設定をほんの少しだけ補填します。
まず茜のクラスは踊るグループと出店グループに分かれている感じです。
踊るグループはクラスで一番ダンスがうま子ちゃん、出店グループのリーダーはクラスの副委員長様が率いていきます。
因みに副委員長様は茜と仲が良く、茜の腹をつまんでくるのは大抵この娘です。
ふざけた顔で「…ほぅ…凄いな」とか言います。
茜はダンス仲間と本番を踊りきった後、その娘と展示系出し物や○○喫茶店系を回っていきます。
そして最終的に出店で食べ歩き、結果少しだけ戻ります。…ぽっちゃり好きの方は安心してください。
という感じのハートフル?ストーリーがいいなぁと思っていましたが……構成上書ききれん!!バッサリ!…です。
もし編集様がいたらこっちがバッサリですな(ワハハ
まぁ、話の持っていき方とか区切り方はちょっと工夫するとしよう。
(仁の高校生回想は…まぁいいか…)
あと部分の文字数3000~5000目安で調整しようかな。……ちょっと多い気がしてきたし。
さて次回……とその前に、恒例のお絵描き(落書き)タイムです。
ラフのやつをちょろっと加工して用意します。…今回は2つを予定。
その後は10件目ですね。
よろず屋の隣町での話になります。……久しぶりすぎて話が長くなりましたね。
また更新した際に読んで頂ければ幸いです。それでは!
★今後のクオリティ向上の為、惜しいところがあれば是非お聞かせください_(._.)_★




